誤解されているスティーブ・ジャクソン

 たまにはゲーム関連のトンデモな話題など。

 今度の震災で、「アメリカの人工地震による攻撃だ!」と主張するトンデモさんがいっぱい現われている。

 たとえばこちらの人は、深海掘削船「ちきゅう」に疑惑の目を向けている。この船が深さ10kmでも掘れるというのを聞いて、「穴を掘って原爆を仕掛けたのではないか」という妄想をふくらませているのだ。「ちきゅう」関係者に対する中傷だと思う。

http://quasimoto.exblog.jp/14462938/

 ちなみに、「震源の深さは10km」というのは初期の報道で、現在は24kmと言われている。

 ところで、このページの後半に、『Illuminati: New World Order』のカードが出てくる。ゲーマーの方には今さら解説は不要だろうが、世にはびこる陰謀論をパロディにしたゲームである。

スティーブ・ジャクソン・ゲームズの公式サイト

http://www.sjgames.com/inwo/

 ところが、陰謀論者にかかると、このゲーム自体が陰謀組織の計画を暗示したものとみなされちゃうのである。

 そのきっかけは、『New World Order』の中にある「Terrorist Nuke」と「Pentagon」というカード。ニューヨークのツインタワーを思わせるビルが爆発し、ペンタゴンが炎上している。

 1995年に発売されたゲームに、6年後の911テロが予言されていた! これこそイルミナティの陰謀が実在する証拠だ! というので、陰謀論者たちの注目を集めてしまったのである。

 日本の怪獣映画で東京タワーが何度も壊されているように、カタストロフものではその土地の有名なランドマークが舞台になるというのはお約束である。テロリストが核爆弾を爆発させるというカードに、アメリカ一高いビル(当時)であるツインタワーが描かれていても、何の不思議もない。

 また、日本の浅い陰謀論者たちは知らないだろうけど、ワールドトレードセンターでは1993年に爆弾テロが起きている。地下駐車場で600kgの爆薬が爆発し、6人が死亡したのである。

 1995年と言えばまだその記憶が生々しかった頃だ。600kgの爆薬でもビルはびくともしなかったので、「ワールドトレードセンターを破壊するには核爆弾が必要なんじゃないの」と思われていたのかもしれない。

 もちろんこのカードには衝突する旅客機は描かれていないのだが、それが逆に陰謀論者の妄想をかきたてた。このカードは、ツインタワーの倒壊が旅客機の衝突のせいではないことを暗示している、というのだ。

 陰謀論者の中には、「WTCは『純粋水爆』で爆破された」と言っている奴もいるのだが、その発想のヒントになったのはこのカードではないかと、僕はにらんでいる。

 だいたい、何で陰謀組織が、極秘のはずの計画を、わざわざゲームにして発表するんだろうか。

 この陰謀説は日本にも広まっている。今、「スティーブ・ジャクソン イルミナティ」で検索すると、まともなゲーム解説のページに混じって、陰謀論者のブログがいっぱいヒットするのである。

 ちなみに、この説を日本に紹介したのは、あのベンジャミン・フルフォードだ。彼はこう解説している。

http://benjaminfulford.typepad.com/benjaminfulford/2008/11/%EF%BD%8E%EF%BD%85%EF%BD%97-%EF%BD%97%EF%BD%8F%EF%BD%92%EF%BD%8C%EF%BD%84-%EF%BD%8F%EF%BD%92%EF%BD%84%EF%BD%85%EF%BD%92.html

>1990年3月1日アメリカのゲーム会社がINWO (Illuminati: New World Order)というカードゲームを発売しようとした。そうしたところシークレットサービスや警察がこのゲーム会社を家宅捜査し、事実無根の詐欺罪で訴えた。しかし結局ゲーム会社は裁判で勝訴し、1995年にINWO (Illuminati: New World Order)は無事発売になり、瞬く間にベストセラーとなった。その後当局からなど様々な圧力がかかり発売中止となった。

>このカードが作られたのは1990年である。911は少なくても11年前から計画されていたことがわかる。彼らの企みは非常に長期的であるので、世界が良い方向に動き出していても常に油断をするべきではない。

 デタラメ。

 そもそも『Illuminati』の初版は1982年に出ている。出てくる陰謀組織の中には、「The Bermuda Triangle」とか「The Servants of Cthulhu」とか「The UFOs」なんてのがあるし、「Trekkies」「Robot Sea Monsters」「Comic Books」「War Gamers」なんてふざけたカードもあり、ジョークであることが誰にでも分かるようになっていた。(僕も当時、何回かプレイした)

 ちなみにこのゲームのヒントになったのは、1975年から出版されて大ヒットしたロバート・アントン・ウィルソン&ロバート・シェイの小説『The Illuminatus!』3部作(日本では集英社文庫より『イルミナティ』という邦題で発売)。もともと小説の人気に便乗して作られたゲームだったのである。

 このゲームはアメリカのゲーム大会〈オリジン〉で、ベスト・サイエンス・フィクションボードゲーム賞を受賞した。

http://www.sjgames.com/illuminati/

 その後、何度か改訂版が出たが、1993年、『マジック:ザ・ギャザリング』の大ヒットでトレーディング・カードゲーム(TCG)のブームが起こり、それに便乗して『Illuminati』もTCG化されることになった。それが『Illuminati: New World Order』(INWO)なのである。当然、1990年の時点でINWOはまだ存在していない。

 1990年うんぬんというのは、おそらくスティーブ・ジャクソン・ゲームズが、社員の一人がコンピュータ犯罪に関わっていると疑われて強制捜査を受けたという、これまた古参のゲーマーなら誰でも知っている有名な事件のことを言っていると思われる。

 その社員が関わっていたのは、カードゲーム『Illuminati』ではなく、テーブルトークRPGガープス サイバーパンク』の開発。強制捜査を行なったシークレット・サービスは、マヌケなことに、『ガープス サイバーパンク』の原稿を「コンピュータ犯罪のハンドブック」とみなして押収したのだ!

 当時、アメリカのゲーマーも、そのニュースを伝え聞いた僕ら日本のゲーマーも、あまりのアホらしさに笑ったものである。

 もちろん、SJゲームズは業務が妨害されたことで損害を蒙った。のちにシークレット・サービスを訴え、勝訴している。

 つまり、この一件には『Illuminati』は何の関係もない。当然、「事実無根の詐欺罪で訴えた」とか「その後当局からなど様々な圧力がかかり発売中止となった」なんて事実もない。

 SJゲームズのサイトにある解説。

THE TOP TEN MEDIA ERRORS ABOUT THE SJ GAMES RAID

http://www.sjgames.com/SS/topten.html

 この裁判についての解説。

Steve Jackson Games, Inc. v. United States Secret Service

http://en.wikipedia.org/wiki/Steve_Jackson_Games,_Inc._v._United_States_Secret_Service

 あきれるのは、英語圏の人間であるはずのベンジャミン・フルフォード(自称ジャーナリスト)が、検索すれば簡単に分かる程度のこと、僕ら古いゲーマーにとっては常識とも言うべきことを、まったく調べようとせず、デタラメなことを書き散らしたという事実である。

 そして、日本の陰謀論者たちはみんな、英語圏の情報を調べてみようともせず、フルフォードのデタラメな文章を信じこみ、コピペしているだけなのだ。

「情弱」というのはこういう連中を言うのだろうな。

http://blogs.yahoo.co.jp/mfskf932/1035574.html

http://ameblo.jp/olibanumoon-1/archive119-201103.html#main

http://quasimoto.exblog.jp/11780383

http://gokyo.ganriki.net/diary2008/d-2008-11-14.html

 当然のことながら、彼らはこのゲームを実際にプレイしたことなどない。そもそもゲームについての基礎知識もない。

 だからものすごくトンチンカンなことを書く。

Kazumoto Iguchi's blog

スティーブ・ジャクソン:”邪悪なゲーム”イルミナティーカードの制作者

http://quasimoto.exblog.jp/12916036/

>今回、偶然その作者であるスティーブ・ジャクソンという謎の人物、謎のゲーム制作者のインタビュー番組を発見したので、ここにメモしておこう。残念ながら全部米語である。この人はいつもピラミッドのついたTシャツを好んで着ていることから、資金援助しているのは、ロスチャイルド系の人々なのだろう。

 謎の人物! 謎のゲーム!

 ちっとも謎じゃないよ! あんたが何も知らないだけだよ!

 そのTシャツのピラミッドって、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのマークなんですけど!? 社長が自社のマークの入ったTシャツ着てて何が悪い!

いつわりの世界

イルミナティーカード

http://trickyworld.blog129.fc2.com/?mode=m&no=13

>カードゲームってポケモンカードとかみたいなやつ??

>小さい子が、「よーし!僕はピカチュウの100万ボルトでいくぞ〜」

>「なに〜!じゃあ僕はハッパカッターだあ!」

>「わあ。負けたあ」

>なんてやっているのはほほえましいけれど・・・

>子どもがこんな、イルミナティカードで遊ぶの???

>遊ばないと思うんだけど^^;

>じゃあ大人?

>いい年したサラリーマンが、

>「ふっふっふっ。俺は”地震計画”でいくぞ!」

>「ムム?!じゃあこっちは”第三次世界大戦”だああっ!」

>「くそおお!やられた〜」

>なんてやるの?

 そうだよ! (笑)

 大人がカードゲームで遊んで悪いかよ!

 カードゲームは子供のものだと思いこんでいるのだ。『マジック:ザ・ギャザリング』とか『モンスター・コレクション』とか知らないんだろうなあ。

>気になったのでとりあえずこのゲームを作ったスティーブ・ジャクソン・ゲームズのサイトを

>調べてみた。

>・・・なぬ?!

>このトップページ。

>しっかり「ピラミッドに例のお目々」」が

>(ちなみにスティーブ・ジャクソン個人の公式サイトにも同じシンボルが)

>この人何者なんだろう・・・

>イルミナティ

>それともただのオカルト好きのおじさん?

>怪しすぎる・・・

 いや、『Illuminati』がヒットしたから、会社のマークもそれにしたんだよ!

 思いっきり怪しい人物にされてるよ、スティーブ・ジャクソン

 まったく頭痛い。

 だいたい『ガープス』も『マンチキン』も『トゥーン』も『サソリ沼の迷路』も知らない奴に、スティーブ・ジャクソンについて語ってほしくないよ!

 しかし、考えてみれば、僕もSNEにいた頃に『ガープス妖魔夜行』とか作ってるわけで、もしかしたら陰謀論者にはイルミナティの手先とみなされてしまうのかもしれないなあ……。

 ところで『C&Y地球最強姉妹キャンディ』の2巻で、〈ファストフーズ〉の口座が「ノーム銀行のチューリッヒ支店」にあるというギャグを入れたのだが、日本全国で何人ぐらいが分かってくれただろうか。

【3/28 追記】

 自分でもすっかり忘れてたけど、昔、『RPGなんてこわくない!』で、主人公の名前を「那智イルミ」にしてたっけなあ。(「魚津カー」というのもいた)