放射線をめぐる誤解・その2

【誤解】

 放射性元素半減期が長いものほど危険。

 プルトニウム半減期がとても長いので超危険。

【事実】

 単純にそうとは言い切れません。

 ヨウ素131は崩壊して8日ごとに半分になっていきますので、80日で1/1000、160日で1/100万になってしまいます。

 一方、セシウム137の半減期は30.07年です。80日では0.5%、160日では1%しか減りません。

 しかし、よく考えてみてください。放射線というのは元素が崩壊する際に出るものなのです。

 ヨウ素131が160日間でほとんどすべて崩壊するのに対し、セシウム137が1%しか崩壊しないということは、同じ160日間で比較すると、ヨウ素131が放つ放射線の総量はセシウム137の100倍だということなのです。

 よく報道に出てくる「ベクレル」というのは、放射能の単位で、1秒間に何個の原子核が崩壊するかを意味します。たとえば「水1リットルあたり130ベクレル」というと、1リットルの水の中で1秒間に130個の原子核が崩壊していることを意味します。

 仮にヨウ素131とセシウム137を同じ量だけ水に混ぜたとすると、当然、ヨウ素131の入った水の方が、ベクレルははるかに高くなります。原子の数が同じであるなら、ヨウ素131の方がはるかに危険と言えます。

 プルトニウム239の場合、半減期は2万4110年です。人の一生を100年としても、その間に全体の0.29%しか崩壊しません。160日間ではわずか0.0013%です。同じ原子数のヨウ素131とプルトニウム239を比較すると、ヨウ素131の放射能(ベクレル)の方がはるかに高いということになります。

 使用済み核燃料の中に含まれているプルトニウム半減期と、その1kgあたりの放射能強度(単位は兆ベクレル)は、次のようになっています。

           半減期   放射能強度

プルトニウム238 87.7年    630

プルトニウム239 2万4100年  2.4

プルトニウム240 6560年    83

プルトニウム241 14.4年    3800

プルトニウム242 37万3000年 0.15

http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/23.htmlを基に作成

 同じ量でも、半減期が短いものほど放射能が強いことがよく分かります。

 プルトニウム241が一番危険? いえ、そうとも言えないのです。プルトニウム241のみがベータ線を出し、他の4つはアルファ線を出します。アルファ線ベータ線の20倍もの害を人体に及ぼします。

 量が同じであるなら、おそらく最も危険なのはプルトニウム238でしょう。

 しかし、放射性物質の影響を考える際に重要なのは、物質の量ではなく、放射能量(ベクレル)です。

 ベクレルが同じであれば、プルトニウム239はプルトニウム238よりやや危険と言えます。なぜなら、プルトニウム238の放射線は87.7年で半減するのに対し、プルトニウム239の放射線は、人間の生涯のうちにほとんど減らないからです。

 しかし、プルトニウム239、プルトニウム240、プルトニウム242に関しては、いずれも半減期が人の一生よりかなり長いので、半減期と危険度はあまり関係がないと言っていいでしょう。強いて言うなら、どれも同じぐらい危険です。

 よくプルトニウム239が危険とされているのは、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの中で最も割合が多いからです。

           重量比(%)

プルトニウム238 1.8

プルトニウム239 59.3

プルトニウム240 24.0

プルトニウム241 11.1

プルトニウム242 1.8

 プルトニウムの場合、経口摂取した場合より吸入した場合の方が危険です。消化器に入ってもすぐに排出されますが、肺に入ると、肺の中に長い間とどまって強いアルファ線を出し続けるからです。たとえば1万ベクレルのプルトニウム239の不溶性酸化物の場合、経口摂取した場合の被曝量は0.090ミリシーベルトにすぎませんが、吸入すると83ミリシーベルトにもなります。

 放射性物質の体内被曝を考える際には、その物質の半減期だけではなく、それが体に吸収される量や、体外に排出されるのにかかる時間(生物学的半減期と呼ばれます)も考慮しなくてはならないのです。

プルトニウムは微量でも危険」というのは事実です。同じベクレルで比較すれば、ヨウ素131よりはるかに危険です。

 しかし、その「微量」というのは、あくまで重量や原子の数ではなくベクレルで見た場合です。また、「半減期が長い方が危険」とも言い切れません。

【誤解】

 CTスキャンやX線撮影の影響を、経口摂取による影響と同列に論じるのはごまかしだ。同じシーベルトでも、放射性物質が体内に入ることによって起きる体内被曝の影響は、体外被曝よりはるかに大きい。

 現在の水や野菜の規制値は、体外被曝しか考慮されていない。規制値以下でも危険だ。

【事実】

 よく誤解されていますが、「シーベルト」というのは放射線の絶対量ではなく、放射線が人体に及ぼす影響を示す数値なのです。

 そのためには、ちょっとややこしいですが、「吸収線量」「等価線量」「実効線量」という言葉の違いを頭に入れてください。東大病院の放射線治療チームの解説が参考になります。

team nakagawa

「全身被ばく」と「局所被ばく」

http://tnakagawa.exblog.jp/15130037/

 よく言われている「胃のX線撮影が4ミリシーベルト」といった数字は、単にX線の強さを表わしたものではなく、体内に浸透したX線が組織や器官に与える影響を計算に入れた数字(実効線量)なのです。

 たとえば体から1mの距離に1万ベクレルのヨウ素131があると、ガンマ線によって1日に0.000014ミリシーベルト被曝します。(ベータ線はほとんど皮膚の表面で止められます)

 ところが同じ1万ベクレルのヨウ素131でも、経口摂取した場合、0.22ミリシーベルト被曝します。こちらは1日あたりや1時間あたりの数字ではありません。摂取した1万ベクレルのヨウ素131が、放射能が減衰するか体外に排出されるかするまでに受ける、被曝量の総量(実効線量)を意味します。

 なぜ経口摂取の方が危険かというと、ベータ線が体内で出続けるからです。外側から浴びたなら皮膚の表面で止められるものが、大きなダメージを与えるわけです。

 経口摂取による実効線量は、元素によっても異なります。

1万ベクレルを経口摂取した場合の実効線量

 ヨウ素131     0.22ミリシーベルト

 セシウム134    0.19ミリシーベルト

 ストロンチウム90 0.28ミリシーベルト

 ラジウム226    2.8ミリシーベルト

 ウラン238     0.076ミリシーベルト

 プルトニウム239  0.090ミリシーベルト

 放射能量(ベクレル)が同じでも、実効線量(シーベルト)が異なるのは、放射線の種類や強度、体内に吸収される量や体外に排出されるスピードが、物質によってみんな異なるからです。

 当然、水や食品の規制値は、こうした元素ごとに、経口摂取による体内被曝の量(実効線量)を元に決められています。「体内被曝が考慮されていない」というのは、ひどい誤解なのです。

 たとえば水に含まれるヨウ素131の規制値は、1リットルあたり300ベクレルです。さっきも書いたように1万ベクレルのヨウ素131を経口摂取すると被曝量は0.22ミリシーベルトになりますから、300ベクレルなら0.0066ミリシーベルトです。

 この数値の水を毎日3リットル飲み続けたとしても、1日の被曝量は0.02ミリシーベルトで、1年間で7.2ミリシーベルトにしかなりません。