愛されるデモ行進

 今週の月曜(2月25日)、産経新聞朝刊にこんな記事が載った。

着ぐるみに風船… “愛される”デモ行進が定着

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130224/wlf13022420300028-n1.htm

 新しい「デモ」が芽生えている。政治団体労働組合が参加者を動員して党派色を打ち出し、政府批判や主義・主張を声高に訴えるのが従来のスタイルだが、新しいデモはインターネットで参加を募り、硬いテーマでも“緩い雰囲気”が特徴。大阪で定着してきた「日の丸行進」もその一つだ。現場を取材すると、過激なシュプレヒコールなどはなく、「ありがとう」の連呼が響くユニークなデモだった。(細田裕也)

■「わあ、かわいい!」と手を振る沿道の子供

 「祝祭日には日の丸を掲げましょう」「海上保安庁の皆さん、尖閣諸島巡視、ありがとうございます」

 17日の日曜日、大阪・御堂筋。カラフルな風船を絡ませた国旗を掲げる約70人が整然と練り歩いた。先頭付近にはピンクのウサギの着ぐるみ。「わあ、かわいい」。沿道の子供が笑顔で手を振った。

 何かのパレードに見えるが、開催趣旨は国旗の大切さを訴え、国民の命を守る自衛隊や警察官らに感謝の心を伝えるのが狙いだ。

 「沿道の人も気軽に加われる集いがいい。新しいデモの形を提示したい」。主催団体代表、石黒大圓(だいえん)さん(65)は語る。

 外国人参政権反対などを訴える多くのデモに参加してきた石黒さん。「日本からたたき出せ」。ときに飛び交う過激な掛け声に沿道の人々が目を背けるなど“拒否反応”を感じた。

 北朝鮮による拉致、中国が挑発を繰り返す沖縄・尖閣諸島の問題などを通じ、国民の間で愛国心が高まっているのは明白。だが、どうすれば一般の人に受け入れられるデモを演出できるか。熟慮の末、考案したのが日の丸行進だった。

■「ありがとう」連呼、「ふるさと」を合唱

 イメージは五輪の入場行進。愛国心を訴えるテーマでありながら、家族連れの目を引くため着ぐるみを用意し、風船は革新系団体のデモからヒントを得た。外国人への排他的な掛け声を禁じ、感謝の言葉や「ふるさと」など日本の唱歌を歌いながら歩く形にした。

 平成23年6月からほぼ毎月1回のペースで開始。インターネットでも告知し、毎回100人前後の参加がある。今月17日で19回目。初回から参加する女性(51)は「行進では感謝の言葉も多く、私たちが穏やかな気持ちになれる珍しいデモ。参加しやすいし、活動のたびに沿道の反応も良くなっている」と話す。

(後略)

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 この石黒大圓さんの主催する「日の丸行進の会」のデモの映像をYouTubeでいくつか見たけど、「君が代」や唱歌を歌うだけで、実におとなしい。こういうデモは僕も大歓迎だ。愛国心も穏やかに訴えるのなら、いっこうにかまわない。むしろじゃんじゃんやるべき。

 さて、何で17日のデモのことが、25日の朝刊に載ったのか? 理由は分かる人には分かるはず。

 前日の24日、同じ大阪の鶴橋でこんなデモがあったからである。

【第1部】「日韓断交」ほぼ関係なし! ひたすら罵倒とヘイトスピーチだけの鶴橋デモ(2・24)

http://togetter.com/li/461548

【第2部】中学生の「鶴橋大虐殺」宣言に喝采を送る自称愛国日本人の絶望ヘイト街宣(2・24)

http://togetter.com/li/461654

 もちろん産経新聞はこんなデモのことは報じない。

 しかし、上の記事をよく読めば、この記事を書いた記者の言いたいことは明らかだろう。

>過激なシュプレヒコールなどはなく

>「日本からたたき出せ」。ときに飛び交う過激な掛け声に沿道の人々が目を背けるなど“拒否反応”を感じた。

>外国人への排他的な掛け声を禁じ

>「行進では感謝の言葉も多く、私たちが穏やかな気持ちになれる珍しいデモ。参加しやすいし、活動のたびに沿道の反応も良くなっている」

 そう、在特会をはじめとする、過激なヘイトスピーチだらけのデモは間違っている、と言っているのだ。

 言うまでもなく、産経新聞朝日新聞と対照的に、がちがちの右寄り。そういう新聞でさえ、レイシズムの暴走には危機感を覚えていることがうかがえる。そして、そんなやり方は支持しない、と記事を通じて表明しているのだ。そんなのは一般市民の嫌悪感を招き、かえって不利になるだけ。穏やかに訴える方が効果的なのだ、と。

 まったくその通りだ。

「死ね」とか「殺せ」とかいうおぞましいヘイトスピーチをまき散らす連中って、要するに路上で大声を出してうさ晴らししてるだけだと思う。

 そりゃあ、大声で悪口をわめき散らしたら、さぞ気分はすっきりするだろう。その快感を「正義」と勘違いしてるんじゃないだろうか。

 自分がいい気分になれればそれでいい。自分たちの行動が問題解決につながるかどうか、一般大衆に受け入れられるかどうかなんて、まったく眼中にない。

 外国人参政権反対運動にせよ、竹島尖閣諸島の問題にせよ、多くの支持者を得たいなら、支持を得られるようなやり方をすべきだ。デモというのは自分たちの意見をアピールして支持者を増やすためのもので、大衆から見放されたら本末転倒だろう。