「去年はいい年だったろう」

 年の瀬も迫ってきたので、今年中に済ませておきたい話題を。

 実は去年(平成21年)、日本はものすごいいい年だったことをご存知だろうか?

平成22年版 警察白書

http://www.npa.go.jp/hakusyo/h22/index.html

 第1章第1節「犯罪情勢とその対策」より、まずは「刑法犯により死亡し、又は傷害を受けた者の数の推移」を見てみよう。

       平成16年 → 平成21年

死者  1397人 → 1054人

重傷者 3479人 → 2832人

軽傷者 4万3314人 → 2万9190人

 次に「財産犯の被害額の推移」。

       平成16年 → 平成21年

現金 1289億2800万円 → 794億6900万円

物品 1969億1800万円 → 1029億3500万円

 次に「殺人の認知・検挙状況の推移」。なお、殺人には殺人未遂も含むし、殺人以外で死ぬ例もあるので、上の数字とは一致しない。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 1419件 → 1094件

検挙件数 1342件 → 1074件

検挙率  94.6% → 98.2%

 実は平成19年にも、殺人事件の認知件数が1199件と戦後最低を記録していたのだが、平成21年にはその記録が更新されたのである。そう、去年は日本の戦後最も殺人が少ない年だったのだ。

 しかも検挙率が98%! 日本の警察、優秀じゃん!

「強盗の認知・検挙状況の推移」。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 7295件 → 4512件

検挙率  50.3% → 64.8%

「放火の認知・検挙状況の推移」。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 2174件 → 1306件

検挙率  69.6% → 69.9%

「強姦の認知・検挙状況の推移」。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 2176件 → 1402件

検挙率  64.5% → 83.0%

「略取誘拐・人身売買の認知・検挙状況の推移」。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 320件 → 156件

検挙率  72.5% → 89.7%

「強制わいせつの認知・検挙状況の推移」。

       平成16年 → 平成21年

認知件数 9184件 → 6688件

検挙率  39.8% → 53.3%

「路上犯罪」に関しては、もうグラフを見てもらった方が早い。平成13〜14年をピークに、「暴行」以外のすべてが減少に向かっていることが分かる。

「主な侵入犯罪の認知件数の推移」

       平成16年 → 平成21年

侵入強盗 2776件 → 1892件

侵入窃盗 29万595件 → 14万8488件

住居侵入 3万7857件 → 2万8363件

 確かに20世紀の終わりから数年間、犯罪が増加傾向にあった時期があった。だが、そのピークは過ぎた。今の日本は急速に犯罪件数が低下する一方、検挙率が増加しており、ものすごい勢いで安全な国になりつつあるのだ!

 他にもある。振り込め詐欺の認知件数は、平成17年には2万1612件だったのが、平成21年には7340件に減少。逆に検挙率は11.7%から77.2%に急増した。

 偽造日本銀行券(つまり偽札)の発見枚数は、平成16年には2万5858件だったのが、平成21年には3433枚に。

「最近、外国人が増えたから、外国人犯罪も増えてるんじゃないか」と思われる方もいるかもしれない。それも違う。確かに平成17年までは増えていた。しかし、「特集:犯罪のグローバル化と警察の取組み」の第1節の2「犯罪のグローバル化の背景にある情勢」を見ると、やはり平成17年をピークに、来日外国人犯罪も大幅に減っているのだ。

       平成16年 → 平成21年

刑法犯件数  3万2087件 → 2万561件

特別法犯件数 1万5041件 → 7275件

 一方、認知件数が増加している犯罪はこういうものである。

・食品衛生関係事犯(食品衛生法違反)及び食品の産地等偽装表示事犯(不正競争防止法違反等)

・廃棄物事犯

・鳥獣の違法捕獲等に係る事犯

・保健衛生事犯

児童ポルノ事犯

・サイバー犯罪

覚せい剤密輸

 ただ、これらは本当に実数が増加しているのかは疑問だ。食品の産地偽装なんて、昔からたくさんあったのが近年になって社会的に注目され、通報件数が増えただけではないかと思える。覚せい剤密輸も摘発されるのは一部だろうから、実数が増えているかどうか分からない。児童ポルノ法も平成11年に施行されたばかりの新しい法律で、当初は認知度が低かったことが大きいだろう。

 しかも、児童ポルノ法違反が増えたからといって、子供への危険度が増したというわけではない。第1章第3節「安全で安心な暮らしを守る施策」の中にある「13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移」を見ると、やはり殺人や強姦や誘拐や強制わいせつの犠牲になっている子供は減少していることが分かる。喜ばしいことである。

     平成16年 → 平成21年

殺人 111件 → 78件

強姦 74件 → 53件

暴行 1115件 → 754件

傷害 610件 → 490件

強制わいせつ 1679件 → 936件

公然わいせつ 120件 → 80件

略取・誘拐 141件 → 77件

 ただでさえ少ない日本の犯罪を、今以上に減らす有効な方法はあるだろうか?

 ある。これらのデータをもっとマスメディアが大きく取り上げることだ。

 新聞やテレビは「こんな恐ろしい事件が起きました」というニュースしか報じない。そのせいで犯罪が増えていると勘違いしている人もいる。マスコミ関係者は「犯罪が減っている」「検挙率が上がっている」という情報は報じる価値がないと思っているのかもしれない。そんなことはない。

 衝動的な殺人や暴行を別にすれば、人が犯罪に走るのは、捕まらない自信があることが大きいだろう。犯罪者の多くは、自分が刑務所に入るリスクをかなり低く見積もっているはずだ。

 しかし、「殺人をやっても98%の確率で捕まる」とか「強姦は83%の確率で捕まる」とか「振り込め詐欺は77%の確率で捕まる」といったことが知れ渡れば、そんな無謀なギャンブルに挑戦しようと思う者は、かなり減るのではないだろうか?

 今年の分の統計が出るのは来年の夏ごろだが、去年よりもさらに減っていることを望む。

 では、良いお年を。