桜庭一樹「受賞後第一作」?
>『私の男』で直木賞を受賞した桜庭さんの、受賞後第一作の登場です。
と宣伝されているのだが、これ、どう見てもファミ通文庫で出てた『荒野の恋』だよね?
と思って調べてみたら、やっぱりそうだった。
ファミ通文庫で中断していたシリーズを新たに書き足して完結させるというのは、別にかまわないというか、むしろ大歓迎なんだけど、以前に発表されたことのある作品を「受賞後第一作」と宣伝するのはおかしいだろ、と思うのである。
しかもこれが1件だけじゃなく、「桜庭一樹 荒野 受賞後第一作」で検索すると400件以上ヒットするのだ。 どうも文藝春秋社の宣伝方針らしい。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』とか『GOSICK』とか『竹田君の恋人』とかを文庫で読んでる者としては、なんだか桜庭さんのライトノベル時代の過去が否定されているような気がして、釈然としない。
それで思い出した。僕が『神は沈黙せず』を出した時に、ネットなどで「と学会の山本弘がついに小説を書いた」と言われたことを(笑)。それまで書いてきた『妖魔夜行』や『サーラの冒険』や『ラプラスの魔』や『パラケルススの魔剣』や『サイバーナイト』や『ギャラクシー・トリッパー美葉』や『時の果てのフェブラリー』は小説じゃないんですかいと小一時間ほど(以下略)。
ラノベはまともな出版物じゃないとみなされてますか、もしかして?
最近ようやくラノベが注目されるようになってきて、『産経新聞』の書評欄で(月1回だけど)ラノベが紹介されるようになった。しかし、まだ多くの雑誌・新聞の書評欄では存在を無視されている。 ろくに読みもせずに蔑視する者もいる。
確かにラノベの中にはくだらないのも多い。それは事実だ。でも、それはスタージョンの法則だからしかたがないのだ。他のジャンルの本だって90パーセントはクズだろう。注目すべきは10パーセントの方ではないのか。
ちなみに、僕が今いちばん好きなのは野村美月の『文学少女』シリーズ。有川浩、桜庭一樹に続いてブレイクするのはこの人だと確信している。
当たり前の話だが、ラノベも非ラノベも、駄作もあれば凡作もあれば傑作もある。ラノベだというだけの理由で非ラノベより出来が悪いと思われては困るのだ。
僕などは逆に、非ラノベで評判の高い作品を読んでみたら、「これラノベならよくある話だよね」とか「この系統ならラノベでもっと面白いのあるよ」とがっくりきたことが何度もある。
『さよなら絶望先生』に出てくる、ただ人が死ぬだけの話を読んで「こんな悲しい話、読んだことないわ!」と感動して泣いてしまう読者のように、ラノベの存在を知らないために、ラノベではよくある作品を「画期的な作品だ!」と思いこんで驚く読者も、けっこういるんじゃないかという気がする。
ちなみに、僕はここ数年、ラノベを書いていないが、嫌になったからでも、儲からないからでもない。単に機会がないというだけのことだ。
僕はラノベが好きだ。機会があればまた書きたいと思っている。