MAD問題:権利者削除は無益な行為だ

 7月2日にこんな報道があり、「ニコ動、終わったな」などと言われていたのだが。

ニコニコ動画、映画やアニメの二次創作作品を削除へ--日本映像ソフト協会らの要請で

 この報道から1か月、自分の100件以上あるマイリストをあらためて確認してみた。6月以降、削除されていたMADはこれだけだった。

「のだめサンダーバード

「勇子のさだめ」

「鳳バット」

ひぐらしが過激になく頃に 最終調整版?」

「ペチャパイこなた」

「DXなのはさんとTの爪団」

「【鏡音リン.レン】二人でangelashangri-laを歌ってみた(修正版)」

「【賢狼ホロに「Ievan Polkka」を歌わせてみた】に動画をつけてみた※修正版」

「【北米版】らき☆すた 1話【H264】」

「ゲイナら絶望先生

「【らっぷびと】俗・人として軸がぶれているらっぷ【絶望先生】」

 計11本だ。マイリストの9割近くは生き残っている。まあ、マイナーなもんばっかりマイリストに入れてるからだろ、という気がしないでもないが(笑)。

 さらに消されたものについて考察してみると。

・『電脳コイル』は以前から削除が激しかったので、まあ消されて当然であろう。でもタイトルに「電脳コイル」と入っていない作品は、気づかれていないのか、まだ生き残っている。

・「ひぐらし」MADについては、6月9日に一斉削除があったらしく、今回の件とは関係なさそう。 これも、いかにも消されそうな嘘字幕系の作品が生き残ってるのは不思議。

・「ペチャパイこなた」は前にも消されていた。「CLANNAD三年目の浮気」もそうだけど、非アニソンを使っていると標的になりやすいのかも?(『なのは』の方の「三年目の浮気」も前にいっぺん消されてる)

・「賢狼ホロ」は、動画のついていない元ネタ(僕の大好きなやつ)の方は生き残っている。

・「ゲイナら絶望先生」は権利者ではなくup主による削除。

 というわけで、今回の件での被害は思ったほど大きくはなさそうだ。どっちみち、いい作品は見つけたら即座に保存するようにしているから、消されたってどうということはないのだが。

 さて、今回の日本映像ソフト協会などの選択は、2つの点で愚かだと思う。

 第一に、かなり無駄な努力だということ。ニコ動がスタートしたばかりの1年半ぐらい前なら、まだどうにかなったかもしれないが、ここまでMADが広がってしまっては、根絶することなど不可能である。

 何十万再生も記録した傑作は、必ず大勢のファンが保存している。削除されると何人もの人間がただちに再アップする。削除するとかえって増殖してしまうのだ。

 東映版『スパイダーマン』を思い出してみるといい。一時期、ニコ動の『スパイダーマン』動画はすべて削除されたが、それに憤った者たちが、タイトルやタグを偽装して復活させた。消されても消されてもしぶとく復活する、まさに不死身の男スパイダーマン! 先日、また削除があったらしいが、それでもひそかに生き残っている。

 そもそも、ニコ動にアップされている120万もの動画の多くがMADなのだが、それらをすべて見つけ出して削除するのにかかる手間はどれぐらいだろうか。

 そして、権利者削除ははたして、その手間に見合う利益を権利者にもたらすのだろうか。

 第二の問題は、そもそも著作権侵害して何が悪いのか、という点である。

「悪いに決まってるじゃないか!」

 と言われるかもしれない。しかし、ちょっと冷静に考えてほしい。著作権法違反は親告罪である。著作権を有する者が訴えない限り罪にはならない。

 すなわち、いくら著作権を侵害していようとも、権利者がそれを黙認しているなら、犯罪ではないのである。

 いい例がアニメやマンガの同人誌だ。「盗作ではなく二次創作です」「実物をコピーしているわけじゃないから」という言い訳は通らない。他人の創ったキャラクターを勝手に使い、それで本を作って売っているのだから、すべて著作権侵害なのだ。もし権利者が訴えれば、確実に有罪なのである。

 だが、そんなことはめったに起きない。マンガの作者や出版社、アニメの製作会社などは、コミケで何万という同人誌が売られていることを知りながら、黙認している。

 なぜなら、そうした熱心なファンによって作品の人気が支えられているからだ。同人誌がいっぱい出るのも人気のうちなのである。

「パロディ」「二次創作」は、「盗作」とは根本的に違う。後者は原作があることを隠蔽して自分の功績であるかのように見せかけることで、原作者の努力を踏みにじる悪しき行為だが、前者は読者が原作を知っていることが前提であり、原作への愛が原動力になっている。

 もし権利者たちが同人誌を訴えはじめたらどうなるか。同人誌を創っている側にしてみれば、「この作品を好きでやってるのに、どうして?」という不条理を覚えるだろう。当然、権利者への敵意が芽生える。ファンからそっぽを向かれるのは、権利者としては避けたいことだ。

 マンガやアニメのマニアの間では、ディズニーに好意を持つ者は少ない。ディズニーは著作権にうるさいことで有名だからだ。だからコミケでもディズニー・アニメの同人誌は見当たらない。だが、ディズニーは主として非オタク層を相手に商売しているのであり、オタクに嫌われても痛くも痒くもない。

 だが、深夜アニメとかはどうだろう。主要購買層であるオタクに嫌われたら致命的ではないか。

 つまり、利益を考えるなら、同人誌など黙認するのが賢明なのである。同人誌を取り締まっても一文にもならない。むしろ購買層を減らし、収入を激減させかねない。

 無論、積極的に著作権法違反を取り締まった方がいい場合もある。たとえば中国などで売られている海賊版の本やDVDである。安い海賊版が大量に出回れば、正規の商品の売り上げを妨害することになる。だから取り締まるのは当然である。

 だが、ニコ動のMADはどうか。MAD動画を見て「これでDVDを買わなくていい」と思う者などいるのだろうか。

 それどころか、画面下にある関連商品へのリンクを見ると、明らかにMADがDVDやCDや本の売り上げに貢献していることが分かる。実際、僕もYouTubeやニコ動で存在を知った作品がいくつもある。興味を抱いてDVDやCDを購入したことも何度もある。

 MADではなく本編映像はどうだろう。本編映像のアップはDVDの売り上げを妨害するだろうか?

 そうは思えない。もともとDVDを買う層というのは、テレビの画質では満足しない者たちや、特典が欲しい者たちではないのか。彼らがニコ動の小さい画面で満足するとは考えにくい。

 また、深夜アニメの場合、地方によっては視聴できないものもよくある。しかし、誰かがニコ動にアップすることによって、日本全国誰でも見ることができるようになり、それによって知名度は高まる。つまり、ただで全国ネットしてもらってるようなものではないか!

 いっそ、権利者自身がニコ動に本編映像をアップしてもいいんじゃないかと思う(もうやっているところがあるかもしれないが)。CMをカットせずにアップするのもよかろう。

 それでもDVDの売り上げへの影響が心配だというなら、第一話だけを残し、それ以外の話数の映像を削除するという手もあるだろう。続きはDVDで、というわけだ。

 僕が言いたいのは「儲けることを考えろ」ということである。

 MADを取り締まったところで、実は権利者にとってたいして益にはならない。同人誌という先例のように、むしろMADと共存し、MADの人気を儲けに利用することを考えるべきなのだ。

【参考リンク】

新時代・あらゆるコンテンツは「ニコ動」でイジられる!

『男女』ヒットはニコ動のおかげ!?

YouTubeの“MAD動画”を角川が続々公認中!