9月4日(木)桜塚やっくんはすごい

 この日はまず角川書店へ。新作『詩羽のいる街』の件で、『ダ・ヴィンチ』の取材を受ける。

 ついに僕の小説が『ダ・ヴィンチ』で取り上げられるか!? 小説家としては感無量でありますよ。

 この日、参考資料として持って行ったのは、1991年に出した『ようこはようこ2』。アニメ『アイドル天使ようこそようこ』の同人誌である。

 これに載せたエッセイで、すでに「七、八年前から」構想しているとして、『詩羽』のプロットが書いてある。つまりまだ20代後半、1984年頃ということになる。20ン年越しの構想がようやく実ったわけだ。我ながらすげえ。

 あらためて当時のプロットを読み返してみたけど、タイトルが『詩羽のいる街角』だということや、詩羽が16、7歳の少女だという以外、基本設定はほとんど変わってない。「触媒」という概念もちゃんと出てくる。

『詩羽』は「著者初のノンSF」として宣伝されているもんで、中には「山本弘が新境地を開拓した」とか誤解する人も多いんじゃないかと思う。そうじゃない。20代からずっと、僕の頭の中には『詩羽』があったんだ。ずっと書きたかった小説だったんだ!

 ちなみに表紙イラストは『図書館戦争』の徒花スクモさん。推薦文は乙一

 これで売れてくれなきゃ、世の中おかしい。

 夕方、楽工社のSさんとともに下北沢の小劇場「楽園」に。

 この劇場、すごいよ。元は法律事務所と居酒屋か何かだったのをぶち抜いて改造したんだそうで、とてつもなく変な構造なのだ。

 上から見るとL字形になっていて、Lの曲がってるところが舞台、そこから2方向に客席。しかも客席の間にはでっかい柱。

 ……何でこんな劇場を作ろうと思ったのか。

 いちおう楽屋はあるものの、ひどく狭い。舞台の上手下手というものがないものだから、役者は時には裏口から劇場の外に出て、ビルを半周して入口から入り、客席側から登場することもあるという。

 ホラーの芝居なんかやってると、斧を持った殺人鬼の格好で、胸に血糊なんぞつけて街を駆け抜けなくちゃならんのだそうだ。やばいぞ。

 今回の企画は唐沢さん主催の「ホラリオン〜笑いと恐怖の大祭典〜」のひとつ。「と学会・トンデモ本特別講座〜オカルト番組特集」。

 ぶっちゃけて言えば、これまでロフトプラスワン三越カルチャーセンターやSF大会でさんざんやったネタ――オカルト番組のビデオを見ながら、トリックやヤラセを暴いていくというもの。

 最初に「前にロフトに来られた方」と手を上げてもらったら、2回とも来たという方が何人も。すみません、ほとんどネタ使い回しで。

 ちなみに、前日は木原浩勝さんが心霊写真を見せまくってたらしい(笑)。それを聞いたもんで、急遽、ネタの順序を入れ替えて、昔の関西ローカルの番組『ワイドYOU』の人気コーナー「心霊写真の謎を暴く」を見せることに。写真の専門家の先生が、原理を解明し、実際に撮影場所に行って、同じ写真を撮ってしまうというものである。

 他にも、『これマジ!?』であったネタで、暗い森の中でビデオカメラに映っていた「霊」と称する白い曲線を紹介(その正体は飛び回っていた蛾の軌跡)。

 ちなみに、翌日の企画では、ゲストの人が「あたしも心霊写真撮ったんです」と言って同じような写真を見せたもんで、客席から「虫」「虫」「虫」「それ虫」という声が上がっていたそうな(笑)。

 今回のゲストは桜塚やっくん

 驚いたのは、やっくんがものすごく観察力が鋭いということ。初めて見るビデオのはずなのに、

「カメラ、傾いてるじゃないですか!?」

「あの子、ガン見してますよ!」

「何か抜いてる!」

 などとバンバンつっこんで来るのだ。一回見ただけであれだけ見抜ける人間は少ない。すっかり感心した。

 僕の公演の後、即興でコントを披露してくれたんだけど、僕が適当に出したお題で(ちょっと苦しかったけど)ちゃんと笑わせてくれてオチをつけていたのには感心。あれ、裏で仕込みなんかしてませんから。ほんとにアドリブですから。

 終了後、焼き肉屋で打ち上げをやる。どうでもいいけど、観客が50人ぐらいしかいなかったんですが、あれで元が取れるんですかね。ちと心配。

 帰りはやっくんと同じタクシーに乗って新宿へ。途中、いろいろと話をする。オフレコのこともあるので詳しくは書けないけど、ある裏事情を聞いて、「やっぱり芸人さんも大変なんだなあ」と、つくづく思った。

 ちなみに僕は、去年のSF大会で、『エンタの神様』の紙芝居のパロディやったことあるんで、あの紙芝居作るのがどれだけ大変か、身に染みて知ってます(笑)。