こんにゃく入りゼリーは危険か?

 ちょっと前、こんなニュースがあった。

日テレNEWS24

http://www.news24.jp/articles/2010/03/25/07155963.html

こんにゃく入りゼリー 安全対策で初会合

< 2010年3月25日 1:47 >

 こんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせて死亡する事故がこの15年間で22件起きていることを受けて、消費者庁は会合を開き、今年夏までに具体的な安全対策をまとめることになった。

 この時点でもう怪しさ大爆発だ。

 15年間で22件?

 年間約1.5件?

 日本人の約8000万人に1人?

 それってちっとも多くないんじゃない?

 こんにゃく入りゼリーについては、現在、業界団体が自主的に「子供や高齢者は食べないように」といった注意表示を行っている。24日に行われたこんにゃく入りゼリーの安全対策プロジェクトの初会合で、消費者庁・泉政務官は「実際に(人が)亡くなっている現実を重く受け止めなければならない」と述べ、業界の自主規制だけではなく、法規制も視野に入れて対策を行う考えを示した。

 法規制? 8000万人に1人しか死なないもののために法規制?

 いや「亡くなっている現実を重く受け止めなければならない」のは確かだが、こんなにリスクが低いものを法で規制する意味があるのか?

 そもそも、もちを詰まらせる人の方がはるかに多いんじゃなかったっけ?……と思って調べてみたら、案の定だった。

厚生労働省:食品による窒息事故に関する研究結果等について

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/chissoku/index.html

(平成19年度・5ページ)

? 消防本部の回答の概要

 性別は男性50.3%、女性49.7%で、年齢がわかっている595 例の年齢分布は0 歳から105 歳(平均68.4 歳)であり、割合では65 歳以上が全体の76.0%、10 歳未満が、12.0%を占めていた。

 傷病程度では、死亡65 例、重症227例であった。

 原因食品の食材または献立名で記載のあった541 例のうち食品成分表によって分類できたのは、432 例であった。「穀類」が最も多く211 例で、そのうち「もち」が77 例、いわゆる「米飯(おにぎりを含む)」61 例、「パン」47 例、「粥」11 例であった。次いで「菓子類」62 例「魚介類」37 例、「果実類」33 例、「肉類」32 例、「いも及びでん粉類」16 例(内しらたき4 例、こんにゃく2 例)あった。「菓子類」のうち「あめ」22 例「団子」8 例で「ゼリー」4 例、「カップ入りゼリー」は8 例であった。年齢がわかっているもので「もち」「カップ入りゼリー」をみると、「もち」では、「1〜4 歳」1 例、「45〜64歳」6 例、「65〜79 歳」27 例、「80 歳以上」31 例の合計65 例、「カップ入りゼリー」は、「1〜4 歳」2 例「65〜79歳」2 例、「80 歳以上」3 例で、いずれも高齢者が乳幼児よりも多かった。(後略)

(平成19年度・5ページ)

?:救急救命センター(病院)の回答の概要

 性別は、男性50.9%、女性49.1%であった。年齢がわかっている602 例の年齢は0 歳から105 歳(平均74.7歳)であり、年齢分布は65 歳以上が全体の82.4%、10 歳未満が4.3%を占めていた。

(中略)

 原因食品をみると、調査?と同様に食材または献立名で報告され、複数の食材があがっているものも少なくなかった。記載のあったのは486 例でそのうち食品成分表によって分類できたのは、371 例であった。食品成分表の分類では、「穀類」が最も多く190例で、そのうち「もち」が91 例であった。「パン」43 例、いわゆる「米飯(おにぎりを含む)」28 例、「粥」11例であった。次いで「菓子類」44 例「肉類」28 例、「果実類」27 例「魚介類」25 例「いも及びでん粉類」19 例(内「こんにゃく」8 例)と続いた。「菓子類」のうち「団子」15 例「あめ」6例で「カップ入りゼリー」は3 例であった。年齢がわかっているもので「もち」「カップ入りゼリー」を見ると、「もち」では「45〜64 歳」6 例、「65〜79歳」44 例、「80 歳以上」41 例、「カップ入りゼリー」は、「5〜9 歳」1 例「65〜79 歳」2 例で、いずれも高齢者が乳幼児よりも多かった。(後略)

 どう見ても、もちやご飯やパンを詰まらせる人の方が、カップ入りゼリーを詰まらせる人よりはるかに多い。

 ご飯やパンは毎日のように口にするものだから、事故も多いのは納得できる。だが、ほとんど正月にしか食べないもちと比較しても、カップ入りゼリーによる事故は少ない。

 菓子だけに限定しても、あめや団子を詰まらせる事故が、カップ入りゼリーよりも多いか、ほぼ同等。

 

 さかのぼってみると、今年の1月にこんな記事があった。

http://www.news24.jp/articles/2010/01/14/07151547.html

こんにゃく入りゼリー、高い確率で窒息

< 2010年1月14日 14:37 >

 のどに詰まって窒息し、17人が死亡しているこんにゃく入りゼリーの安全性を検討する内閣府食品安全委員会の専門調査会は、ほかの食品に比べて窒息する確率が高いとする調査結果を公表した。

 13日の会議では、食品ごとの一口あたりの窒息事故の発生率が報告され、こんにゃく入りゼリーを食べて窒息する確率は、肉や魚などに比べて最高で100倍以上高いとする分析結果が発表された。発生率はもちが一番高く、こんにゃく入りゼリーはあめと並んで2番目に高いという。また、こんにゃく入りゼリーの形状について、かみ切りにくく、吸い込んで気道を詰まらせる大きさだと結論づけている。

「高い確率で窒息」「肉や魚などに比べて最高で100倍以上高い」などと書かれたら、そんなに危険なものなのかと思ってしまう。

 これも、実際の研究結果を見たらまったく違っていた。

 食品安全委員会の報告

http://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/chi_wg-dai7/index.html

(資料1−3、最終ページのケース1-2および2-2の表を参照)

 一口あたり窒息事故頻度(×10-8)

餅   6.8 〜 7.6

ミニカップゼリー 2.3 〜 4.7

飴類  1.0 〜 2.7

こんにゃく入りミニカップゼリー 0.14 〜 0.28

パン  0.11 〜 0.25

肉類  0.074 〜 0.15

魚介類 0.055 〜 0.11

果実類 0.053 〜 0.11

米飯類 0.046 〜 0.093

 待て待て待て! 何でこれが「肉や魚などに比べて最高で100倍以上高い」「あめと並んで2番目に高い」んだよ!?

 魚の最低値(0.055)とこんにゃく入りミニカップゼリーの最高値(0.28)を比較したって、たった5倍だぞ!?

 あめよりもずっと少ないぞ!?

「ミニカップゼリー」の数字を「こんにゃく入りミニカップゼリー」の数字と混同しているのかもしれないが、それにしても魚の最低値と比較して85倍である。「100倍以上」にはならない。

 これはもはや捏造と言ってよかろう。

 だいたい、この数字からすると、こんにゃく入りミニカップゼリーは、普通のミニカップゼリーよりはるかに安全なんだが。(食べる際に注意するせいかもしれないが)

 3月10日にはこんな記事もあった。

http://www.news24.jp/articles/2010/03/10/07155066.html

こんにゃくゼリーの窒息率「アメと同程度」

< 2010年3月10日 15:53 >

 95年以降、窒息死する事故が相次いだこんにゃく入りゼリーの安全性を検討している内閣府食品安全委員会は10日、窒息する確率は「アメと同じ程度」であるとする報告書を取りまとめた。

 報告書では、こんにゃく入りゼリーについて、その大きさや硬さから窒息事故が発生しやすいとしたが、一口あたりの窒息する確率はモチよりも低く、アメと同じ程度としている。

 いやいやいや、「アメと同じ程度」じゃないだろ! どう見てもパンと同程度だよ!

飴類  1.0 〜 2.7

こんにゃく入りミニカップゼリー 0.14 〜 0.28

パン  0.11 〜 0.25

 何でこれが法律で規制されなきゃならんのか。規制するなら、何十倍も危険で犠牲者数も多い餅の方だろう。

 ちなみに、年間の窒息事故による犠牲者数は次の通り。

食品(群) 窒息事故死亡症例数(推計数)

餅    1,075.3

米飯類   684.7

パン    509.1

肉類    329.2

魚介類   294.1

飴類    70.2

果実類   684.7

こんにゃく入りミニカップゼリー 1.7

 安全だ! こんにゃく入りゼリーはものすごく安全だ!

 餅なんか1年に1000人も死んでるというのに、何でこんにゃく入りゼリーが危険視されるのか、さっぱり分からない。

 しかも、こんにゃく入りゼリーで窒息死した人のほとんどは、7歳以下の児童か高齢者である。つまり幼児と老人が食べなければ、犠牲者はほぼゼロにできる。おまけに、こんにゃく入りゼリーのパッケージにはすでに、「お子様や高齢者の方はたべないでください」という警告文が入っている。

 つまり、これからさらに犠牲者が出るとしたら、親が警告文を無視して子供に食べさせたとか、老人が警告文を無視して食べたという場合だけ、ということになる。それはもうメーカーの責任ではあるまい。

 これ以上、いったい何を規制しようというのか。

 こんにゃく入りゼリーを規制したら、メーカーが倒産して、失業して首をくくる人だって出るかもしれないではないか。その危険性を考えていないのか。

 それに、消費者庁の会合だの、食品安全委員会の活動にしたって、金がかかっているはずだ。その予算を別のことに回せば、もっと多くの人命が救えるのではないか? たとえば政府広報などで、餅による窒息事故の危険性をもっとアピールするとか。

 世の中には、「目の前にあるどんな些細なリスクもゼロにしなくてはいけない!」と狂信的に思いこんでいる者がいるのだろうか。そのためには規制によって生じる他のリスクは無視するのだろうか。

 あと、ネットで調べてみたら、地元出身の野田聖子をめぐる疑惑もささやかれている。まあ、ここまで理屈に合わないと「裏に何かあるんじゃない?」と勘ぐりたくもなるわな。