リチャード・マシスン『運命のボタン』

 2006年の『不思議の森のアリス』以来、久しぶりにマシスンの短編集が出た。何でも表題作「運命のボタン」が映画化され、日本でも公開されるかららしい。

 まあ、出版の経緯はどうでもいい。マシスンの短編ホラーの大ファンとしては、こうして本が出るだけで嬉しい。日本ではまだまだ一般の知名度が低いマシスンが、この機会に多くの人に注目されることを望む。

 まずは表題作。短くてストレート、ブラックなオチの一言が効いていて、星新一氏のショートショートのような味わいの一編。しかしこれ、どうやって長編映画に引き延ばすんだろう? 秘密組織の陰謀とかの話になったりしたら、すごく嫌だぞ。

 テレビの『新トワイライト・ゾーン』では結末が変えられていたのだが、実は僕はそっちのオチもけっこう好き。上手い考えオチになっているのだ。

「魔女戦線」は三十数年ぶりに再読。七人の美少女が超能力を使って敵の兵士を大量虐殺するという、ただそれだけの話。

 発表されたのは1951年。今ならこの設定でテレビアニメになりそうだ。もったいない。しかし、単純なだけにプリミティヴなパワーがある。

「チャンネル・ゼロ」はもう何回も読んだ作品。でもこれ、再録するほどの傑作かな? テレビがようやく家庭に普及しはじめたばかりの時代、テレビがまだ得体の知れないものだった頃だからこそ成立したホラーで、今となっては古い気がする。

「ショック・ウェーブ」は、のちにスティーヴン・キングが多用するようになる、無生物(この場合はパイプオルガン)が意志を持って人間に反抗するという話。考えてみれば、名作「激突!」もこのパターンの話だ。

 こういうのを見ると、やっぱりキングのルーツの1人がマシスンであることが分かる。

「戸口に立つ少女」は初訳。これは傑作! マシスンお得意の、日常の些細な場面からしだいに異常な状況へとシフトしてゆく話だ。「激突!」とか「奇妙な子供」とか「次元断層」とかね。

 この作品の場合、戸口に現われた見知らぬ幼い女の子が「おばちゃまの家の子と遊んでいいですか?」と訊ねてくるのが発端。この少女が毎日やってきて、徐々に主人公の家庭を侵略してゆく様がねちっこく描かれる。すげー怖い!

 ただ、マシスンはミもフタもないオチをつけてしまう悪い癖がある。この作品も最後の一言は要らなかったと思う。少女の正体が分からないままの方が不気味だったろう。

「二万フィートの悪夢」はあまりにも有名な話。有名すぎて、すでにいくつものアンソロジーに入っているから、今さら収録しなくても……と思うのは、僕がマニアだからか。確かにマシスン入門編としては絶対必要なんだけど。

 こういう日本で編まれた海外作家の短編集を読むたびに、「何であれが入ってないの?」と、編者に文句を言いたくなってしまう。この本も、埋もれた傑作SF「旅人」をぜひ入れてほしかった。あるいはホラーで統一するなら、「消えた少女」「死線」あたりを。

 まあ、贅沢な愚痴なんだけどね。