『アニソンバカ一代』

 先日、著者の方からいただいた本が面白かったので推薦したい。

キムラケイサク著『アニソンバカ一代』(K&Bパブリッシャーズ)

 アニメソング・特撮ソングを紹介する本である。

 これまでもこの手の本はいろいろあった。しかし、データを羅列しただけの無味乾燥なものだったり、ありきたりのことしか書いてなかったりで、あまり面白いとは思えないものが多かった。ライターが「お仕事でしかたなく作ってる」という印象が漂うのだ。

 この本は違う。何百曲というアニソン・特ソンを熱く語りまくる。著者の本気がビシバシ伝わってくるのだ。

 たとえば選曲のセンス。ほとんどの歌は1/2ページ、または1/4ページのスペースで紹介されているのだが、1ページまるごと使ってクローズアップされている歌もいくつかある。それらをざっと並べてみると、このチョイスがただ者ではないことが分かる。

「カモン!アステカイザー」「ぼくらのバロム1」「誰がために」「地獄のズバット」「ビデオ戦士レザリオン」「スターダストボーイズ」「宇宙魔神ダイケンゴー」「飛べ!グロイザーX」「星雲仮面マシンマン」「ウルトラマンレオ」「究極超人あ〜るのうた」「超常スマッシュ!ギンガイザー」「風の未来へ」(『伝説の勇者ダ・ガーン』OP)「戦え!レッドタイガー」「いけいけぼくらのガンバスター」「ゴーショーグン発進せよ」「青春の旅立ち」(『スターウルフ』OP)「バトルフィーバーJ」「宇宙刑事ギャバン」「ゲッターロボ!」「宝島」……

 いや、分かるよ! どれも名曲だよ! 僕もカラオケでよく歌うよ! 『レオ』の歌はウルトラシリーズの中で最高だと思ってるよ! 『レッドタイガー』なんて番組自体はアレだったけど、主題歌の「強い鉄拳、乱れ飛ぶ〜」のところが無性にかっこいいんだよ! 『宝島』はOPもEDも神だよ!

 しかし、作品の社会的知名度などまるで眼中にないこのセレクトはどうだ。ほんとに好きで本を作ってるのがよく分かるではないか。

 もちろん『ヤマト』『999』『ガンダム』『タッチ』などのメジャーな(アニメファンでなくても知っている)作品の歌もちゃんとフォローされているのだが、宮崎駿作品の歌は「風の谷のナウシカ」のみ。『トトロ』も『もののけ姫』も『ポニョ』もない。このいさぎよさ! 『スーパーヅガン』とか『料理少年Kタロー』とか『ナースウィッチ小麦ちゃん』とかの歌まで入ってるのに。

 その「ナウシカ」も、「安田の独特の……というか微妙すぎる歌唱力」と評され、「オリジナルに囚われず自由に歌うもよし、安田の歌い方を真似るもよし」と、微妙な書き方がされている。いや、安田成美の歌い方を真似るのは、かえって難しいと思うんですが(笑)。

 他にも、『地球へ…』の歌が最近のテレビ版の方じゃなくダ・カーポの方だったり、『キャッツアイ』の歌が「デリンジャー」の方だったり、随所に著者のこだわりが感じられる。

(もっとも、『ゴジラ対ヘドラ』の歌はやっぱり「ヘドラをやっつけろ」じゃなく「かえせ!太陽を」の方だろ、と思うんだが)

 歌は1年365日に当てはめて配置されている。大半はキャラクターや出演者や歌手の誕生日や命日なんだけど、「地獄のズバット」が2月2日だったり、「特警ウインスペクター」が5月1日だったり、ここでも細かいところにこだわっている。

 どの項目も、番組や歌に関するトリビアや、著者の感想がびっしり。決して脱線することなく、基本的な事項をきちんと押さえてあるのが好印象。ギンガイザーのことを「謎の何だかわからないゴチャゴチャした固まり」(的確!)と書く一方、ニコ動でギャグのネタにされている『チャージマン研』を「歌はカッコイイのになぁ」とフォローするなど、配慮も行き届いている。

 配慮と言えば、巻末の索引が、番組名、曲名、アーティスト名で検索できるようになっているのが便利だ。

 ざっと読んだが、誤植はちょくちょくあるものの(そりゃ、この分量なら、ゲラチェックは地獄だろう)、大きなツッコミどころはほとんどない。細かいことを言ったら、「『レザリオン』が面白いのはむしろ前半だろ! ジャーク帝国が出てくるまでだろ!」と思ったし、個人的に最高のアニソンだと思う『ようこそようこ』の挿入歌「Singing Queen」と、『エアマスター』のOP「烈の瞬」も入れてほしかったとも思うが……まあ、そんなこと言い出したらキリがないしね。

 他にも、萌えvs燃えの100曲対決とか、串田アキラ小林亜星山本正之へのインタビューなど。まことに労作である。

 先日、著者の方と話をする機会があったのだが、読者から「アニソンの本だというから買ったのに、僕の知っている歌が一曲も載っていない」という抗議が来たとか。いやまあ、そういう人向けの本じゃないですから……。