福島産の野菜による被曝量はどれぐらい?

 それならなぜ、僕は「福島の野菜をじゃんじゃん食べよう」と書いたのか? 理由は簡単である。

1.福島の野菜は安全である。

2.福島の野菜を買うのを避けることは、被災地の人たちを苦しめることである。被災地の野菜を買うことは支援につながる。

 まず、1から説明しよう。

 この4月から、野菜に含まれるセシウム137の基準値は、それまでの1kgあたり500ベクレルから、1kgあたり100ベクレルにきびしくなった。僕はこの「1kgあたり100ベクレル」という基準はナンセンスで、500ベクレルで十分だと思っている。その理由はこれから述べる。

 まず、基準値ぎりぎりの野菜を食べ続けた場合の被曝量を計算してみよう。

 これだけニュースで報じられているのに、いまだにベクレル→シーベルトの換算ができない人が多い。「そんな難しいことは分からない」と、考えるのを放棄しているのだろうか。

 そんなことはない。単純な掛け算だから、この機会に覚えてほしい。放射性元素ごとに算出された「実効線量係数」という数値を、ベクレルに掛けるだけである。

ベクレル×実効線量係数(ミリシーベルト/ベクレル)=ミリシーベルト

 ほら、小学校高学年でもできるでしょ、こんな計算?

 現在、日本人の野菜の平均摂取量は、1日あたり280.9gだそうである。

http://www.5aday.net/data/intake/index.html

 セシウム137を経口摂取した場合の実効線量係数は、0.000013(ミリシーベルト/ベクレル)である。つまり1ベクレル摂取すると、0.000013ミリシーベルト(0.013マイクロシーベルト)被曝する。

http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html

 仮に1kgあたり100ベクレルの野菜を一日に280.9g、1年間食べ続けたとすると、

 100×0.2809×365=10300

 で、約1万ベクレルを摂取することになる。これによる被曝量は

 10300×0.013=130

 130マイクロシーベルト、つまり0.13ミリシーベルトである。1年中ずっと食べ続けても、1ミリシーベルトに達しないのだ。(幼児の場合の実効線量係数は大人よりやや高いが、幼児は野菜を食べる量も少ないので、被曝量も少ない)

 しかもこれは、規制値ぎりぎりの野菜を1年中食べ続けるという、現実にはとうていありえない仮定を元にしている。スーパーに行けば日本全国の野菜、さらには海外からの輸入野菜も並んでいる。たまたま手にした野菜が福島産である確率は数十分の一にすぎない。また、福島産の野菜の放射線量がすべて基準値ぎりぎりということもありえない。そのほとんどは、基準値の何分の一、何十分の一という量のはずである。

 そう考えると、福島産の野菜によって被曝する量は、130マイクロシーベルトよりずっと少なく、せいぜい年間数マイクロシーベルト程度の量であると推測できる。その被曝の影響など、まったく考える必要はない。

「でも、もしかしたら検査をすりぬけて、基準値より高い野菜が市場に出回ってしまうこともあるのでは?」

 そう危惧する人もおられるかもしれない。心配ご無用。

 まず、基準値を大幅に上回る野菜が収穫されること自体が少ないことだし、さらにそれが検査をすり抜けて出荷され、あなたの口に入る確率はきわめて小さい。

 たとえそうした基準値オーバーの野菜を食べても、一回ぐらいなら何の影響もない。

 1回の食事で口にする野菜は100g前後だろう。仮にそれが基準値の10倍、1kgあたり1000ベクレルのセシウム137を含んでいたとすると、体内に入る量は100ベクレル。

 その被曝量は、わずか1.3マイクロシーベルト

「それでも不安だ! 1ベクレルの放射性物質も口に入れたくない!」

 そうヒステリックにわめく方もおられるかもしれない。だが、それは不可能なのだ。放射性物質は自然界にも存在していて、僕らは常にそれを食べているのだから。

 たとえばカリウム40という放射性元素がある。これは天然カリウムの中に0.0117 %の割合で存在している。そしてカリウムは生物にとっての必須元素であるため、カリウム40はほとんどすべての食品に含まれている。

 カリウム1gには30.4ベクレルのカリウム40が含まれている。つまり食品中に含まれるカリウムの量が分かれば、そこからカリウム40による被曝量も導ける。

栄養素別食品一覧/カリウム

http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/kalium.html

 このリストは食品100gあたりのカリウムの量をmg単位で表わしたもの。たとえば、とろろ昆布1kgには、48000mg(48g)のカリウムが含まれていることになる。だからこの表の数字に0.304を掛ければ、1kgあたりのベクレルが換算できる。

 特にカリウム40の多い食品をいくつか挙げよう。

ほうれん草(生) 210ベクレル

するめ 330ベクレル

ビーフジャーキー 230ベクレル

こんぶ(乾) 1600ベクレル

わかめ(素干し) 1600ベクレル

とろろ昆布 1500ベクレル

だいず(乾) 580ベクレル

あずき(乾) 460ベクレル

納豆 200ベクレル

煮干し 360ベクレル

ピスタチオ 290ベクレル

干ししいたけ(乾) 640ベクレル

マッシュポテト(乾) 360ベクレル

フライドポテト 200ベクレル

脱脂粉乳(粉)  550ベクレル

 他にもたくさんの食品に1kgあたり100ベクレル以上のカリウム40が含まれている。生きている限り、これを避けることはできない。

 ちなみに、カリウム40を経口摂取した場合の実効線量係数は、セシウム137の約半分。つまり「カリウム40の200ベクレルは、セシウム137の100ベクレルに相当する」と考えてよい。

 もっと分かりやすく言えば、1kgあたり100ベクレルのセシウム137を含む野菜を食べた場合の被曝量は、同じ重量の納豆やフライドポテトを食べた場合の被曝量と、ほぼ同じなのである。

 4月9日、千葉県白井市で、露地栽培された原木シイタケから、基準値を超える1kgあたり740ベクレルの放射性セシウムが検出された。

 仮にこのシイタケを100g食べて、74ベクレルのセシウム137が体内に入ったとすると、それによる被曝量は0.96マイクロシーベルト。とろろ昆布を100g食べたのと同じぐらいである。(とろろ昆布には1kgあたり1500ベクレルのカリウム40が含まれている)

 だから僕は、「1kgあたり100ベクレル」という新基準をナンセンスだと思っている。この被曝量をカリウム40に当てはめたら、納豆もフライドポテトもするめも煮干しも食べてはいけないことになってしまうのだ。(1kgあたり500ベクレルという基準でも、とろろ昆布はオーバーしてしまうのだが)

 実におかしな話である。この基準を定めた人は、「人工の放射能は自然の放射能よりはるかに危険」とでも思っているのだろうか。

カリウムを摂取すると被曝するのか。だったらカリウムの入った食品は避けた方がいい」

 そう誤解される方がおられるかもしれないので、事前に警告しておく。それは大変に危険な考えである。カリウムは健康にとって重要なのだ。

http://vitamine.jp/minera/kari.html

 人体は常にカリウムを排出しているが、同時に食物からカリウムを摂取しているため、体内のカリウムの量はほぼ一定に保たれている。カリウムが足りなくなると、低カリウム血症になり、脱力感、無表情、無関心、無気力、うとうと状態、筋力低下、食欲不振、吐き気、いらだち、非合理的行動、重度では筋肉麻痺、横隔膜の不動と血圧低下由来の呼吸不全といった症状が出る。

http://vitamine.jp/minera/kari03.html

 つまりカリウムを毎日摂取することによって健康が保たれているのだ。地球上の生物は、カリウムを利用する体に進化してきた。カリウムなしで人間は生きられない。

 成人の体内には、およそ4000ベクレルのカリウム40が常に存在している。これによって、生殖腺に対して年間180マイクロシーベルト、骨に対して年間140マイクロシーベルト被曝していると言われている。

 当然、人によってカリウムの摂取量は違うから、被曝量にも何パーセントかの個人差があるはずである。普段からほうれん草や納豆や昆布やわかめをたくさん食べている人は、平均的な人より被曝量は何マイクロシーベルトか多いだろう。

 だから被曝量が数マイクロシーベルト増えたところで、それは個人差の範囲内ということである。そんなもので何か影響が出るわけがない。

 カリウム40以外にも、自然界には炭素14という放射性元素もある。炭素は生命を構成する基本元素なので、炭素14もあらゆる食品中に存在する。

 たとえば、でんぷん1kgの中には440gの炭素が含まれている。炭素1gあたり0.23ベクレルの炭素14が含まれているから、でんぷん1kgには約100ベクレルの炭素14が含まれていることになる。

 ちなみに、大気圏内核実験が行なわれていた1960年代には、その影響で炭素14の比率も高くなり、一時期、核実験開始前の約2倍、炭素1gあたり0.45ベクレルに達したそうである。こわいね、核実験。

 成人の体内には約16kgの炭素があるので、約3700ベクレルの炭素14が常に存在していることになる。

 炭素14の実効線量係数はセシウム137の20分の1以下なので、影響も小さい。それでも骨格組織に年間24マイクロシーベルト、生殖腺組織に年間50マイクロシーベルト被曝しているという。

http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/3.html

 これが人間の自然の状態なのだ。 

 それでもなお、「1マイクロシーベルトでも被曝量が増えるのは不安だ」という人には、こんなデータも紹介しておこう。日本の県別自然放射線量である。

http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/991115ken.htm

 見ての通り、もともと県によって放射線量には差がある。全国平均は年間990マイクロシーベルトだが、岐阜県では1190マイクロシーベルト、神奈川県では810マイクロシーベルトと、最大と最小で380マイクロシーベルトもの開きがある。

 先に、セシウム137が1kgあたり100ベクレル含まれる野菜を1年間食べ続けると130マイクロシーベルト被曝すると書いたが、これがどれぐらいの被曝量の増加かというと、京都(1030マイクロシーベルト)から隣の滋賀(1160マイクロシーベルト)に引っ越すぐらいなのである。

「滋賀に引っ越したら年間被曝量が130マイクロシーベルトも増加する! こわい!」と思う京都人はあまりいないと思う。

 どれぐらいの被曝量から危険になるかは一概には言えないが、年間数百マイクロシーベルト程度の増加なら、まず心配することはないのだ。

 繰り返すが、基準値ギリギリの野菜を一年間食べ続けても、被曝量は130マイクロシーベルトである。

 だから福島産の野菜を怖がる必要はない。