福島産の野菜による被曝量はどれぐらい?(反響編)
前回の「福島産の野菜による被曝量はどれぐらい?」に対する反響が大きかったので、まとめてコメントさせていただきます。
案の定、科学的リテラシーに欠けている人や、何としてでも自分の中の不安を正当化したい人が多いようです。
>トトさん
>従来の放射性廃棄物の基準はセシウムで100ベクレル/kg。それを超えると、一般のゴミ処理場などに廃棄することは許されない.
>100ベクレルの食べ物って放射性廃棄物では?事故前はドラム缶に閉じ込めてましたよね。
簡単に言えば、事故前の放射性廃棄物の基準がとてつもなくきびしかった、ということなんです。
放射性廃棄物の場合、口に入るものではありませんから、外部被曝が問題になります。セシウム137の場合、1mの距離に100万ベクレルの小線源があると、ガンマ線によって1日に0.0019ミリシ−ベルトの外部被曝を受けるとされています。
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html
100ベクレルだとその1万分の1、1mの距離に1日いて0.00000019ミリシ−ベルト(0.00019マイクロシーベルト)です。
つまり100ベクレルのセシウム137をドラム缶に詰める意味なんかまったくないんです。おそらくこれは、実効線量係数の高いプルトニウム239などが風で飛び散って吸入される危険を想定した基準値でしょう。当然、こういう基準値というのは、人体に害が出はじめる量よりもかなり低く設定されています。
何度も言いますが、納豆やフライドポテトには1kgあたり200ベクレルの放射性物質が含まれてるんですよ? あなたは「納豆やフライドポテトもドラム缶に入れて密閉すべきだ」と主張されるのですか?
>わざわざ、毒が入った食べ物を僕は食べません。
だったら納豆もフライドポテトも絶対に食べないでくださいね! とろろ昆布なんか言語道断ですよ。
と言うか、安全な食べ物を「毒」と呼ぶのは、福島でがんばって農業をやっている方々に対する侮辱だということに気がついてください。
>jujurouさん
>では何故あなたは福島に住もうとしないのか?
>住み続けても被爆量は「致死量」に届かないですよ。
はあ? 何で僕が家族を連れて福島に引っ越さなくちゃならないんですか? そんな必然性、どこにあるんですか?
あなたがどこにお住まいか知りませんが、たとえば「何故あなたは滋賀県に住もうとしないのか?」とか「何故あなたは鹿児島に住もうとしないのか?」とか訊ねられたら、どう答えますか?
「引っ越す理由がないから」としか言いようがないでしょ?
>平賀さん
>経口摂取するもののうち、野菜以外はすべて0ベクレル、
>野菜のうち、福島産の野菜以外はすべて0ベクレル、
>と仮定した場合は正しい推論だと思います。
僕が「被曝量が数マイクロシーベルト増えたところで、それは個人差の範囲内ということである」「年間数百マイクロシーベルト程度の増加なら、まず心配することはないのだ」と書いたのを読み落とされましたね?
と言うか、後半部分を読まずにコメント書かれたのが丸分かりですよ。
>田所真知子さん
>あなた、そんなに、厳密にベクレルと、シーベルト換算して、線量をだすなら、もう一歩厳密に、自然界に太古から普通に存在し、生物がダイジェストできる放射線と、自然界に存在しない放射線との違いも計算にいれましょうよ。
まったく意味不明です。「生物がダイジェストできる」などという言い方も初耳ですが、「自然界に存在しない放射線」なんてものはありませんよ。アルファ線もベータ線もガンマ線も自然界に存在しています。
>自然界に存在しない原子は、生物の体内にはいったら、ほとんど、排泄できないから、少量でも危険だってこと、おおくの実験で証明されていることしりませんか?
はい、ダウト。そんな実験はありません。そもそもセシウムは「自然界に存在しない原子」じゃありません。天然のセシウム(セシウム133)は1860年に鉱泉の水から発見されています。そしてセシウム137はセシウム133と化学的性質はほとんど同じです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0
>なお、観測されている「濃縮」は環境中と細胞内での電解質濃度の差に由来するものであり、Kに対して際だってCsを濃縮する様な生物種は観測されていない。代謝に伴って常に生体内のアルカリ金属、アルカリ土類金属は細胞を出入りしており、重金属の場合のような蓄積に起因する「濃縮」は生じないとされる。
「生物学的半減期」というものがあります。体内に入った元素が排出されて半分になる期間のことで、セシウムの場合、約70日とされています。つまりセシウムが体内に入っても、排出されて70日ごとに半分になっていくんです。
>もし、あなたの計算がただしかったら、チェルノブイリ、スリーマイルアイランド、だけじゃなく、なんで、原発従業員は浴びた線量を計算しなくては、いけないのですか?世界中の原発は、従業員が放射線をあびることを前提としてなりたっているのだから、かれらの健康状態をみれば、どれだけ安全か一目瞭然じゃないですか?
何をおっしゃりたいのか、まったく意味が分かりません。放射線を浴びすぎたら危険だから線量を常に計測しておくことの、いったい何がおかしいのですか?
>いい論文みつけました。
>これをみるとベクレル、シーベルト換算なんて、関係なく、閾値なしで、ガンが発生していますね。
>これは、放射線研究に権威あるジャーナルで、これに採用される論文は、厳格な検査を通っているはずです。デマじゃありませんよ。念のため。
>http://www.rrjournal.org/doi/pdf/10.1667/RR2629.1
>http://www.rerf.or.jp/news/pdf/lss14.pdf
あのー……。
失礼ですが、あなた、この論文、ちゃんと読まれました?
これ、広島・長崎で大量に被曝した方の追跡調査結果なんですけど。被曝量が0.2グレイとか1グレイとかいうレベルの話ですよ。
ご存じないようなので言っておきますが、グレイ(Gy)というのは物体に吸収される放射線の量で、シーベルトというのは、放射線ごとに定められた放射線荷重係数という数字をグレイに掛けたものです。ベータ線やガンマ線では放射線荷重係数は1なので、グレイ=シーベルトです。
つまり1グレイはおよそ1シーベルト=1000ミリシーベルトです。
「ベクレル、シーベルト換算なんて、関係なく」というのではなく、この論文ではシーベルトの代わりにグレイが使われてるだけなんですよ。
念のために言っておきますと、僕がいつも使っている放射線関係のデータは、主として原子力資料情報室(CNIC)という反原発系のサイトから引用しています。
原子力資料情報室(CNIC)
リンク先を見たら、反原発だって一発で分かるはずなんですが。田所真知子さんはこういうサイトに書いてあることも信じないのでしょうか。
反原発系のサイトに書いてあるデータを信じずに、いったい何を信じるんですか?
>太田潤さん
>放射性物質が体内に蓄積されることを計算していませんよね。
>1日食べれば、130マイクロシーベルト。2日食べれば、260マイクロシーベルト。10日食べれば1300マイクロシーベルト。そして一年食べれば、47450マイクロシーベルトになります。
>安全だと証明する記事ならば、こうした計算を入れないといけないと思うのですが?
あの文章をどう読めば、こんなものすごい誤読が生じるんでしょうか?(笑) 1年間食べ続けても130マイクロシーベルトだと書いたんですが。
こういうそそっかしい人がデマに騙されちゃうのかな。
他にも、ツイッターでこんなことをつぶやいていた人が。
http://b.hatena.ne.jp/araigumanooyaji/20120429#bookmark-91798302
>内部被曝と外部被曝の区別がついていない上、カリウムとセシウムを同列で論じるとは・・・一人で食ってろ
これだけ新聞やテレビでシーベルトシーベルトと騒がれてるのに、いまだにシーベルトの意味が分かってない人のようです。シーベルトというのは放射線が人体に与える影響を示す単位で、外部被曝の1シーベルトも内部被曝の1シーベルトも同じなんですけど。
もちろん実効線量係数を定める際には、セシウムとカリウムの性質の違いも考慮されています。つまりセシウムによる1マイクロシーベルトの被曝とカリウムによる1マイクロシーベルトの被曝は同じです。
>らっつ&すたーさん
>PCBのような分解できないので体内に蓄積できる物質とは違い、重金属と同じように体外に自然排出される部分というのは無いのでしょうか?
> 排泄や新陳代謝という行為で体外に排出がある程度されるのであれば、飲食で仮に摂取したとしても永久に体内被曝をするわけでは無いと思うのですが、この部分についての話がネット等で調べてもあまり出てきません。
「生物学的半減期」で検索してみてください。
>あの・・・さん
>危険性は、定性と定量の話に分けて考える必要がある、ってどこかの本に書いてあった気がしたんですがあれは山本さんの本では無いですか?
>「たとえば喫茶店の砂糖壷に毒を入れる狂人がいる可能性はゼロではないが、全国の飲食店の砂糖壷を全部検査しようと主張する人はいない。定性と定量の区別がついているからだ。」
> みたいな話だったような。
>…偽記憶でしょうか?
喫茶店の砂糖壺の話は偽記憶ですね。僕はそんなの書いた覚えはありません。他の方の本では?
ただ、砂糖ではなく塩分については、『ニセ科学を10倍楽しむ本』の中でこう書いています。
>パパ「そう。もし本当に一升びん1本、つまり1800ccものしょうゆを飲んだ人がいたら、病気になるどころか、死んでしまった可能性が高い。コップ一杯でも危険だ。死ななくても、ものすごく苦しい思いをするだろう。だから絶対にまねしちゃいけない」
>夕帆「しないよ、そんなバカなこと(笑)」
>ママ「でも、知らなかった。ふだん、なにげなく使ってるけど、おしゅうゆって実は危険なものなのね」
>パパ「だからと言って、『しゅうゆは危険だから買ってはいけない』なんて言う人はいないだろ? たしかに塩分のとりすぎは有害だけど、料理にしょうゆをスプーン一杯入れたり、おさしみにちょっとつけるぐらいなら、ぜんぜん害はないんだよ。
放射線の場合、塩と違って少量なら人体に良いということはないのですが(僕はホルミシス仮説を信じてませんので)、「少量なら安全」ということは確実に言えます。
問題は放射性元素が含まれているかどうかではなく、それがどれぐらいの量か、ということです。日常生活で食べ物から摂取するカリウム40や炭素14による被曝量を少し上回る程度なら、まったく気にする必要はありません。