「昔のSFを読み直そう」報告

 遅くなりましたが、4月26日の山本弘のSF&トンデモNIGHT#21 「昔のSFを読み直そう!」の報告です。

 何で僕がクラシックSFを推すかというと、今のSFは難しくて、初心者にはとっつきにくいものが多いから。設定が複雑だったり、登場人物がやたら多かったり、専門用語が説明なしに出てきたり。

 もちろん僕も、グレッグ・イーガンとかは大好きなんだけど、さすがに初心者にいきなり『ディアスポラ』を読めとは言えません(笑)。とりあえず『宇宙消失』『しあわせの理由』『万物理論』あたりから入りましょうと。

 その点、クラシックSFというのは、難しくなくてすらすら読める。しかも面白い。クラークの作品なんかその典型で、科学をまったく知らなくてもよく分かるし、それでいて楽しませてくれます。だから人に勧めやすい。

 特に僕が好きなのは短篇SF。

 高校時代、学校の図書室で借りた早川の世界SF全集『世界のSF(短篇集)現代編』で、短篇SFの面白さにハマりました。レスター・デル・リィ「愛しのヘレン」、クリス・ネヴィル「ベティアンよ帰れ」、トム・ゴドウィン「冷たい方程式」、ダニエル・キイスアルジャーノンに花束を」とかは、これで読んで感動しました。リチャード・マシスンを知ったのも、この本で読んだ「次元断層」がきっかけ。シオドア・R・コグスウェルの「壁の中」とかマレイ・ラインスターの「最初の接触」とかもこれに載ってたんですよねえ。

 あと、ジャック・フィニイの実話ホラータッチのタイムスリップもの「こわい」が、個人的にすごくこわくて印象に残ってます。嘘っぱちだと分かってるけど、リアルでぞくぞくくる。いつかこの手法、換骨奪胎してやりたいと思ってるんだけど、どう考えても元ネタを超えられないのが悔しい。

 ここ数年、70年代以前のSF、特に短篇の名作がいっぱい復刻されていて、嬉しい限り。今回はそれらをまとめて紹介しようという試みでした。いずれも、2000年以降に出たか、再版されているので、現在でも容易に手に入るはず。

 まずはアンソロジー

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 volume?』(ハヤカワ文庫)

 日本SF作家クラブ50周年を記念し、50年間に出版された短篇SF50本を収録するアンソロジー。その第一弾で、1963〜1972年までの作品が収録されてます。

 光瀬龍「墓碑銘二〇〇七年」、豊田有恒「退魔戦記」、石原藤夫「ハイウェイ惑星」、星新一「鍵」、荒巻義雄「大いなる正午」半村良「およね平吉時穴道行」など、なつかしい名作ぞろい。

 筒井康隆「おれに関する噂」は久しぶりに読み返したけど、やっぱり面白かった。ぜんぜん古くなってません。

日下三蔵編『日本SF全集 1』(出版芸術社

 同様の企画で、2巻まで出ています。やはり星新一「処刑」、小松左京「時の顔」、平井和正「虎は目覚める」、豊田有恒「両面宿儺」、矢野徹「さまよえる騎士団の伝説」、半村良「赤い酒場を訪れたまえ」、山野浩一「X電車で行こう」など、その時代を代表する作品ばかり。

 筒井康隆「カメロイド文部省」は久しぶりに読み返したけど、やっぱり面白かった。ぜんぜん古くなってません。

筒井康隆編『60年代日本SFベスト集成』(ちくま文庫

 かなり前に出たアンソロジーの文庫化。『日本SF短篇50』とは「ハイウェイ惑星」と「大いなる正午」が、『日本SF全集』とは「X電車で行こう」がかぶってますが、星新一「解放の時代」、眉村卓「わがパキーネ」、手塚治虫「金魚」「そこに指が」、小松左京「終りなき負債」、平井和正「レオノーラ」などが入ってます。

 筒井康隆「色眼鏡の狂詩曲」は久しぶりに(以下略)。

 やっぱり個人的にいちばん波長が合うのが筒井さんですね。大森望編『星雲賞短編SF傑作選 てのひらの宇宙』(創元SF文庫)に収録された「フル・ネルソン」も、面白いのでおすすめです。

中村融山岸真編『20世紀SF?1940年代 星ねずみ』(河出文庫

 40年代の海外短篇SFを集めたアンソロジー。ブラウンの「星ねずみ」、ブラッドベリの「万華鏡」、ハインラインの「鎮魂歌」などが有名だけど、僕のおすすめは、C・L・ムーアのサイボーグものの名作「美女ありき」と、チャールズ・L・ハーネスの奇想SF「現実創造」。特に「現実創造」は高校時代に読んで、「こんな小説、書いていいんだ!?」と衝撃を受けた3本の作品のひとつ(あとの2本は、ブラウンの「みみず天使」と、ウィリアムスンの「火星ノンストップ」)。「シュレディンガーのチョコパフェ」はこれに大きな影響を受けました。

 あと、スペースオペラ作家エドモンド・ハミルトンが、自らジャンルのバカバカしさを皮肉ったコメディ「ベムがいっぱい」や、シオドア・スタージョンの奇想時間SF「昨日は月曜日だった」もおすすめです。

中村融山岸真編『20世紀SF?1950年代 初めの終わり』(河出文庫

 これも傑作ぞろい。クラシックだけど実は現代に通じる話が多いです。タイムループものであると同時に一種の仮想現実ものであるフレデリック・ポール「幻影の街」や、リヒャルト・シュトラウスを未来に復活させるジェイムズ・ブリッシュ「芸術作品」、SF界で初めて同性愛を肯定的に扱ったというスタージョン「たとえ世界を失っても」など、いずれも時代を先取りしてます。一番のおすすめはポール・アンダースン「サム・ホール」。実体のない情報が国家をも転覆するほどの力になるという展開は、インターネット時代の今こそ読んでおくべき。同じ本に収録されているアルフレッド・ベスター「消失トリック」と同様、50年代の冷戦と赤狩りが影を落としてます。

 他にも、バルンガの元ネタであるロバート・シェクリイ「ひる」が入ってるし、マシスン「終わりの日」、ゼナ・ヘンダースン「なんでも箱」、エリック・フランク・ラッセル「証言」など、感動的な話も多いです。

フレドリック・ブラウン編『SFカーニバル』(創元SF文庫)

 ユーモアSFのアンソロジー。最近、復刻されました。1940年代にインターネットを予見していたラインスター「ジョーという名のロジック」は、一見の価値あり。バローズのパロディであるクライヴ・ジャクスン「ヴァーニスの剣士」の身も蓋もないオチにも大笑い。他には、ブラウンの奇想SF「恐竜パラドックス」が、これでしか読めません。

中村融編『時の娘』(創元SF文庫)

 時間SFのアンソロジー。帯に推薦文を書かせていただきました。

 ウィリアム・M・リーの「チャリティのことづて」は時を越えたラブストーリー。時間が逆に流れる世界を描いたデーモン・ナイト「むかしをいまに」や、タイムパラドックスもののハーネスの「時の娘」、そしてR・M・グリーン・ジュニアの「インキーに詫びる」など、傑作ぞろい。

大森望編『ここがウィネトカから、きみはジュディ』(ハヤカワ文庫)

 これも時間SFアンソロジーテッド・チャンタイムパラドックスもの「商人と錬金術師の門」、光が通り抜けるのに何年もかかるガラスが出てくるボブ・ショウ「去りにし日々の光」、南に行くほど時間が速くなる世界を舞台にしたデイヴィッド・マッスン「旅人の憩い」、タイムループもののリチャード・ルポフ「12:01PM」とソムトウ・スチャリトクル「しばし天の祝福より遠ざかり……」など。

 最高傑作は、F・M・バズビイの表題作。人生をばらばらの順序で生きる男の物語です。感動!

大森望編『きょうも上天気』(角川文庫)

 故・浅倉久志氏が訳した短篇SFの中から傑作をセレクト。『これから「正義」の話をしよう』で言及されたアーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」や、超能力少年の恐怖を描いたジェローム・ビクスビイの「きょうも上天気」、マック・レナルズのタイムパラドックスものの傑作「時は金」などもいいけど、個人的にはワイマン・グインの「空飛ぶヴォルプラ」を再録してくれたのが嬉しい。

 ウォード・ムーアの「ロト」は、若い頃に読んだときはピンとこなかったけど、今読むとすごくよく分かります。

伊藤典夫編『冷たい方程式』(ハヤカワ文庫)

 こちらは伊藤典夫氏の訳した作品を集めたアンソロジー。ゴドウィンの表題作もいいけど、シェクリイ「徘徊許可証」や、C・L・コットレル「危険! 幼児逃亡中」もいい。

中村融編『影が行く』(創元SF文庫)

 こちらはホラーSFのアンソロジー。元は2000年に出たんだけど、昨年、『遊星からの物体X』再映画に合わせて復刊。これも推薦文を書かせていただいた。

 人間に擬態するモンスターの恐怖を描くジョン・W・キャンベル・ジュニアの「影が行く」は、1938年という時代を感じさせない、古典的な傑作。不定形生物が大都市を襲うシオドア・L・トーマス「群体」は、最後が怪獣映画みたいなスペクタクルに。マシスン「消えた少女」、ジャック・ヴァンス「五つの月が昇るとき」、アルフレッド・ベスター「ごきげん目盛り」など、どれも面白いけど、やはり最後のブライアン・W・オールディス「唾の樹」がベスト。

 H・G・ウェルズへのオマージュ(ラヴクラフトもちょっと入ってる)で、19世紀イギリスの田舎を舞台にした侵略もの。たぶんオールディスはお遊びのつもりで書いたんだろうけど、普通に面白く読めます。個人的にはオールディスの作品でこれがいちばん好き。

中村融編『地球の静止する日』(創元SF文庫)

●ハリイ・ベイツ他『地球の静止する日』(角川文庫)

 2008年、映画『地球が静止する日』の公開に合わせて出版されたアンソロジー。いずれもSF映画やSFドラマの原作を集めてますが、収録作は1951年の『地球の静止する日』の原作(あんまり似てない)であるハリイ・ベイツの「主人への告別」以外、まったく異なります。

 前者にはスタージョン「殺人ブルドーザー」、ハインライン「月世界征服」、後者には『デス・レース2000年』の原作であるイヴ・メルキオール「デス・レース」、『アウター・リミッツ』の原作であるジェリイ・ソール「アンテオン遊星への道」、クリフォード・D・シマック「異星獣を追え!」、ハーラン・エリスン38世紀から来た兵士」などの珍しい作品が入っていて、SF映画&ドラマ・ファンなら必見。特に「宇宙怪獣メガソイド」の原作であるシマックの作品は、ずっと読みたかったから、個人的に舞い上がりましたね。

中村融編/エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』(河出文庫

 前に奇想コレクションから出た本の文庫化ですが、こっちの方が断然いいので買い直しました。なんといっても、「フェッセンデンの宇宙」が、1937年版と1950年版、両方入ってる! 読み比べてみると、13年の間にハミルトンが上手くなったことがよく分かります。僕らが読んでいたのは50年版の方でした。これも『神は沈黙せず』を書く時に大きな影響を受けました。

 他にも、「向こうはどんなところだい?」「翼を持つ男」は泣ける話だし、ショートショート「追放者」や、ハミルトン自身がマイ・ベストSFに選んだ「世界の外のはたごや」もおすすめ。

中村融編/エドモンド・ハミルトン『反対進化』(創元SF文庫)

 これもハミルトンの短篇集。時代順に並んでおり、デビュー直後の「アンタレスの星のもとに」というトンデモない大駄作(笑)から、「呪われた銀河」「ウリオスの復讐」「反対進化」「異境の大地」など、スケールの大きな奇想SFの数々を経て、晩年の傑作「プロ」が最後に来るという構成が見事。最初からハミルトンの軌跡をずっとたどってくると、自伝的作品「プロ」でしみじみ泣けちゃうんですわ、これが。

フレドリック・ブラウン『天使と宇宙船』(創元SF文庫)

 ブラウンの短篇集は何冊も出ているけど、一番のおすすめはこれ。何といっても「ミミズ天使」が入ってる! 初めて読んだ時、ラストの謎解きでひっくり返ったなあ。これも奇想SFの傑作。復刊されていて、今でも手に入ります。

 他にも「気違い星プラセット」「ユーディの原理」「不死鳥への手紙」などの短篇が面白い。ショートショートでは「非常識」が好き。

シオドア・スタージョン『海を失った男』(晶文社

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社

シオドア・スタージョン『輝く断片』(河出書房新社

シオドア・スタージョン『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』(河出書房新社

 近年、日本での再評価が進んだスタージョン。「ビアンカの手」「シジジイじゃない」「墓読み」「海を失った男」「雷と薔薇」「孤独の円盤」「マエストロを殺せ」「帰り道」「必要」など、傑作が多い。

 ストーリーは説明しづらいんで、とにかく「読め」としか言えません。

アルフレッド・ベスター『願い星、叶い星』(河出書房新社

ゼナ・ヘンダースン『ページをめくれば』(河出書房新社

 河出の奇想コレクション・シリーズはどれもはずれがないけど、特にこの二冊をおすすめしておきます。

 他にも、会場で紹介したのが、岩崎書店が2003年から復刻している児童向けSFシリーズ。『宇宙のスカイラーク号』で、ドロシーがシートンの妹になってるのも驚いたけど、レイモンド・F・ジョーンズ『合成怪物の逆しゅう』や、トム・ゴドウィン『宇宙のサバイバル戦争』は、よくぞまあ当時の岩崎書店の人はこんな残酷な話を子供に読まそうと思ったなと(笑)、感心いたします。

 あと、生命を持った雪が人間を襲うリチャード・ホールデン『光る雪の恐怖』は、子供の頃に読んでたらトラウマになってたかも。