『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』最終巻

 6月8日、トンデモ本大賞からの帰りに購入、その日のうちに読了。

  いちおうネタバレは避ける方針だけど、勘のいい方なら容易に察してしまうかもしれないので、できれば未読の方はご遠慮いただきたい。

 いやー、すごかった!

 やっちゃったよ!(性的な意味でなく)

 いや、予想はしてた。前巻がああだったから、こういう展開になるんじゃないか、なれば面白いな、とは思ってた。

 その反面、「いくらなんでもそこまで書く勇気はないんじゃないの?」とか「宙ぶらりんで放り出してお茶濁すんじゃないの?」という疑念も捨て切れなかった。

 ハーレム状態にけりをつけるということは、言うまでもなく、主人公に選ばれなかった女の子たちが傷つくということだ。それは読者は望まないし、作者も書きたくないんじゃないだろうか。

 これは古典的な問題だ。その昔、あだち充『みゆき』の最終回で、賛否両論が巻き起こったのを思い出す。僕の知り合いにも、「あの終わり方は許せない!」と怒っている奴がいた。

 二者択一の結末でさえこうなのだ。『俺妹』みたいに五者択一(数えようによっては六者か七者かも)の場合、結末に満足しないファンの方が多いと予想される。

 まして作者は、熱狂的なファンから脅迫された過去がある。同じようなことが起きるかもしれないと予感して、明確な結論を出すことに不安や迷いを覚えていたとしても不思議じゃない。

 ところが。

 作者はこっちの予想を上回るど真ん中の剛速球を投げてきた。

 最高の見せ場は、何といっても、本のちょうど真ん中。見開きで発せられる、たった2文字の台詞。

 僕がその瞬間、覚えた感情は「痛快」。そして「感無量」。

 この2文字を言わせるために、この物語はあったんだな。

 しばらく本を伏せて、この2文字の余韻にひたってましたよ、ええ。

 しかもそこで終わりじゃなくて、後半の展開がさらに悶絶もの。京介たちの会話に何度噴き出したことか。こーの、バカップルがーっ!(笑)

 あやせのヤンデレ、黒猫の厨二病も例によって全開で、最後の最後まで笑わせてくれる。ラブコメの「ラブ」だけじゃなく「コメディ」の部分を大事にしてくれているのが嬉しい。

 でも、笑えるだけじゃない。

 京介に選ばれなかった女の子たちが、順に退場してゆく。そのくだりがもう、泣ける泣ける。

 彼女たちは傷つき、怒り、泣き叫ぶ。ハーレムを終わらせるということがどれほど残酷なことなのかを、作者はしっかり描いてみせる。

 特に盛り上がるのはクライマックスの「最終決戦」。

 これも予想してた展開とはいえ、本当に「修羅場」と化した。ああ、ここまで書いちゃうんだ。彼女にこんなひどいこと言わせるんだ。そして京介にこんな残酷なこと言わせるんだ。

 彼女のファンなら胸かきむしられること必至。

 でも、ここまで徹底的にやらなきゃ決着がつかないのも確か。

 さらにその後、京介が「この物語のラスボス」に対して啖呵切るのが、最高にかっこいい。

 ネットでこの結末への不満をぶちまけている連中の発言も読んだけど、はっきり分かるのは、彼らのほとんどが実際にはこの最終巻を読んでないということだ。ネットにアップされた乱暴な要約や2ページの抜粋だけ読んで腹を立て、あるいは嘲笑している。

 なぜそれが分かるかというと、作者は予想される反論や批判に対して、先回りして答えを書いているからだ。京介の口からはっきり「キモイ」と認めさせているのに、「キモイ」と批判するのは無意味だろう。

 そう、この話はキモイ。でも、かっこいい。

(ま、倫理的なこと言い出したら、中学生の女の子がエロゲやってる時点ですでにアウトなんだけどね(笑))

 もちろん、欠点を挙げ出したらきりがない。今回も「何でそれを録音してたんだよ黒猫!?」とか、笑いながらもツッコんじゃったし。他にも、上手く使われなかった伏線とか、途中から設定を変えたらしい部分もあり、作者が最後までどういう結末にもっていくか迷っていたのがうかがえる。読者に対してアンフェアな部分(京介の一人称で本当のことを言ってない)や、キャラクターの心理が不自然な部分もある。

 でも、それらを認めたうえでなお、僕はこの最終巻を評価する。

 作者は逃げなかった。

 物語を終わらせるために、愛すべきヒロインたちを傷つけることを決意した。京介といっしょに物語に向き合い、安易な結末や非現実的な結末をすべて否定し、最良の落としどころを模索した末に、ぎりぎりの妥協点にたどりついた。

 その真摯さと勇気に、僕は感動した。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の最終巻は、おそらくライトノベル界の伝説として語り継がれることになるだろう。

 しかし、ここまでやられたら、同じような作品を書いてる他の作者はつらいだろうなあ。同じことをやっても二番煎じになるだけだし、これ以下の結末を書いたら「『俺妹』に比べたらぬるい」と言われるだろうし。