『NOVA10』
大森望氏編集の書き下ろし日本SFコレクション『NOVA10』(河出文庫)に新作が載りました。
【収録作品】
北野勇作「味噌樽の中のカブト虫」
片瀬二郎「ライフ・オブザリビングデッド」
山野浩一「地獄八景」
山本弘「大正航時機綺譚」
伴名練「かみ☆ふぁみ! 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」
森奈津子「百合君と百合ちゃん」
倉田タカシ「トーキョーを食べて育った」
木本雅彦「ぼくとわらう」
円城塔「(Atlas)3」
瀬名秀明「ミシェル」
僕の「大正航時機綺譚(たいしょうたいむましんきだん)」は、大正時代を舞台に、タイムマシン詐欺を企む親子を描くSF落語。
このネタは10年以上前に思いついたものの、どう書いたら面白くなるか分からず、ずっと温めていました。ある時、「落語にすりゃいいんじゃね?」と思いつき、こういう形になりました。ちゃんと落語として演じられるようになってるので、できればどなたか関西弁の喋れる落語家の方に演じていただきたいです。
ただ、単行本になったのをあらためて読んでいると、二箇所、ミスを発見。何で作者と編集者と校正者(この場合は編者も)が原稿とゲラで目を通してるのに、こういうミスが残ってるかなあ。ポーの「盗まれた手紙」みたいもので、ゲラチェックでは細かいところばかりに注意してるから、逆に大きなミスに気づかなかったりするんですよね。
ちなみに、僕の前に載ってるのが、なんと山野浩一氏の33年ぶりの新作! タイトルは「地獄八景」。偶然だけど、落語ネタがかぶりました。
他にも、個人的に面白かった作品をいくつか。
菅浩江さんの「妄想少女」は、要約すると「心はいつも18歳」。
電力不足と老人問題に苦しむ近未来の日本を舞台に、心の中に宿る18歳の少女をよりどころにして生きる55歳の女性の話。自分の右腕を「封印」してたり、中二病っぽい妄想なんだけど、決して現実逃避じゃなく、妄想を現実に立ち向かう力として肯定する姿が感動的。
木本雅彦「ぼくとわらう」は、日常の出来事やその時の感情などを勝手に記録してくれるライフログというものが普及している時代の話。ダウン症の主人公は、自伝を書くため、これまでに出会った3人の女性に、ライフログを見せてくれるよう頼むのだが……。
この作者、『声で魅せてよベイビー』や『星の舞台からみてる』がすごく面白かったんですよね。この作品も、単なる日記とどう違うのかと思ってたライフログというガジェットから、思いがけないドラマが展開します。
読んだ中でいちばん楽しめたのは、伴名練「かみ☆ふぁみ! 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」。
ラノベっぽいタイトルだけど、中身ももろにラノベで、10代の少年少女が主人公のラブコメ。
でも、これがすごい奇想SF!
ヒロインはラプラスの魔的な能力を持つ、ほとんど全知全能の女の子。
「たかが、全宇宙の全歴史をシミュレートする程度の能力」
「バタフライ・エフェクトを操る程度の能力」
何それ!?(笑) そんなチートで話が成立するのかと思ったら、するんですねー、これが。
舞台は終始、現代日本なのに、時間と空間を超越したとんでもないスケールの物語が展開します。編者の解説で、うえお久光『紫色のクオリア』に触れてるけど、まさにあんな感じ。
これ長編一冊分のネタだよ! ラノベだったらシリーズものだよ! それをたった70ページに凝縮しちゃってる。
この人の作品、前の「ゼロ年代の臨界点」も面白かった。僕と波長の合う作品を書いてくれる人のようなので、今後、ごひいきにさせていただきます。