アングレーム国際漫画祭で何が起きたか

「フランスの国際漫画祭で日本のブースが韓国人とフランス人主催者に破壊されて撤去された」というのは本当なんでしょうか?

http://togetter.com/li/622922

>フランスでの国際アニメフェスティバルで、日本のブースが韓国人により破壊され、会場は韓国人に占領されてしまいました。

「国際アニメフェスティバル」ではなく「アングレーム国際漫画祭」。

「日本のブース」ではなく「日本の民間団体『論破プロジェクト』のブース」。

「韓国人により破壊」ではなく「大会主催者により撤去」。

「会場は韓国人に占領」そんな事実なし。

 とまあ、いきなりすごい誤報から幕を開けた事件である。

 1月30日以来、産経新聞が続けてこの事件を取り上げている。こちらはさすがに大手メディアだけあって、ほぼ事実に近いんだけど……。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140130/erp14013021050006-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140201/kor14020100390002-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140201/kor14020100310000-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140202/erp14020221470004-n1.htm

 しかし、かんじんの、この「論破プロジェクト」というのがどういう団体なのかという説明が、すっぽり抜け落ちている。

 実はこの団体、幸福の科学がからんでいる。

 後援団体のひとつに幸福の科学の名があるし、論破プロジェクトのマスコットキャラクター「トックマくん」自体、もともと2012年の都知事選、2013年の参院選で、幸福実現党が使ったものなのだ。

 現在、後援団体を記載したページは削除されているが、そんなもんで関係がごまかせるわけがない。

 早くも「やや日刊カルト新聞」で暴かれている。

仏・国際漫画祭で出展中止の"日本側団体"は幸福の科学がらみ

http://dailycult.blogspot.jp/2014/01/blog-post_671.html

アングレーム国際漫画祭"論破プロジェクト"への関与、幸福実現党幹部が語っていた

http://dailycult.blogspot.jp/2014/02/blog-post.html

 論破プロジェクトが幸福の科学がらみであることを知っているかどうかで、このニュースから受ける印象はまるで変わるはずだ。

 なぜ産経新聞は論破プロジェクトの背景について何も触れなかったのか? 決まってる。

 産経新聞幸福の科学から多額の宣伝費を貰ってるから。

 産経新聞を購読してると、紙面の下の方に頻繁に『Liberty』や大川隆法の本の広告がでっかく載っていて、いやでも目につく。映画公開の時には全面広告も載る。この教団はどんだけ潤沢な資金持ってんだって、いつも感心してる。

 つまり産経にとって、幸福の科学は最大手のスポンサーなのだ。うかつに触れられるわけがない。

 それにしても、いつも「マスゴミは信用できない!」とか言ってる連中が、こういうニュースの裏を読まないってのも情けない話である。「フジサンケイグループは韓国に支配されてる」んじゃなかったの?(笑)

 さて、この第一報を目にして、僕は疑問に思った。

 そもそもこういうイベントを政治宣伝の場にすること自体がおかしいわけだけど、だったらなぜ喧嘩両成敗にならず、論破プロジェクトの側だけが撤去されたのか。

 どうやらその理由のひとつは、展示されているマンガの中にハーケンクロイツが使われていたことらしい。

 どんなマンガだったんだろう……と興味を抱いて画像を探してみたら。

http://daisukinipponfrance.over-blog.com/2014/01/3-mangas-sauv%C3%A9s-de-voldemort%E3%80%80%E6%8B%A1%E6%95%A3%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%9E.html

 ……あのさあ。

 慰安婦問題がとか、ハーケンクロイツがとかいう以前に、ツッコませてもらおう。

 これコミPo!じゃん!

 いや、コミPo!が悪いソフトというわけじゃないよ。僕も同人誌作るのに使ったことがあるし。

 でも、仮にも国際漫画祭というイベントに出展する作品をそれで作るって、あまりにも非常識すぎやしないか? 同人誌即売会か何かと間違えてない?

 しかも内容が問題。

>かつてナチスドイツの宣伝相ゲッペルスは言ったわ。

>意訳「ウソも100回言えば、真実になる」

ゲッペルスじゃなくてゲッベルスだよ!

参考:

ゲッベルスは「嘘も100回言えば本当になる」と言った』というのは嘘

http://techpr.cocolog-nifty.com/nakamura/2011/06/post-5fef.html

 確かにゲッベルスは似たようなことは述べてはいるが、「ウソも100回言えば、真実になる」とは言ってない。それは日本人が作った言い回しだと考えるのが妥当だろう。

 また、この作者、欧米ではハーケンクロイツそのものがタブー視されていることを知らなかったらしい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%84

>第二次世界大戦後のドイツでは、学問的な理由を除き、ハーケンクロイツなどのナチスのシンボルを公共の場で展示・使用することは、民衆扇動罪で処罰される。ただし私有地や個人での所持、思想へ禁止はしていない。ドイツを含めて各国のネオナチの一部は現在でも使用している。

>ドイツ軍兵器のプラモデルにおいてはハーケンクロイツがボックスアートでは省略されたり、田の字状になっている他、デカールの形状が2つに分けられ、接着しないとハーケンクロイツの形に見えないようにしている等の対策がされている事が多い。これは鉄道模型メルクリンなど)でも同様である。 これを受けて、少林寺拳法は1947年の創設以来、シンボルマークや胸章に卍を使用してきたが、ヨーロッパでの普及にあたってハーケンクロイツとの混同を避けるため、2005年から新しいシンボルマークに変更している。また、ポケットモンスターカードゲームのカードに卍が印刷されていたが、欧米のユダヤ人団体の抗議によりデザインが変更された。その他、ウォー・シミュレーションゲームなどではハーケンクロイツそのものを削除してしまう(「Silent Hunter」シリーズほか)他に「二つに分割」、「十字に置き換え(「第三帝国興亡記」)」、「鉄十字に置き換え」など規制をかわしている例も見られるが、日本で製作されたソフトの中にはハーケンクロイツがそのまま入っている作品も存在する。セリエAのサッカークラブ、フィオレンティーナはユニフォーム柄の一部が卍に見える箇所が有るとのクレームで変更に至った。

 ドイツ人はもちろん、ナチスにひどい目に遭った周辺諸国の人々も、ハーケンクロイツに対しては過敏な反応を示す。軽々しく使っていいものではないのだ。

 だから当然、フランスで展示するマンガを作る(「描く」とは言わない。この作者が自分で描いてるわけじゃないから)際には、そうした点に考慮する必要があったはずだ。

 それに続くコマも問題。

>これはプロパガンダの手法として、今でも通用するわ

>たとえば2013年11月、韓国大統領が欧州を歴訪したとき

>各国で日本の悪口を言いふらしてまわったんだけど

>これが続くと韓国の主張がたとえウソでも、世界は本当だと思うようになる

 このページでは「けれどもそれはナチス賛美ではないことは、見れはすぐに分かります。逆の意味です!」と主張しているが、問題はそんなところにないのは明白だろう。

 先に書いたように、「ウソも100回言えば、真実になる」というのはゲッベルスの言葉ではない。だからこの言葉を使うのに、ゲッベルスの名を出す必要も、ハーケンクロイツを出す必要も、まったくなかったはずだ。

 じゃあなぜそんなことをやったかというと、単に韓国大統領の朴槿恵ナチスのイメージをダブらせようという、悪意あるプロパガンダ以外の何物でもない。

 日本なら「こんな表現のどこが悪いんだ」と主張する人もいるだろう。日本では問題にならないかもしれない。

 だが、欧米の基準からしたら完全にアウトだ。たとえ主張が正しくても、表現自体が間違っている。誰かをナチス扱いするというのは、欧米では最大級の侮辱なのだから。

 これはフランスのイベントで、主にフランス人に見せるために作られたマンガだ。当然、フランス人がどう思うかを考慮しなくてはならなかったはずだ。

 誤解されないように言っておくが、僕は慰安婦問題について反論するなと言ってるんじゃない。本当に真実を訴えたいと願うなら、メッセージを伝えたい相手に、正しく伝わるべきものでなくてはいけない、と言っているのだ。

 このマンガの作者や、この展示を許可した論破プロジェクトのスタッフには、「自分たちがやっていることが、フランス人からはどう見えるか」という視点が、根本的に欠落していた。

 産経新聞によれば、アングレーム国際漫画祭のニコラ・フィネ実行委員は、論破プロジェクトの作品を拒否した理由について、「こうした極右思想・団体とは戦う」と述べているという。

「それは誤解だ!」と怒る人もいるだろう。だが、このマンガを見たらそう誤解されてもしかたがない。

 忘れてるかもしれないが、日本はナチスの同盟国だったのである。

 その日本が、隣国に対して重大な人権侵害をやったと非難されている。

 それは濡れ衣かもしれない。だったら、なおさら誤解を招かないよう、穏やかに事実だけを訴えるべきではなかったのか。

 それなのに、こんなギャグ混じりのふざけたマンガを作り、なおかつ他国の国家元首ナチスになぞらえるという悪質なことをやったら、猛烈な反発を食らうのは当たり前ではないか。

 相手を怒らせるようなものを作ってどうする。かえって日本の印象を悪くするだけだろ?

 韓国人がマンガでひどい反日宣伝をやってる? うん、だったら日本人がそれを真似しちゃだめだよね。

 ネットではこういうのを「韓国面に堕ちる」と言うらしい。

 あと、幸福の科学とつるんでるのも、絶対にまずい。

 前に『トンデモノストラダムス本の世界』でも書いたけど、大川隆法教祖の初期の著作『ノストラダムス戦慄の啓示』(幸福の科学出版)は、日本が軍国主義化して世界を支配するのが正しいと(ノストラダムスの霊言という形で)書いたものである。

 何箇所か引用しよう。ちなみに文中に出てくる「怪物」「リヴァイアサン」というのは日本のことである。

 最も愚かなる者がいる。

 ああ、他人のひさしを借りて生業を立てる者よ。

 東洋の淑女よ。

 お前は数限りなく犯され続けてきた。

(中略)

 引き裂かれたる姉妹が、一つになろうとするとき、

 この姉妹の不幸が起きる。

 この由緒ある家柄に育った姉妹は、

 再び怪物に犯され、怪物の子を孕むことになる。

 おまえたちは怪物の子を産むことのみによって、

 生き残ることが許されるのだ。

 その子をもし産まぬというならば、

 おまえたちの命もまたないであろう。

 怪物の子を、もし中絶するというならば、

 おまえたち姉妹は、

 リヴァイアサンに食べられてしまうことになるだろう。

(41〜43ページ)

 二十一世紀、リヴァイアサンは無敵となるであろう。

 年老いた鷲の喉を食いちぎり、

 また、力尽きた赤き熊を打ち倒し、

 老いたるヨーロッパを嘲笑い、

 中国を奴隷とし、朝鮮を端女とするであろう。

(159ページ)

 そして、朝鮮の人びとにとって悲劇であることには、

 彼らは、あまりにもリヴァイアサンの近くに

 住みすぎたということだ。

 かつて、リヴァイアサンにその脇腹を抉られ、食べられはしたが

 今度はその尻尾を食べられることになるだろう。

(169ページ)

 朝鮮半島についての部分だけ抜粋したが、実際には、アメリカ、ソビエトノストラダムスソ連が崩壊することは予知できなかったらしい)、イギリス、中国、インドなどなど、世界の国を片っ端から罵倒し、嘲笑し、侮蔑し、恫喝する内容である。

 たとえばノストラダムスの母国であり、この漫画祭の開催地であるフランスについての記述はこんな感じ。

 ああ、そこに踊っているのは老いたる貴婦人ではないか。

 おお、あなたを、もう二、三百年も見なかったような気がする。

 セーヌのほとりであなたが踊るロンドは素晴らしいが、

 ああ、どうしたのだろう。

 その目が落ちこみ、くぼみ、その頬がこけているのは。

 ああ、どうしたのだろう。

 華奢な体が、いつのまにか骨と皮に化けているのは。

(24ページ)

 見よ、見よ、セーヌ川の老処女が狡猾な目を向けて笑う。

 セーヌ川の老女は、鷲と蠍を天秤にかけているのだ。

 昼間は鷲とともにダンスを踊り、夜は蠍とグラスを傾けあう。

 二心ある女に幸福を招くものはない。

 鷲は、この老女を恐れよ。

 このセーヌ川の貴族趣味の香水に惑わされてはならない。

 この老処女は、悪しきことを心に抱いている。

(33ページ)

 この『ノストラダムス戦慄の啓示』は海外に訳されていないらしい。最終章に「諸外国の人びとには読ませてはなるまい」「英語や中国語や韓国語には、決して訳してはなるまい」と書いてあるからだ。

 フランス人が幸福の科学の本を読んだらどういう印象を受けるか、想像してほしい。

「極右思想・団体」と誤解されたくないなら、こんな教団との関係は断ち切るべきである。

参考:

幸福実現党の研究(3)ノストラダムス戦慄の啓示

http://www.kotono8.com/2009/08/28kouhuku03.html

 あと、ぜんぜん関係ないけど、ノストラダムスの詩に出てくるアンゴルモア(Angolmois)というのは、アングーモワ州(Angoumois)とその中心地だったアングレーム(Angoulême)のもじりである。ノストラダムスはヴァロワ=アングレーム家のフランソワ1世を念頭に置いて「アンゴルモワの大王」と書いたと思われる。