陰謀論はメディアリテラシーと正反対

 これは有名な問題なので、ご存知の方も多いと思う。知らない方はぜひチャレンジしていただきたい。

 ここに4枚のカードがある。そのどれも、一方の面にアルファベットが、もう一方の面に数字が印刷されている。

  A  K  4  5

 さて、「母音のカードの裏は必ず偶数である」というルールがあるとする。そのルールが正しいかどうか確認するには、どのカードをめくってみればよいだろうか。なお、めくる枚数はなるべく少ない方がいい。

 先日、メディアリテラシーの欠如の例を二つほど目にした。

原子力規制委員会、報告書内の「ストロンチウム」に当て字を使い検索されないように工作した疑い

http://hamusoku.com/archives/8406764.html

【悲報】電力と原子力の「力」をカタカナの「カ」にして内部文書を検索回避

http://togetter.com/li/677945

「"原子力(りょく)"ではなく"原子カ(か)"で検索すると出てくるpdf資料が「検索避けの隠蔽工作か!?」と一部で話題。

http://togetter.com/li/677948

 原子力規制委員会の報告書の中に、「原子カ(げんしか)」とか「ス卜口ンチウム(すぼくちんちうむ)」という言葉が使われていた。これは検索よけの工作で、都合が悪い資料を隠蔽しようとしているのだ……と、一部の反原発ツイッターで騒ぎ立てたのである。

>原子力 で検索すると普通。

>原子カ(←カタカナのカ)

>で検索すると、専門的なPDFの資料がどっちゃり出てくるよ。

 僕はすぐに読んでみたのだが、べつに隠蔽が必要な文書なんかじゃない。だいたい、隠蔽したいのなら、そもそもネットに上げないんじゃないか?

http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi_wg/data/0010_06.pdf

 さらに僕は、念のために調べてみた。原子力と関係のない言葉で検索をかけてみたのだ。

「努カ(どか)」「カ士(かし)」「口ボット(くちぼっと)」「口ーン(くちーん)」「アー卜(あーぼく)」「ファース卜(ふぁーすぼく)」「卜イレ(ぼくいれ)」……そうしたら、出るわ出るわ、山のようにヒットした。

 他にも、「エ場(えば)」や「エ学(えがく)」もずいぶんヒットする。

 印刷された文書をOCRで取りこむ際、間違って「力(ちから)」が「カ(か)」、「ロ(ろ)」が「口(くち)」などと読まれてしまうことが多いらしい。また、元がPDF文書の場合、googleはそれを画像として取り入れたうえでOCRで読み取っているという。だからPDF文書に「原子力(げんしりょく)」という単語があると、googleはそれを「原子カ(げんしか)」と読んでしまうことがあるらしいのだ。

 リンク先でも指摘している人がいるけど、これは最初に出した「ウェイソンの4枚カード」の問題と同じである。

 正解は「A」と「5」なのだが、多くの人は間違って「A」と「4」と答える。

 ここで検証するルールは「母音のカードの裏は必ず偶数である」というもので、子音のカードの裏については何も述べられていない。「4」をめくってそれが子音であっても、ルールが破れていることにならない。もちろん母音であっても同じ。つまり「4」をめくることに意味はない。

 一方、「5」の裏が母音であれば、「母音のカードの裏は必ず偶数である」というルールは破れていることになる。つまりルールが守られているか検証するには、奇数である「5」を確認することが不可欠なのだ。

 人は何かの説を検証する際、その説が正しい証拠を探す傾向がある。実際には、間違っている証拠も探さなくてはならないのに。

「原子カ(げんしか)」とか「ス卜口ンチウム(すぼくちんちうむ)」で検索して「陰謀だ!」と騒いでいた人も同じ。陰謀説を補強する証拠ばかり探して、反証を探そうとはしなかったんである。

 他にも、こんな例がある。

水俣病:語り部の会会長宅に中傷電話「いつまで騒ぐのか」

http://mainichi.jp/select/news/20140610k0000m040018000c.html

 水俣病資料館「語り部の会」の会長の家に「そんなに金がほしいのか」などと中傷する電話がかかってきたというニュース。mixiではこれに対して陰謀論を唱えている人がいた。

>変態毎日新聞の自演工作か?差別と言う名の印象操作で馬鹿チョン保護キャンペーン臭プンプンするわ、もう証拠や証明出来ないようなこの手の記事は信用出来んわ、バカヒ新聞もな

 僕はすぐにこの「水俣病 中傷電話」で検索をかけてみた。そうしたら、毎日新聞だけでなく、熊本日日新聞西日本新聞も報じていることが分かった。

http://kumanichi.com/news/local/main/20140610002.xhtml

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/kumamoto/article/93514

 このうち西日本新聞の発信は「2014年06月08日(最終更新 2014年06月08日 03時00分)」、毎日新聞は「6月09日 18時51分」となっている。どう見ても西日本新聞の方が早い。しかも毎日新聞の記事より詳しい。毎日新聞陰謀説は成り立たない。

 ネットを見ていると、こういう安直な陰謀説を唱えているそそっかしい奴をよく見かける。朝日新聞毎日新聞のニュースを見ると、何の根拠もなしに「捏造だ」「信用できん」と決めつけるのだ。ちょっとググってみるだけで、他の新聞も報じていることがすぐ分かるというのに、そんな最低限の手間すらかけず、安直な陰謀論に走るのだ。

http://hirorin.otaden.jp/e307586.html

 もちろんマスコミの言うことを何でも鵜呑みにするのは危険だ。

 しかし、最低限の確認作業すらやらずに、「陰謀だ!」とか「捏造だ!」と決めつけるのは、メディアリテラシーとは正反対の愚かな行為である。マスコミには騙されていないけど、自分自身に騙されている。

 あと、「○○は捏造だったからこれも捏造に違いない!」という論法もよく見かけるけど、あれも頭悪いなあ。特に今の朝日新聞の記事を「捏造だ!」と決めつける奴が持ち出すのが、必ず1989年のサンゴ記事捏造事件だってのはどういうことなんだろう。25年も前に1カメラマンが起こした事件が、なぜ今の朝日新聞の記事が捏造である根拠になるのか、僕には理解不可能である。

 ある記事が捏造かどうかを判定するには、記事の内容をちゃんと調べなきゃだめなんだよ、当たり前だけどね。