近頃はやりのお手軽・ニセ歴史

 ニセ科学ならぬニセ歴史というものがある。

 ちょっと前まで、超古代文明がどうこういう話を信じている人が多かったけど(今ももちろんいる)、最近、それが変わってきているように思える。古代ではなく、資料もたくさんある近代の歴史について、嘘やデタラメを書き、歴史を書き換えようとしているものが目立つのだ。

 いわゆる「歴史修正主義」というやつだけど、「主義」など呼べる大層なものじゃない。単なる「素人の思いつき」程度のものを書き殴っただけのものが多い。当然。初歩的な間違いだらけなので、歴史にそれほど詳しくない人間でもツッコめる。

 今回はそういうのをいつくか並べてみた。

●例1・江戸しぐさ

 これなんかまさに、ニセ歴史の典型。前に書いたので、今回は省略する。

http://hirorin.otaden.jp/e362859.html

●例2・関東大震災時の朝鮮人虐殺はなかった」

『翼を持つ少女』でも取り上げたけど、実際、近年になってこういうアホな説が唱えられ、それを信じる者が出てきている。

 ちなみにこの珍説を最初に唱えた『関東大震災朝鮮人虐殺」の真実』という本、産経新聞が出版している。AMAZONのレビューを見ると、やはり騙されている人間が多いことがよく分かる。

http://www.amazon.co.jp/dp/4819110837

 ネット上ではきちんと反論ページを作ってくれている方がいる。

朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか

http://01sep1923.tokyo/

 要するに、震災直後に流れた「朝鮮人暴動」のデマを本気にする一方、虐殺に関する大量の記録や証言をすべてなかったことにするという、まことに単純な手法なのだ。

 一方、『九月、東京の路上で』の方には、上の『関東大震災朝鮮人虐殺」の真実』に騙されたと思われる者たちが、大量の低評価をつけている。トホホ。

http://www.amazon.co.jp/dp/490723905X/

●例3・「少年犯罪は凶悪化している」

 これなんかも一種の歴史修正主義だろう。「昔の少年犯罪は今ほど凶悪じゃなかった」というニセ歴史を唱えてるわけだから。

稲田朋美政調会長「少年犯罪が凶悪化〜」→根拠はあるの? Twitterの議論まとめ

http://togetter.com/li/789102

 竹田恒泰「特に最近は、少年の凶悪犯罪が非常に増えてて」などと、テレビで堂々とデタラメを言っている。 しかも例に挙げてるのが「女子高生コンクリート詰め殺人事件」! いや、それ最近の事件じゃねーし。27年も前の事件だし。

https://youtu.be/AQLIy8gt3kE

(10分50秒のあたり)

 戦前や戦後すぐの少年犯罪がどれほど凶悪だったかは、少年犯罪データベースを見ればすぐに分かる。最近の傾向を見ても、特に凶悪化しているようには見えない。

 要するに、過去にたくさんあった凶悪事件を忘れているので、「犯罪が凶悪化している」という錯覚が生じるのだ。

少年犯罪データベース

http://kangaeru.s59.xrea.com/

●例4・インパール作戦は成功したのである」

 太平洋戦争の中でも特に無謀で無計画、大勢の犠牲者を出して失敗に終わったことで名高いインパール作戦。それをまさか賛美する人間が現われるとは夢にも思わなかった。

日本会議インパール作戦の記述に牟田口廉也中将がツッコム

http://togetter.com/li/792328

インパール作戦はどれほど無謀な作戦だったのか?

http://togetter.com/li/792801

 これほど見事に失敗して何万人もの兵士を無駄死にさせた作戦を肯定的に評価できるんだったら、もう何でもありだぞ!

●例5・「古代の昔から、日本という国は穏やかな民主主義精神に富んだ国家であった」

神話や建国記述「間違ってない」「感動した」 一宮市教委の注意で削除の中学校長ブログに激励

http://www.sankei.com/life/news/150222/lif1502220014-n1.html

 仁徳天皇の「民のかまどは賑わいにけり」という話は、僕も子供の頃に何かで読んだ。理想的な支配者のあるべき姿を示したいい話だと思うし、フィクションだと説明すれば、べつに子供に教えてもかまわないと思う。

 でも、仁徳天皇昭和天皇、たった2例(しかも一方は伝説というか神話)を元に、こんな結論を導いちゃだめだろ。

> このように、初代、神武天皇以来2675年に渡り、我が国は日本型の民主主義が穏やかに定着した世界で類を見ない国家です。

> 日本は先の太平洋戦争で、建国以来初めて負けました。しかし、だからといってアメリカから初めて民主主義を与えられたわけではありません。また、革命で日本人同士が殺しあって民主主義をつくったわけでもありません。

> 古代の昔から、日本という国は、天皇陛下と民が心を一つにして暮らしてきた穏やかな民主主義精神に富んだ国家であったのです。

 えー(笑)。

 そもそも日本の歴史の中で、天皇がずっと政治の実権を握ってたわけじゃない。

 天皇や将軍が世襲制で、もちろん選挙なんかなく、身分の差もあった時代が「民主主義精神に富んだ国家」ってどういうことだ? この人の「民主主義」の定義って何だ?

 あと、明治維新は日本人同士が殺し合ったんじゃないのか?

 これは完全なニセ歴史。「水伝」や「江戸しぐさ」と同じぐらいデタラメだ。中学の校長ともあろう者が、こんなの子供に教えちゃだめだろ。

 こうしたお気軽・ニセ歴史、どれも基本的な歴史の知識があるか、知識がなくてもちょっと調べればすぐ論破できるものばかり。

 問題は、歴史に関する知識がなく、検索しようともしない人間が多いということ。そういう人間はころころひっかかる。「真実を初めて知った!」と感動するのだ。

 しかも、日本会議とか産経新聞とか、影響力のある組織やメディアが、こうしたニセ歴史を擁護しているという事実。

 彼らもやはり歴史に無知で、ニセ歴史に騙されているのか、それともニセ歴史と知りつつ広めているのか?

 どっちにしてもダメだろ。