彼らは調べようとしない・2

 最近、東日本大震災から4年も経って、さすがに放射能デマは少なくなってきたように思えるが、嫌韓デマや反・反日デマ(「これは反日活動だ!」と騒ぎ立てるデマ)はいっこうに治まる気配がない。

 たとえばこういうのがあった。

神社は燃えるもの

http://togetter.com/li/819442

>この短期間で神社仏閣の全焼ってこんなにあるの!

>マスゴミは何で報道しないんだよ!

 と驚く人たち。そして、当然、「外国人のしわざ」という話になってゆく。

>わかっているのは、こんなバチ当りな事は日本人に出来ないと言うことです。

>日本人にはこんなひどいことを神社仏閣にできません。

 おいおい、あんた、延暦寺とか金閣寺とか知らんの?(笑) つーか、日本人が神社仏閣を破壊した例なんて、歴史上いっぱいあるんだが。明治時代の廃仏毀釈とか。

 日本史を知らないこの人こそ、本当に日本人なのか疑問に思うのだが。

 そもそも「バチ当り」って言うけど、放火という行為自体が神をも恐れぬバチ当たりな行為なのだから、放火犯が神社仏閣を避けると思う方がおかしい。

>小泉純一郎政権→韓国人2006年3月より無期限ビザなし以降、神社仏閣への犯罪が大増加!これは日本へのテロだ!

 本当だろうか? ネットでは去年、すでに調べている人がいた。

毎年神社・寺社は平均毎週2〜3社ずつ燃えている

http://d.hatena.ne.jp/next49/20140501/p1

 2006年どころか、2003年からずっと、年平均約130件の神社・寺社の火災が起きていて、増加傾向は認められない。

 ちなみにこの人は2003年までしかさかのぼっていないが、僕がさらに調べたところ、2000年は152件、2001年は144件、2002年は155件だった。

 つまり、ちっとも増えてない。

 統計局ホームページの「宗教団体数,教師数及び信者数」のデータによると、平成24年現在、神道系の神社・寺院は81,131社。仏教系の神社・寺院は75,935社。合計15万7000社というところである。(教会、布教所は含まず)

http://www.stat.go.jp/data/nenkan/23.htm

 

 つまり大雑把に、1200社に1社ぐらいの割合で火災に遭っている。

「増えている!」と主張する人間は、こういうデータを調べようとしない。

 思うにこれは「福島で鼻血が増えている」というのと同じ話ではないだろうか? それまでと発生数は変わらないのに、急にそれが注目を集め、「増えている!」と騒がれているだけなのでは?

 ただ、普通の家に比べ、神社や寺が放火に遭う率が倍ぐらい高いのは事実である。

 たとえば平成24年の例で見ると、106件中46件が放火。年平均47件。

http://www.bousaihaku.com/cgi-bin/hp/index2.cgi?ac1=B310&Page=hpd2_tmp

 なぜ神社や寺は放火の標的にされやすいのか。ここのサイトに分析がある。

寺・神社の犯罪事情

http://www.hanzai.net/temple/

>泥棒や放火犯にとって、最も重要なことは「人目に付かず確実に逃げられること」。

>神社仏閣は下記の通り、犯人にとって「犯行しやすい環境」ベストコンディションであるということをぜひ認識し、少しでも対策することが重要です。

>「観光客、参拝者を装って下見」が可能。誰にでも開放されている場合が多いため、いつでも下見や犯行を行うことができる。

>樹木に囲まれており、道路など外部からの見通しが悪い。

>夜間暗がりがあり、隠れたり犯行を行うのに適している。

>誰にでも開放されているため、たまたま誰かに出くわしても参拝者を装い逃げることが可能。

>大切な仏像や宝物、賽銭などが手に届くところに置いてあり、周囲に人目がない時間帯が多い。

>無住の寺社も多く、異常が発見されにくい。

 まことに筋の通った説明である。

 もうひとつつけ加えるなら、「民家に火をつけるのに比べて罪悪感が少ない」というのもあるのではないだろうか。人のいない寺や神社に火をつけても、民家に比べて焼死者が出る可能性が少なく(それでも毎年何人か亡くなっているのだが)、建造物が燃えるのをただ見てみたいが人は殺したくないという奴には、心理的なハードルが低いのかもれない。

 そしてこの説明は、犯人が外国人でも日本人でも当てはまる。もちろん外国人が犯人の場合もあるが、「神社に放火」と聞いただけで「日本人に出来ない」と言い出すのは、明らかにおかしい。

 ちなみに、ツイッターでこの話を話題にしたら、こんなことを書いてきた奴がいた。

>@hirorin0015 @togetter_jp ひょっとして、最近多いシナ系の帰化人の方ではないでしょうね。日本語の堪能な優秀な工作員も入って来ているそうですが。

「最近」ってあんた(笑)。

 僕が作家であることはプロフィールに書いてあるし、ちょっと検索すりゃあ経歴なんかすぐに出る。たとえば僕が1978年の奇想天外SF新人賞で佳作に入った……なんてデータも出てくるんだが。

 だけど、検索しないんだよなあ、こういう奴は。

 前にも書いたけど、この手の「犯人は外国人」「犯人は在日」とかいう噂のほとんどはデマである。(嘘であることが判明しているか、真実であるという証明がない)

http://hirorin.otaden.jp/e273759.html

 だからこういう話は、まず「デマじゃないか」と疑うのが正しい。

 先日も、「神社に油を撒いていた犯人は在日コリアン」という情報が流れてきたんで、どうせまたデマじゃないかと疑ったら、本当だったんで驚いた。まあ、確率的には、デマみたいなことが実は事実という例もあるわけだけどね。

 でも、案の定、正しかった情報の他にも、無関係の人物・団体を犯人扱いするデマも流れていた……。

http://japanlove.jp/

【6月3日追記】

 最後のデマについて補足説明。

 容疑者が「米国在住で東京都内に拠点があるキリスト教系の宗教団体幹部(52)」「東京都出身で2013年に教団を設立」という報道から、2ちゃんねるで犯人探しが行なわれ、この手がかりに該当する3つの宗教団体の名前が挙がった。

 ところがそのうちのひとつ「日本キリスト教バプテスト会東京教会」の代表者・李起龍氏(42)が、名前が朝鮮名だというだけの理由で、たちまち「犯人」ということにされてしまったのである。

 その後、本物の容疑者は別の団体の金山昌秀という人物(在日韓国人。ただし、すでに帰化して日本人になっている)だと判明するのだが、あきれたことに、それでもデマは収まらない。

 今度は李起龍氏と金山昌秀が同一人物だというデマが流れるのだ!

寺社に油をまいた犯人に関するデマ

http://kyoumoe.hatenablog.com/entry/20150602/1433236126

 東京教会はすぐにデマを否定する声明を発表。

【寺社油まき事件】容疑者と誤解された教会が「一切関係ない」と異例の声明

http://getnews.jp/archives/983149

 はい、年齢も経歴もぜんぜん違いますね(笑)。

 当然のことながら、李起龍氏を犯人扱いして中傷した連中からは、まったく謝罪や反省の声は聞かれない。