鬼怒川決壊をめぐるデマ・3

 今回は非常に微妙な問題を扱う。というのも、まだ真相が分からない部分があるからだ。

鬼怒川堤防について

http://togetter.com/li/871943

 最初に注意しておきたいのは、このタイトルはまとめ主が後から変更したもので、最初のタイトルはこういうものだった。

【デマ注意】「鬼怒川堤防はソーラーパネル業者が削った」「事業仕分けスーパー堤防が廃止された」→対象外です

https://www.reddit.com/r/newsokur/comments/3kdf81/

 内容も大幅に変更され、別物になっている。幸い、まとめ主さんは魚拓を残してくれていて、元はどんなものだったかが分かる。

https://archive.is/quCMH

 このデマが拡散したきっかけは、10日の15時にアルファルファモザイクが「鬼怒川の堤防決壊、太陽光発電設置のために堤防を削ったことが一因ではないかと話題に」と報じたことだった。

http://alfalfalfa.com/articles/130779.html

 注意深く読むと分かるけど、このアルファルファモザイクが引用した書きこみ、「その場所の今をご覧ください」とあるだけで、この場所で堤防が決壊したとは明言していない。しかし、多くの人が「この地点で堤防の決壊が起きた」と誤解してしまった。

 実際にはグーグルアースで見ると、ソーラーパネルの位置と決壊地点は、直線距離で約4km離れている。

 ソーラーパネルの建設地点で起きたのは「越水」(水位が堤防を越えてあふれること)であり、「決壊」は起きていなかった。

 ちなみに朝日新聞の報道によれば、この日、他にも上流の二ヶ所で越水が起きていたという。

記録的な豪雨、改修予定の堤防襲う 鬼怒川決壊

http://www.asahi.com/articles/ASH9B5JTLH9BUTIL034.html

 さて、このTogetterのコメントで気になったのは、「ネトウヨの言うことは100%デマです」「また、ネトウヨがデマ流したのか」などと、ネトウヨのせいだと決めつける声があったことである。僕はそれは違うんじゃないかと思った。太陽光発電を嫌いな人がみんなネトウヨなわけじゃないだろうと。

 だから、こうコメントした。

>ネトウヨじゃなくて、「太陽光発電が嫌いな人」が流したデマじゃないのかな?

 そう思ったのは、以前から、太陽光発電を貶めるデマがしばしば流れていたのが気になっていたからである。たとえばこういうの。

「今時の台風で日本中のソーラーパネルがどういう末路を辿ったかキチンと報道すべき」→台風被害と無関係のまで台風被害の様に扱ってるぞw

http://togetter.com/li/693652

 昨年7月の台風8号の直後、破損したソーラーパネルの写真を4枚並べて「今時の台風で日本中のソーラーパネルがどういう末路を辿ったかキチンと報道すべき」とツイッターで流した人がいたのである。それを信じて拡散した者も多かった。

 だが、「今時の台風」の被害とされる写真のうち、1枚は同年2月の豪雪によるもの、1枚は同年6月の豪雨で流された流木によるもの、1枚は無資格工事で取り付けられたパネルが台風で落下したもの。

 残る1枚は2012年9月の台風17号で被害を受けた沖縄の写真。この時は那覇市で最大瞬間風速61.2メートルを記録、大型トラックが横転するなどの被害も出ている。そりゃあソーラーパネルだって飛ぶだろう。

 世の中にはこういう、「太陽光発電が嫌いな人」がいる。だからネットに流れる素人の情報をうかつに信じるのは危険だ、と思ったのである。

 その後、「昨年3月下旬、民間事業者が太陽光発電事業を行うため、横150メートル、高さ2メートル部分を削った」とマスメディアで報じられたことで、いっぺんに、「デマじゃなかった!」という声が広まる。

【続報】鬼怒川氾濫のソーラーパネル問題、デマじゃなかった!堤防が2mも削られていた模様

http://togetter.com/li/872100

 いや、ちょっと待ってほしい。このまとめでも指摘されているが、「ソーラーパネルのせいで『決壊』した」という最初の話は、結局デマだったのだ。最初にデマを拡散した人たちが「デマじゃなかった!」と開き直るのはおかしくないか?

 無論、越水によって被害が拡大したのは事実だ。しかし、水害の多くはソーラーパネルの建設と無関係な堤防決壊によるものである。水害の責任をすべてソーラーパネルのせいにするのはおかしい。

 誤解しないように。僕はこの民間事業者を擁護するつもりはない。越水が起きたのが自然堤防を削る工事をやったせいだとしたら、それは糾弾すべきだ。

 しかし、素人の判断で性急に決めつけるのは危険だ。

 先のテレ朝のヘリの話や、差別デマの話と違うのは、今すぐ結論に飛びつかなくてもいいということだ。

 デマの拡散は急いで防ぐ必要がある。しかし、すでに水害は起きてしまったのだから、今すぐに責任を追及しても、被害が減るわけではない。せめて何日か待って、もっと情報が集まってから結論を出してもいいのではないか?

 それに、素人による推理は間違いであることが多い。

迷探偵が多すぎる

http://hirorin.otaden.jp/e315536.html

 これまでも、ネット民の早とちりによって、無関係の人や団体が中傷されるという事例がいくつも起きている。それらの多くは、情報をちゃんと確認しようとせず、性急に正義を貫こうとしたために起きたことだ。

 たとえば3年前、大津市のいじめ自殺事件をめぐって、無関係の人が加害者親族と間違えられて誤爆されたことを、みんな忘れてしまったのか?

いじめ問題:やっぱりこんな事件が起きていた

http://hirorin.otaden.jp/e244973.html

 つい数ヶ月前にも、例の神社油まき事件で、無関係の別の教会の代表者が犯人と決めつけられて攻撃されたことを、もう忘れてしまったのか?

彼らは調べようとしない・2

http://hirorin.otaden.jp/e420247.html

 それともみんな、「自分はそんな間違いはしない」と思い上がっているのだろうか?

 まあ、これは以前にデマを拡散してしまったことのある僕の自戒でもあるのだが。

オーケン伝説」はやっぱり都市伝説だった!

http://hirorin.otaden.jp/e37563.html

 もし間違って、無関係な人を犯人扱いして攻撃したら、重大な誹謗中傷になる。みんな、その恐ろしさを理解していないのではないか。

 情報を拡散するのは大事だが、誰かを犯人だと名指しする情報を発信する場合には、他の情報に比べて何倍もの慎重さが要求されるのではないか?

 ……というようなことを考えていたら、まさに今、そんなことが起きていたと分かった。

弊社が所有する「常総市若宮戸ソーラー発電所」と、

鬼怒川氾濫に関する報道について(ご報告)

http://www.solar-energy-i.co.jp/pdf/info150912.pdf

 今回の一件で非難を受けているソーラーエナジーインヴェストメント社が、問題の自然堤防を切り崩したのは隣接する他社だと言っている。

 僕はここに掲載されている写真を見て、あっと驚いた。

 それまで、鬼怒川水害の写真に写っている水没したソーラーパネルは、しばしばツイッターで流れてきた水害前のグーグルアースの写真に写っているのと同じものだと思いこんでいた。

 実際はソーラーエナジー社のソーラーパネルは自然堤防の西側にあり、濁流に呑まれて見えなくなっていたのだ。映像に写っていたのは、自然堤防の東側にある他社のソーラーパネルだったのだ。

 グーグルアースの写真は古いもので、撮影された当時、まだ自然堤防の東側にはソーラーパネルは建設されておらず、西側のソーラーエナジー社のパネルだけが映っていたのだ。

 まずい。僕は太陽光発電施設が同じ場所に二つあったなんて、そんな基本的なことにすら気がついていなかった。おそらく、同じ誤解をした人は多いはずだ。

 実際、検索してみると、「鬼怒川堤防決壊の原因と言われる堤防を削ったソーラー設置会社ソーラーエナジーインヴェストメント」と、名指しで非難していた人が山ほどいた。「鬼怒川堤防決壊の原因」ではないのだから二重に間違いなのだが、デマを流された同社はたまったもんじゃなかろう。

 素人の推理がもたらしたデマの怖ろしさである。

「デマでなければ拡散してもいい」と思ったら大間違いだ。あなたが「デマではない」と思っているだけで、実は間違いかもしれないのだ。

 繰り返すが、僕は越水を招いた責任者を許してはいけないと思う。しっかり調査して、責任は追及すべきだ。

 だが、急いで「正義」を貫こうとするあまり、関係ない人に迷惑をかけてはいけない。

 そのためにも、慎重さが要求される。

「いいか。世の中で最も危険な思想は、悪じゃなく、正義だ。悪には罪悪感という歯止めがあるが、正義には歯止めなんかない。だからいくらでも暴走する。過去に起きた戦争や大量虐殺も、たいていの場合、それが正義だと信じた連中の暴走が起こしたものだ」(『翼を持つ少女』より)