東野圭吾『歪笑小説』

東野圭吾『歪笑小説』(集英社文庫

 いやー、東野さん、ここまで書いちゃっていいんですか(笑)。

 以前から「超長編小説殺人事件」「超税金対策殺人事件」など、小説の世界を題材にした短編をいろいろ書いてきた東野さん、今回の本も小説界を舞台にしたユーモア短編集。主人公は毎回変わるけど、登場人物は共通している。

 これはあれだ。唐沢なをきの『マンガ極道』! あれの小説版と思えば間違いない。あそこまで毒は強くないけど、小説界の内情をデフォルメしてネタにしてるもんで、読みながら笑えるやら冷や汗が出るやら。

 とりわけ「小説誌」という話がヤバい。小説誌の編集部を見学に来た中学生が、編集者に鋭いツッコミを入れまくる話。おそらく一般読者は知らないであろう小説誌の内幕をずいぶんバラしちゃってる。僕も小説誌に連載してるから、読みながら顔がひきつっちゃいました。いや、確かにその通りなんだよ! その通りなんだけどね! すいません!

 しかもこれ、『小説すばる』に載ったんだよなあ。いいのか、これ。原稿を渡された編集者の顔もひきつったと思うが。

「職業、小説家」という話もいい。娘が新人作家と結婚すると言い出したもので、不安になる父親の話。小説界のことを何も知らない父親の視点から、小説家というのがいかに危うい職業であるかが描かれる。

 あー、これも本当にその通りだよ。第三者の目から冷静に見たら、小説家ってこうなんだよなあ。僕の妻の父、よく娘の結婚を承諾してくれたと思うよ(笑)。

「夢の映像化」は、自作が初めてドラマ化されることになった作家が、最初は喜んでいたものの、大幅に改変されて原作とかけ離れたものにされてしまうという話。これも僕にとっては他人事じゃありませんでした(笑)。

 他にも、初めて書いた小説が文学賞の候補になったサラリーマンの葛藤を描く「最終候補」、新たな文学賞をめぐるドタバタ「文学賞設立」、売れない作家を何とか売ろうとする編集者の作戦が空回りする「戦略」など、どれもいかにも実際にありそうなというか、似たようなことは現実にあるよね、という話ばかり。 笑って読みながらも、同業者として胸がちくちく。あー、いたたたた。

 小説が好きな人なら面白いと思う。小説家に対する夢が壊れるかもしれんけど(笑)。