東郷隆『定吉七番の復活』

 1980年代、大阪商工議所秘密会所の殺人丁稚・定吉七番は、スイスのユングフラウで秘密結社NATTOの重要人物を追跡中、氷河に落ちて氷漬けになった。

 時は流れて現代。仮死状態から解凍された定吉は、時代の変化にとまどいながらも商工会議所に復帰。NATTOの残党の陰謀を追って新潟に向かう。

 一方、NATTOの最高評議員である新潟出身の政治家・田長マキコは、ドイツ人マッド・サイエンティストを雇い、新たな計画を進めていた。それは死んだと思われていた父・岳永を復活させることだった……。

 定吉七番が帰ってきた!

 本屋で見つけて嬉しくて、即、買った。『小説現代』に連載されてたのは知ってたけど、まとめて一気に読みたくて、単行本になるまで待ってたのだ。好きだったんだよね、このシリーズ。

 いやー、堪能しました。時代はあの頃とすっかり変わったけど、軽妙でスピーディな語り口の中に、風刺とパロディを山ほど詰めこんだ「定吉ワールド」は健在、四半世紀のブランクなどまるで感じさせない。

 いつものことながら、ものすごく荒唐無稽な話なのに、随所にいろんな薀蓄が挿入されていて、変なリアリティを醸し出している。「新潟トルクメニスタン友好の架け橋村」なんていう変なテーマパーク、さすがに作者の創作だろうと思ったら、どうやら「柏崎トルコ文化村」というのがモデルらしい。

 定吉以外のキャラクターもみんな個性的。今回は特に、無敵のスイス娘・ハイディが豪快すぎる。

 最後の方は、いろんなキャラクターが入り乱れ、「残りこれだけのページ数で決着つくの?」「もしかして次巻に続くとか?」と心配になったのだが、アクションとギャグを盛りこみ、ちゃんと話を収めてしまったのには感心した。(ちょっと駆け足だったけど)

 しかし、何でナチ+『ハイジ』なのかと思ったら、最後にあの映画のパロディをやらせるためだったとは。笑った笑った。

 旧作のファンなら必読。旧作を知らない人も、この機会におすすめしておく。