新刊『プロジェクトぴあの』
PHP研究所 2052円
8月19日発売
2025年、AR(拡張現実)技術が本格的に普及しはじめた秋葉原。「男の娘」の貴尾根すばる(本名・下里昴)は、電子部品を買い漁っていた不思議な少女と知り合う。
彼女の名は結城ぴあの。人気アイドル・グループ〈ジャンキッシュ〉のメンバーで、科学に関する膨大な知識と桁外れの才能を有する、突然変異的な超天才。普通の人間とは異質の感性を有し、決して人を愛せない。
アイドル業の傍ら、ガレージでの実験に熱中するぴあの。幼い頃からの彼女の夢はただひとつ──宇宙に行くこと!
『地球移動作戦』の前日談、ピアノ・ドライブの発明者である結城ぴあのの物語です。本当は『地球移動作戦』より前から構想していた話なんですけどね。
思いついたきっかけは、もう20年以上も前、あるバラエティ番組の一場面でした。某発明家がスタジオに持ちこんだ、宇宙エネルギーなんたらかんたらという、どう見ても嘘っぽい装置を、ゲストのアイドルやコメディアンが取り囲んで、しきりに感心している。
そこでふと、ひらめいたんです。
「アイドルの女の子がすごい天才で、科学的間違いを指摘しはじめたら面白い」
そのたったひとつの思いつきから、どんどん妄想と構想が広がって、結城ぴあのというキャラクターが生まれ、最終的にこんな話になりました。
僕は「変なヒロイン」が好きです。外見や喋り方じゃなく、考え方が普通じゃないユニークな女の子。詩羽がそうだし、一条(仮名)も魅波も千里もみんなそう。アイビスやマイカやカイラなんて人間ですらありません。
だから、ぴあのを頭がいいだけの普通の女の子にしたくありませんでした。そこで、いっそ人間とは異質の考え方をする突然変異体──ミュータントだと割り切って、その才能と奇行を描くことにしました。
だからこの小説は、SFのジャンルで言うとミュータントものです。ヴァン・ヴォクトの『スラン』、スタージョンの『人間以上』、パジェットの「黒い天使」などなど、枚挙にいとまがありません。ちなみに書いている間、なんとなく意識していたのは、『エイトマン』の「新人類ミュータント」でした。
あと、僕はマレイ・ラインスターのような古典的なSFが大好きなんで、「1人の大天才が生み出した発明が世界を変える」という、古典的なパターンに挑戦してみたかったということもあります。 昔からある話でも、現代風に語り直せば面白くなるはずだと。
逆に、描きたくなかったのは「本物のアイドル」です。僕にとってのアイドルは、AKBでもももクロでもなく、『ようこそようこ』と『アイドルマスター』だったりするので(笑)、リアリティを放棄して、「現代のおとぎ話」と割り切って描くことにしました。
他にも、『地球移動作戦』で重要な役割を果たすACOM(人工意識コンパニオン)やメガプロデューサーなどは、この時代に生まれたと設定し、その誕生をぴあのとからめて描いています。
『地球移動作戦』を読まれた方なら、この話の結末がどうなるかご存知でしょう。最初からネタバレしてるというのは、作者にとっては大きなハンデです。それでも読者を飽きさせまいと、胸躍る展開、いろんな小ネタを詰めこんでいます。
ラスト近くの宇宙のシーンはもちろん、中盤の山場である〈メカぴあの〉との対決は、個人的にすごくノッて書けました。
語り手のすばるを「男の娘」にしようと思いついたのは、実は連載開始の直前。ぴあのがあまりに個性的なもんで、普通の男じゃ釣り合わない。それにアイドルの女の子の周囲に若い男がうろちょろするっておかしくないか……と、さんざん悩んだ末に、「男の娘」にすることを思いつきました。いちおう計算してやってます。
逆に計算外だったのは、青梅秋穂という女の子。最初はほんのちょい役の予定だったのに、なぜか話の節目節目に出てくるようになり、最後はすっかりいいキャラになっちゃって……。
いやあ、小説書いてると、自分でも予想していない、こういうハプニングがあるんですわ。
もうひとつ、忘れちゃいけない、物語の中で重要な意味を持つ〈サイハテ〉という歌。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2053548
もうね、この歌、好きなんですよ! もちろん小林オニキスさんのオリジナルもいいんですが、「【第7回MMD杯本選】春香さんで「サイハテ」」で使われたハリさんバージョンが、泣けるほどいいんです。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15356120
だもんで、『アイの物語』の「瑠璃色の地球」のように、いつか小説の中で使おうと思っていました。その夢がようやく叶ったわけです。
ですからこれは、一種のボカロ小説と言えるかもしれません。
他にも作中では、ぴあのに実在・架空おり混ぜて、いろんな歌を歌わせています。実在の歌の方は、思いっきり僕の趣味に走った選曲してます。
楽しめる作品だと自負しています。発売は今月19日。よろしくお願いします。