辻真先『未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団』(講談社)

 ここ数ヶ月に読んだ本や同人誌、視聴したDVDの中から、特に面白いと思ったもの、印象に残ったものをいくつかまとめて紹介します。

>江戸の長屋で密室殺人事件が発生! 事件現場で住人たちが目撃したのは、天翔ける巨大な白猫だった……。不可解な事件は続き、現場の状況から町娘・お美濃が疑われてしまう。そこで、彼女の無実を信じる五人の少年少女が行動を開始! 圧倒的美少年・黎(れい)、おしゃれ歴女・真琴、おっちょこちょいな小坊主・越人(えつと)、クールな戦闘少女・凜音(りんね)、そして抜群の推理力を誇る学(がく)。個性豊かなこの五人、実は江戸の町人ではない。はるか遠い未来からタイムスリップで訪れた、未来S(ミクラス)高校航時部のメンバーなのだ! 江戸の町を騒がせた不可能犯罪の真相は、やがて彼ら自身の時代と、時間旅行の秘密に迫っていき――?

 7月、尊敬する辻先生から献本をいただき、SF大会に向かう途中の新幹線の中で読破。興奮冷めやらぬうちに、つくばのホテルで感想書きました。

 いやあ、参った。

 登場人物が、男装の美少女とか、男の娘とか、古武術に精通した戦闘美少女とか、色っぽい女教師とか、はたまた××××××(ネタバレになるので伏字)とか、どんだけ流行の要素ぶちこんでんねん! とツッコミたくなるほど、見事に現代風のライトノベル的キャラ配置。

 軽いノリで読みやすいが、江戸時代の考証はしっかりしていてリアリティがある。やはり辻先生の傑作『小説 佐武と市捕物控』を連想した 。

 冒頭、長屋で起きた密室殺人を、5人の少年少女が順番に推理してゆく。1人の推理を次の奴が欠点を指摘してくつがえし、またその推理を次の奴がくつがえし……と繰り返しながら真相に迫ってゆくのだ。このあたりはミステリ作家である辻先生の面目躍如。

 なるほど、これは江戸時代を舞台にしたミステリなのね……と納得しかけたら、この殺人事件は単なる発端にすぎなかった。

 ちょうど本のまん中あたりで来る大きなどんでん返し! ライトな雰囲気のタイムトラベルものかと思ったら、実はその裏にはすごくヘビーでダークな事情が。そして人類の歴史を揺るがす大陰謀が明らかに。

 クライマックスは武術と超能力と超テクノロジータイムパラドックスが入り乱れる一大バトル! 圧倒的な敵の力に追い詰められながらも、何とか敵のボスを倒したと思ったら、そいつがパワーアップして逆襲に転じ、さらなるピンチに……と、状況が二転三転。このバトルだけで普通のラノベ数冊分のアイデアが詰めこんであるよ!

 しかも最後の最後に登場するあのお方! そこまでやるか! ブレーキないのか!? と唖然となった。何この過剰なまでのサービス精神。

 いやあすごい。82歳になってもまだこんなものが書けるんだ、辻先生! ちっとも衰えてないよ。つーか、70年代の〈株式学園の伝説〉シリーズとかよりパワフルになってるよ!

 この若さ、見習わなくては。

 唯一の欠点はイラスト。ちょっと地味すぎる。もうちょっと上手い人に描いてほしかったなあ。