エレーニン彗星衝突説が爆笑ものだった件
前回に続いて、デマの話。
こんなデマが流れているというのを、J-CASTニュースで知った。
10月接近の彗星が地球衝突 だれがこんなデマを流したのか
http://www.j-cast.com/2011/05/20096157.html?p=1
http://www.j-cast.com/2011/05/20096157.html?p=2
昨年の12月10日に発見されたエレーニン彗星が、今年の秋に地球に衝突するかもしれない、というのである。
調べてみたら、デマを広めているところが分かった。「防災グッズマガジン」という、名前だけ見るとまともそうなサイトだ。5月13日にこんな記事が載ったのである。
エレーニン彗星が地球に接近
http://www.disaster-goods.com/news_skWrI6miJ.html
NASAのレポートによると、現在、エレーニン彗星(Comet Elenin)が地球に接近しているという。地球をはじめとする天体に重力の影響はおきている事からエレーニン彗星は彗星の名がついてはいるが非常に大きな天体である可能性があるという。以下天文学者Mark Sircus博士の記事より。
Mark Sircus博士
NASAの分析モデルを見ると、巨大な天体がすでに太陽系の中に侵入しているという事がわかる。エレーニン彗星は現在内太陽系に入ろうとしている。このまま今のコースを進めば2011年秋に地球すれすれを通るか最悪の場合地球に衝突する危険性がある。
エレーニン彗星が最も太陽に接近するのは2011年9月上旬だという。地球に最接近する時期は2011年10月16日ころ、 地球からおよそ2100万マイル離れたところを通過するだろうと専門家は予測している。
東日本大震災、ニュージーランド大地震、チリ大地震はこのエレーニン彗星が原因であるという可能性がある。エレーニン彗星、地球、太陽が直列する事で大地震がおきたという可能性があるという。
天体直列で大地震(笑)。なんかもうこれだけでダメダメって感じだよね。彗星の質量がどれぐらいか分かってんのか? 彗星はガス状の頭部(コマ)は直径何万kmもあるけど、本体(核)はせいぜい直径数km〜数十kmしかない。有名なハレー彗星の場合、1986年の探査機ジオットの観測によって、核の大きさは15×8×8kmであることが判明している。しかもその成分の80%は氷であり、岩石でできた天体より密度が低い。
たとえば月は直径3476km。その100分の1の直径35kmの核を持つ彗星の場合、体積は100万分の1。そして月の密度は水の3.3倍だから、彗星の質量は月の数百万分の1ということになる。
すなわち、ハレー彗星よりも大きな直径35kmの核を持つ彗星が、月と同じ距離まで接近したとしても、その引力が地球に及ぼす影響は、月が地球に及ぼす影響の数百万分の1なのである。
しかも最接近時の距離が2100万マイルって……3400万km? 月−地球間の距離の88倍? むちゃくちゃ遠いじゃん。これが「地球すれすれ」?
それに「現在内太陽系に入ろうとしている」ということは、今はまだ3400万kmよりさらに遠いところ、火星軌道のあたりにいるってことである。
何で月の数百万分の1の引力しかない天体が、月よりはるかに遠いところを通過するだけで地震が起きるの? バカじゃないの?
まともな天文学者がこんなアホなことを言うとは思えない。Mark Sircus博士ってどういう人物なのかと思って検索してみたら、彼のブログが見つかった。彼がこの話の発信源であることは間違いない。
Dr.Sircus's Blog
でもって、彼のプロフィールがこれ。
I am a prolific writer, poet, medical researcher, doctor, psychologist, musician,
どこが「天文学者」やねん!?
いい加減なこと書くなよ、「防災グッズマガジン」!
さらに「防災グッズマガジン」は、5月26日にもこんなアホな記事を載せた。
ホワイトハウスが文書を発表「エレーニン彗星衝突の危険あり 」
http://www.disaster-goods.com/news_snMvaRf7m.html?recommend
ホワイトハウス、エレーニン彗星対策はじめるエレーニン彗星(Elenin彗星、Comet Elenin) が現在太陽系の中心に接近してきているという。この情報に伴いホワイトハウスは対策をはじめる模様。
ホワイトハウス科学技術政策局長官John Holdren氏は「現在地球に接近している小天体から地球をまもる計画(protecting the United States from a near-Earth object that is expected to collide with Earth) 」を発表した。
Comet C / 2010 X1(Elenin彗星、Comet Elenin) は2010年12月10日にLeonid Eleninによって発見された。
2011年3月11日におきた東日本大震災を引き起こした原因はエレーニン彗星の引力だといわれる。この日エレーニン彗星と地球と太陽は一直線上に並んだ。
現在のエレーニン彗星の位置はまだ地球から離れている。しかし刻一刻接近しており、今年9月26日ごろエレーニン彗星は地球と太陽の間を通ると予測されている。
この時もエレーニン彗星と地球と太陽はもう一度一直線上に並ぶ。しかしこの時は3つの天体の距離は小さく地球が受ける引力の影響は東日本大震災の比ではないという。
上に紹介したJ-CASTニュースの記事でも書かれているが、これはまったくのデタラメ。「現在地球に接近している小天体から地球をまもる計画」という訳からして間違っている。「protecting the United States from a near-Earth object that is expected to collide with Earth」――この程度の英語は中学生でも訳せると思うが、「地球に衝突すると予想される地球近傍天体から合衆国を守る」である。これのどこが「現在地球に接近している」なのだ?
地球近傍天体(near-Earth object)というのは、地球に接近する軌道を持つ小惑星や彗星の総称である。以前からそうした天体が地球に衝突する可能性については警告されていて、ホワイトハウスがそれに関するレポートを、昨年10月(エレーニン彗星の発見前)に米議会に提出した……ということらしい。つまりエレーニン彗星とはまったく関係ない話なのだ。
これで「ホワイトハウスが文書を発表「エレーニン彗星衝突の危険あり」」というタイトルをつけちゃうんだから、ひどい話である。これはもう「誤報」とかいうレベルを超えている。
どうも「防災グッズマガジン」の元ネタはこのへんらしい。
Bad News from NASA: Proof That Comet Elenin Is Affecting Earth
http://www.activistpost.com/2011/05/bad-news-from-nasa-proof-that-comet.html
怪しい〜っ!!(笑)
惑星ニビルとかマヤの暦がどうこうって書いてあるよ!
しかも今年の8月3日に地球の軌道が褐色矮星と交差するって。
褐色矮星〜っ!?(爆笑)
あー、笑った笑った。ありえなさすぎるだろ。褐色矮星というのは恒星と惑星の中間、木星型惑星よりも大きいけれど恒星にはなれなかった天体のことで、当然、そのサイズは木星よりもでかい。そんなもんが太陽系に侵入してきてたら、もうとっくに世界中で観測されてるって!
実は『地球移動作戦』でも、最初、シーヴェルを褐色矮星にしようと思っていた。だが、検討したところ、無理だと分かった。褐色矮星は熱を帯びているから赤外線を発している。太陽系のすぐ近くにそんなものがあったら、すでに赤外線観測で発見されているはずなのだ。そこで木星の約2倍の質量で、なおかつ光学的に観測できないミラー天体だという設定にしたのである。
しかも3つ目の動画がバカすぎる。
日本で4月20日に撮影されたビデオにエレーニン彗星か惑星ニビルらしきものが写ってるというのだ。朝なのにだんだん沈んでいっているから太陽ではないと。
Nibiru Elenin or a very bright star over Japan Volcano 04/20/11 ITS NOT THE SUN April 20 2011
http://www.youtube.com/watch?v=mm6e23lQi44
検索してみたら、これは輝北から西の桜島を撮影した定点カメラの映像だと分かった。つまり、ここに写っているのは西の空だ。
http://www.qsr.mlit.go.jp/osumi/camera_sabo.htm
さらに、国立天文台のサイトで、この日の鹿児島での月齢と月の出・月の入りを調べてみると、
国立天文台 天文情報センター 暦計算室
鹿児島(鹿児島県)
2011年4月20日(水)
日の出 5:45
日南中時 12:17
日の入り 18:50
月の出 21:30
月南中時 1:41
月の入り 6:55
正午月齢(16.5)
……月だろ?
月が西の山に沈んでいってるんだよね。
だいたい、こんな明るい天体が空に浮かんでたら、日本だけでなく世界中から肉眼で見えてるだろ。そんな当たり前のことも分からんのか。
それともあれですか、やっぱりイルミナティが情報を隠蔽してるんですか(笑)。
どうもMark Sircusの頭の中では、エレーニン彗星は褐色矮星または中性子星(!)で、それが例の「惑星ニビル」の正体だということになっちゃってるらしいんである。
彗星と惑星と褐色矮星と中性子星……ぜんぜん違う天体をよくまあ、ごっちゃにできたもんだ。
天文学を知らない人には、このおかしさは分からないかもしれない。たとえて言うなら、チョウチョを見て「あれはプテラノドンだ」と言ってるぐらいムチャクチャである。
彼はどこからこんなトンデモ説を思いついたのか? どうやら鍵はこのへんにありそうだ。
Here Comes Elenin
http://blog.imva.info/world-affairs/elenin
>the part they can see is 50,000 miles in diameter. Yes a big rock!
はあ? 直径5万マイルの「大きな岩」?
そう、こいつ、「彗星のコマの直径が8万km」というのを読んで、直径8万kmもある巨大な岩のかたまりだと誤解してしまったらしい。で、こんなに大きいのだからきっと惑星じゃなく褐色矮星だ!と思いこんだわけだ。
彗星のコマのサイズとしては、8万kmというのは特に大きいわけではない。コマが100万kmを超えることだってあるのだ。ちなみに木星の直径は14万kmだから、エレーニン彗星のコマは木星より小さい。
要するに、Mark Sircusが天文学の初歩の初歩も知らないトンデモさんだったうえに、それを紹介した「防災グッズマガジン」の記事を書いた奴が、とてつもないアンポンタンだったということだ。
でもなあ、「エレーニン彗星」で検索すると、ずいぶん信じちゃってる人、多いんだよなあ。
天文に興味のない一般人は、そもそも彗星というのがどんな天体なのかすら知らないから、こんなデタラメな話を本気にしちゃうのだろうか。あるいは「NASA」とか「ホワイトハウス」とかいう固有名詞が出てくるだけで信憑性があると思っちゃうのか。
何にしても、もうちょっと頭を使ってほしいもんである。