中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(2)
7. 彗星は夜空を一瞬だけ流れて消える。
(回答者数 384人)
信じている 97人(25.3%)
やや信じている 51人(13.2%)
知らない・わからない153人(39.8%)
やや疑っている 26人(6.8%)
信じない 57人(14.8%)
僕がこの質問を思いついたきっかけは、前に『トンデモ本の世界T』で紹介した妻のエピソードである。
> 僕の妻がまだ勤めていた時のこと。百武彗星がやって来たのだが、妻がそれを職場で話題にして、「今度の彗星って、ひと晩じゅう見えてるんやて」と言うと、その場にいた同僚たちが全員、「えっ、彗星って一瞬だけ流れるもんとちゃうの?」と驚いたという。みんな、彗星と流星の区別がついていなかったのだ。
大人でも彗星と流星の区別のつかない人が多い。だったら中学生なら……と思ったら案の定で、1/3以上が「彗星は夜空を一瞬だけ流れて消える」と信じていた。それに対し、「やや疑っている」「信じない」子供の少ないこと!
8. 人工衛星が落ちてこないのは高すぎて地球の引力が届かないから。
(回答者数388人)
信じている 98人(25.3%)
やや信じている 53人(13.7%)
知らない・わからない157人(40.1%)
やや疑っている 28人(7.2%)
信じない 52人(13.4%)
7とほとんど同じ結果になった。
この質問は僕の高校時代(1973~74年ごろ)のエピソードがヒント。当時、アポロ計画が終了し、スカイラブ計画がスタートしていた。アポロを打ち上げたサターン?型ロケットを改造した宇宙ステーション「スカイラブ」が打ち上げられていて、その内部の模様──無重力状態でふわふわ浮かんでいる宇宙飛行士の姿が、よくテレビで紹介されていた。
その頃、工業高校の物理の時間に、教師がこう言ったのである。
「宇宙に行くと無重力になるやろ? あれは地球の引力が届かへんほど遠くまで行ったからや」
僕はびっくりした。教師、それも物理の教師がこんなデタラメなことを言うなんて!
でも、さすがに授業中に立ち上がって教師に抗議をするほどの度胸はなかった。そこで授業が終わるとすぐ教室を飛び出し、廊下を歩いていた教師をつかまえて、「自由落下」というものについて教えてやった。
そもそも学校で使われている物理の教科書には、「引力は無限遠まで届く」とはっきり書いてある。「引力は距離の2乗に反比例して減少する」とも。
地球の中心から地表までの距離は6378km。つまり地表から高度6378kmまで上昇すれば、地球の中心からの距離は2倍になり、引力は1/4になる。
しかし、スカイラブが回っている高度は約440km。つまり地球の中心からの距離の1.1倍もない。その地点での引力の強さは、地表の引力とほとんど変わらないのである。
「引力は無限遠まで届く」「引力は距離の2乗に反比例して減少する」──こんなことは教師も当然、知っていたはずだ。だが、その知識を現実の人工衛星や宇宙ステーションにあてはめて考えることができなかったのだ。
理科の知識は「知っている」だけではだめなのだ。その意味を理解していないと。
9. 恐竜が地上で栄えていたころ、人類はまだ存在しなかった。
(回答者数388人)
信じている 193人(49.7%)
やや信じている 50人(12.9%)
知らない・わからない65人(16.8%)
やや疑っている 40人(10.3%)
信じない 36人(7.4%)
この質問については、アンケートを配布した後で、「まずかった」と気がついた。最近の学説では、「鳥は恐竜の一種」という説が有力になってきているのだ。恐竜は滅びたのではなく、鳥として今でも生き残っていると。だからそこまで知っている子供なら、今でも恐竜が栄えていると解釈し、「信じない」と答えるかもしれない。
もっとも、結果はご覧通り、「信じない」子は7.4%。何にしてもそんなに多くない数字だった。
12. 50年前に比べて、日本の少年犯罪は大幅に増えている。
(回答者数385人)
信じている 145人(37.7%)
やや信じている76人(19.7%)
知らない・わからない 125人(32.5%)
やや疑っている14人(3.6%)
信じない 25人(6.5%)
さあ、これも問題だ。少年犯罪が大幅に増えていると信じている子供が6割近くもいる! 「やや疑っている」「信じない」子供は約1割。
データを見れば一発で嘘だって分かるんだけど。
http://kogoroy.tripod.com/hanzai.html
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm
もちろんこんなことは学校では教えないはずなのだが、子供たちはどこで信じこまされたのだろうか?
やはり「最近の子供は荒れている」といった言説があまりにもまかり通っているので、自然に「昔の方が犯罪は少なかった」と錯覚するようになったのかもしれない。
他にも『ニセ科学を10倍楽しむ本』で取り上げたニセ科学について、いくつか質問してみた。
10. 大きな地震が起きる前には「地震雲」が発生する。
(回答者数385人)
信じている 95人(24.6%)
やや信じている55人(14.3%)
知らない・わからない 145人(37.7%)
やや疑っている34人(8.8%)
信じない 56人(14.5%)
信じている子供が多いのではないかと予想していたのだが、最も多かったのは「知らない・わからない」で、思ったほど多くはなかった。でも、やはり4割近い子が信じているのは、やや問題かもしれない。
13. マイナスイオンは健康にいい。
(回答者数387人)
信じている 126人(32.6%)
やや信じている55人(14.2%)
知らない・わからない 143人(37.0%)
やや疑っている33人(8.5%)
信じない 30人(7.6%)
マイナスイオンブームなんてとっくに終わってるから、信じている子供は少ないかと思っていたのだが、なかなかどうして。まだかなり信じられている。
14. 水素水は健康にいい。
(回答者数387)
信じている 128人(33.1%)
やや信じている57人(14.7%)
知らない・わからない 101人(26.1%)
やや疑っている40人(10.3%)
信じない 61人(15.8%)
マイナスイオンと水素水、あまり違わない結果だった。
16. ゲームをやりすぎると「ゲーム脳」になる。
(回答者数386人)
信じている 118人(30.6%)
やや信じている 66人(17.1%)
知らない・わからない 117人(30.3%)
やや疑っている31人(8.3%)
信じない 54人(14.0%)
あれだけ批判を受けたのに、まだ子供たちにはニセ科学だということがあまり浸透していない印象である。今でも親が「ゲームをやりすぎるとゲーム脳になるよ」と脅しているのかもしれない。
25. 水に「ありがとう」と声をかけるときれいな結晶ができる。
(回答者数387人)
信じている 100人(25.8%)
やや信じている 29人(7.5%)
知らない・わからない 94人(24.3%)
やや疑っている 34人(8.8%)
信じない 134人(34.6%)
これも驚きだった。『ニセ科学を10倍楽しむ本』でも書いたけど、2006年の時点で『水からの伝言』は激しい批判を受け、TOSSランドからもリンクはすべて削除された。今、日本の小中学校で『水からの伝言』を授業に使っているところはほとんどないはずなのである。(この箕面市の2つの中学でも使われていないという)
それでもまだ約1/3の子供が信じている。
考えてみれば、『水からの伝言』は世界75カ国で出版され、シリーズ累計250万部以上というベストセラーだ。まだ日本のあちこちに何万人もの信者がいて、こっそり広め続けているのかもしれない。