中野と神田で古本買いまくり(前編)

 中野ブロードウェイは十数年ぶりに行った。

 ここはやばい。ビルの半分ぐらいが「まんだらけ」だ。前に来た時はまだごく一部だったのに、今ではものすごく侵食して、全体がオタクビルと化している。古本、おもちゃ、ビデオ、ゲーム、コスチュームと、ありとあらゆるものが揃っている。

 予定の時間よりずっと早く、昼前から行って、見て回った。予想通り、合計2万円ぐらい本買っちゃったよ。ギャラ上回ってるから、今回は赤字(笑)。

 実はその前日も、神田の古書店街を回って本を買っちゃったもんで、けっこうすごい額になってるんだよね。

 そこで今回、神田と中野で見つけた本をざっと紹介したい。これでも全部じゃない。

マレイ・ラインスター『タイム・トンネル/?タイムスリップ!』(ハヤカワSFシリーズ・1967)

 TVシリーズ『タイム・トンネル』のノヴェライズだが、ストーリーはオリジナル。

 トニーとダグが無事に現在に帰還した後、タイム・トンネルの軍事利用が進められる。過去の世界に核ミサイルを転送し、敵国に向かって発射、目標に到達したところで現在に戻して爆発させるのだ。そのテストのため、南極に向かってミサイルを発射する実験が行なわれるが、タイム・トンネルの実在を信じない軍人が余計なことをしたせいで、ミサイルは1847年のメキシコに落下してしまう。時はメキシコ戦争の最中。トニーたちはミサイルを回収するため、当時のアメリカ軍人に変装して過去に向かう。

 ラインスターが好きな僕だけど、さすがにこれは駄目でした。ラインスターお得意の疑似科学的屁理屈が炸裂してないってのも問題だけど、話が根本的におかしい。タイム・トンネルは時間だけじゃなく空間も超越できるんだから、わざわざミサイル撃たなくても、現在の敵国に直接、爆弾を転送すればいいんじゃないだろうか?

●ロバート・M・ウィリアムズ『宇宙連邦捜査官』(QTブックス・1968)

 遠い未来。主人公であるPGI(宇宙連邦捜査局)の捜査官ジョン・ハルディンが、「『人間』売ります!」という奇妙な広告を掲げる骨董屋を発見する……。

 という冒頭部分に惹かれて買ったら、これがひどい話だった。『リアル鬼ごっこ』ぐらいひどい(笑)。作者は明らかに、先のことを考えず、行き当たりばったりに書いてる。あちこち矛盾だらけ。

 たとえばハルディンには一種の予知能力があって、危機が近づくと心の声が警告してくれるという設定なんだけど、これがぜんぜん役に立たない(笑)。ハルディンは何度も敵に捕まったりピンチに陥るのだ。心の声の正体も解明されないまま。

 また宇宙には「気まぐれ力」という謎の力がある、という説明も何度も入るんだけど、それがどういうものなのか分からないし、最後までストーリーに関係してこない。単に思いつきで入れただけだろ。

 ちなみに原題が『The Chaos Fighters』なんで、Chaosを「気まぐれ」と訳してるんじゃないかという気がする。

 さらに、「『人間』売ります!」の『人間』が、本のタイトルだと知った時には、もうハラホロヒレハレでした(笑)。『人間』という本を売ってただけかよ!(いちおう、読むと超能力が使えるようになるという、すごい本らしいんだけどね)。

 何でこんな駄作、わざわざ訳したんだよ……と思ったけど、しょうがないかあ。QTブックスだからなあ。

田辺聖子『お聖どん・アドベンチャー』(徳間書店・1977)

 若い頃に読んだ作品だけど、再読のために購入。

 小説が政府によって統制され、自由に書けなくなった時代。職を失った田辺聖子は、やはり金に困っている小松左京筒井康隆とともに世界を回り、北極海の鯨牧場、月行き観光宇宙船の搭乗員、イーデス・ハンソンの派出婦(夫)協会などで働くが、どれも長続きせず……というSFコメディ連作。他にも、野坂昭如五木寛之藤本義一戸川昌子川上宗薫眉村卓ら、当時の人気作家が多数、実名で登場し、落ちぶれた姿をさらす。

 田辺聖子さんがこんな小説を書いてたなんて、ほとんどの人は知らないんじゃないだろうか。けっこう面白い。全体に筒井タッチなうえ、筒井さんがレギュラーで出演してるもんで、筒井康隆ファンの僕としては、すごく楽しんで読んだ。

 特に秀逸なのが、インチキ新興宗教「あひる教」を旗揚げして荒稼ぎする「あひるのあんたはん」。 田辺・小松・筒井の一行が、神社の賽銭を盗むほどの赤貧状態から、教祖様になってたちまち大成功し贅沢三昧、さらに壮大なオチにいたるまで、たった33ページで駆け抜けるドライブ感がすごい。

>「はじめに、あんたはん、苦労があるなあ、いうたらみんな当たる」

> 小松サンが教えてくれた。

>「そうか、わかった」

>「苦労してるけど、それを誰もみとめてないなあ、辛いとこや、というたら、百人が百人、そうですそうですという」

 バーナム効果だ!

辻真先『変身番長サクラ』(ソノラマ文庫・1977)

    『宇宙番長ムサシ』(ソノラマ文庫・1977)

    『SF番長ゴロー』(ソノラマ文庫・1978)

 若い頃、友達から借りて読んだシリーズ。再読したくなって買った。

 株式学園の番町、ハチのムサシこと蜂須賀五郎は、自分が女の子になってしまったことに気づく。しかも、ひそかに思いを寄せていたクラスメートの美少女・近衛桜子に。

 なぜそんなことになったのか、記憶が欠落している。謎を探っているうちに、いきなり刺客に襲われたり、誘拐されたり、事件が続発。やがて株式学園の裏にある巨大な陰謀が明らかになってくる……。

 学園、性転換、戦う美少女、そして超能力バトルと、今のライトノベルの定番を先取りしていたようなストーリー。今でこそ珍しくないけど、女の子が強いのは辻作品の特徴だ。もちろん、桜子の体になった五郎が風呂に入るドキドキのシーンもあり(笑)。

 2巻では別の惑星にテレポートして冒険を繰り広げ、3巻ではタイムスリップして徳川家康を助ける。自由奔放に風呂敷を広げまくったマンガチックな展開。キャラクターもみんな個性的で、旧来のジュヴナイルとは一線を画している。辻氏の先進性を再認識した。

辻真先『SFドラマ殺人事件』(ソノラマ文庫・1979)

 可能キリコと牧薩次のコンビが活躍するシリーズの第4作。これも若い頃に読んだのを再読したくなって買った。

 SFヒーロードラマ『超人テルル』の撮影中、奇怪な事件が続発。直前まで東京にいた人物が北海道で事故死するという、テレポーテーションとしか思えない移動。ロボットに殺されたとしか思えない殺人事件。そして宇宙船のセット内での密室殺人。

 さらに不思議なことに、キリコの兄・克郎の勤める新聞社に、何者かから事件を小説化した原稿が送られてくる。その内容は、この『SFドラマ殺人事件』そのものだった……。

 このシリーズ、1作目の『仮題・中学殺人事件』からずっとメタ・ミステリだったんだけど、この『SFドラマ殺人事件』も、この本自体が作中に出てくる原稿であるというメビウスの帯のような構造。フレドリック・ブラウンの「ユーディの原理」を思い出した。

 他にもこのシリーズ、アニメ界を舞台にした『TVアニメ殺人事件』、自主制作SF映画に殺人がからむ『宇宙戦艦富嶽殺人事件』なんてのもある。この時代にこうしたサブカル・ネタを扱っていたのだ。やっぱり進んでるなあ。

 他にも辻作品では、『小説 佐武と市捕物控』がものすごく面白かったと記憶してるんだけど、これがまだ見つからない。春夏秋冬の4つの事件が微妙に関係し合って、最後に日本史に残る大事件につながるという、見事な時代ミステリ。復刻してほしい。

小隅黎『超人間プラスX』(金の星社・1978)

 1969年に出た本の再版。以前、柴野拓美さんにインタビューした際、読んでいなかったので恐縮してしまった。その後、ずっと気になっていたのだが、ようやく見つけたので購入。

 テレパシー、透視、サイコキネシス、テレポートなど、それぞれに異なる超能力を持つ5人の少年少女。彼らは単独では力を発揮できず、5人が揃った時にようやく完全な超人となる……という設定は、明らかにスタージョンの『人間以上』にインスパイアされたものだろうけど、超能力の悪用を企む秘密組織に子供たちが狙われたり、サスペンスあふれる展開。

 でも、単なる超能力活劇じゃない。最後の方には人類の進化を見守っている宇宙存在が出てきたり、新人類の倫理が問われたり、かなり本格的なSFを志向してる。超能力の秘密を守るために主人公が悪人一味を皆殺しにするという、ショッキングなシーンも。

 ただ、同様のテーマでは、平井和正桑田次郎の『エリート』があるわけで、あれに比べるとおとなしい感じがしてしまう。

 あと、本筋と関係ないけど、携帯電話のなかった時代は大変だったんだなあと痛感した(笑)。キャラクターたちが連絡を取り合うのに、すごく手間取るんだよ。大阪から東京に電話をかけるのに、長距離電話料金を気にするというのも、今となっては懐かしい描写だ。

キプリング『おおかみ少年』(金の星社・1977)

 言うまでもなく『ジャングル・ブック』なんだけど、表紙が武部本一郎

「やった! 掘り出し物だ!」

 と思って買ったら、中のイラストは別の人でした(笑)。ひっかかった。

 たぶん、前に出た本の、表紙だけ変えた再版だろう。

                            (つづく)