SF大会レポート3:表現規制問題2013
SF大会で出演したパネルのひとつがこれ。
●表現規制問題2013「アレとかコレとかが違法だなんて……やっぱ、おかしくない?」
真っ先に話題になったのは、先日の、CGで児童ポルノを作って売ってた奴が逮捕されたというニュース。
「児童ポルノCG販売で逮捕」に衝撃
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20130717-00031140-r25&vos=nr25msn0000001
CGも児童ポルノ、写真以外で全国初摘発 デザイン業の男逮捕
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130711/crm13071113120003-n1.htm
厳密にはCGと言っても、写真集をスキャンしてフォトショップで加工した程度のものだったらしい。そりゃ児童ポルノ法以前に著作権法違反だろ、と思ったりもするんだけど。
産経新聞にはこうある。
> CGは写真と見分けがつかないほど精細で、同課は「2次創作物であっても、実在の少女の裸を基にしたものであれば少女の権利を侵害するため、今後も取り締まっていく」としている。
この部分を読むと、CGだったことはあまり関係なくて、実在の児童の裸をリアルに模写したのが違法だ、という判断が下されたと解釈できる。
この判断は重大な意味を持つのだ。何かと言うと……
『エスパー魔美』のお父さんも逮捕されちゃうんだよ!(笑)
佐倉十朗氏のように、自分の娘をモデルにしてヌードを描いていると、しょっぴかれちゃうってことなのだ。モデルである魔美自身が、何ら性的虐待など受けていなくても。
「そんなのフィクションの中のことだろ」と思ってはいけない。これが違法行為ということになると、「子供向けのマンガで違法行為が描かれている」ことになり、『エスパー魔美』という作品に規制がかかることは、十分に考えられる。
もうひとつの問題点。こういうニュースでは、押収されたのは「児童ポルノ」とだけ報じられ、どういうものだったのか、具体的にタイトルが挙げられない。このジャンルに詳しくない読者は、「児童ポルノ」と聞いて、裸の子供が股をおっぴろげているような、ものすごく淫らなものだったんだろうと想像するのではなかろうか。
でも報道を見ると「昭和57年〜平成5年に出版された9〜14歳ぐらいの少女の写真」とある。僕はこれを読んで、当時流行していた美少女写真集、清岡純子とか石川洋司あたりのものだったんじゃないかと推測した。
案の定、元になったのは清岡純子の『プチ・トマト』だったと、後で判明した。
http://nijigenkisei.ldblog.jp/archives/29675834.html
だとしたら、ちゃんとした写真家が保護者の許可を得て撮影しているわけで、ちっとも児童虐待なんかじゃない。 (それを模写して販売したのは問題だけど)
僕ら規制反対派の人間が口をすっぱくして言ってるのは(そして規制賛成派の人間の多くが理解してくれないのは)、児童ポルノ法の主旨は、現実に存在する児童を虐待から守ることだ、という点だ。
当たり前だけど、「ヌード」と「ポルノ」は違うのだ。ポルノのほとんどは基本的にヌードを含むが、ポルノではないヌードもたくさんある。
海外でも、たとえばジョック・スタージェスJock Sturgesの写真など、未成年のヌードがよく出てくるが、児童ポルノではないという判断が下されており、写真集も発禁になどなっていない。代表作の数々もネット上に普通に上がっている
しかし、児童虐待によって撮られたヌード写真もある。それは虐待ではないヌードと、表面上、見分けがつかない。だから子供の裸の写真はみんな規制しましょう……ということになってしまったのである。
これに関してややこしいのは、昨年、エヴァ・イオネスコが母親のイリナ・イオネスコを訴えて勝訴したという事実。
仏女優E・イオネスコさん勝訴、「児童ポルノ」撮影で母親に賠償命令
http://www.afpbb.com/article/entertainment/news-entertainment/2917363/10010409
確かにイリナがエヴァのヌードを撮っていたことは事実だけど、今とはまったく考え方の違う時代だったし、30年以上も前の話を今になって急に訴えるなんて腑に落ちない。母親との仲が良好であればこんな訴訟など起こさないだろうから、やっぱり仲が悪くなったからなんだろう。
ただ、イリナ・イオネスコの写真は娘をセクシャルに撮っている部分があり、だから児童虐待だと判断されたのかもしれない。
当たり前だけど、モデルとなった女の子がすべてエヴァと同じように考えているわけではあるまい。それどころか、「有名な写真家の先生にきれいに撮ってもらった」と誇りに思っていた者もいるかもしれない。それが急に違法ということにされ、犯罪行為の犠牲者に貶められたわけである。
つまり、実在する児童を保護するためのものだった児童ポルノ法が、逆にモデルになった女性を傷つけることだってありうるわけだ。
他にも出たのが、「博多山笠はどうなるんだ?」という話題。
「博多山笠」で検索すれば分かるけど、ふんどし姿で祭りに参加している少年や少女の後ろ姿を撮った写真が、ネット上にいっぱいアップされているのだ。以前は男の子ばかりだったのだが、最近は女の子も増えているらしい。
もちろん子供が自主的にふんどしを着けて祭りに参加しているのなら、児童虐待なんかであるはずがない。でも、ふんどし姿の女の子のお尻の写真を見てハアハアしている奴もきっといるはずである。すると、いわゆる「3号ポルノ」――「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という定義に当てはまってしまいかねない。
女の子のふんどしだけ禁止しても意味がない。児童ポルノ法には男女の区別はないのだ。げんに男の子のお尻に欲情する奴はいる。
博多山笠の問題は、児童ポルノ法の問題点を浮き彫りにする。その定義が、児童虐待の実態と一致しないのだ。
あと、パネルで僕が強調したのは、表現規制というのは、警察などの公的機関が直接手をくだすものより、業界の自主規制の方が影響が大きいということ。
知り合いのポルノ作家の話によれば、最近はポルノ小説でも、18歳未満のキャラクターを出すなと編集部に言われることが多いらしい。まだ小説の規制ははじまってもいないのに、先回りして自主規制が行われ、表現の幅が狭められているのだ。パソコンゲーム業界でもそうらしい。
最近では、こんなニュースも流れた。
「人権侵害だから、本のタイトルも教えない」閲覧禁止の児童ポルノ開示請求に対し、国会図書館から返答
http://www.cyzo.com/2013/08/post_14093.html
国会図書館が、児童ポルノとされる本の閲覧をさせないだけでなく、書誌データを教えることさえ拒否してきたというのである。モデルのフルネームまで載ってるならまだしも、本のタイトルや発売日が分かったところで、人権侵害になるわけがないのに。
実際に警察が乗り出さなくても、法律を破っていなくても、これは「まずいのかも」と感じた人間による過剰な自主規制が、どんどん世界を不自由にしてゆく。
まあ、最大の問題は、こういうことを言ってても、ほとんどの人はこの問題に関心を示さないってことなんだよな(笑)。先日の参院選でも、表現規制問題なんてぜんぜん話題にならなかったし。
パネルでも言ったけど、ほとんどの人は「創作物の表現規制が行われたらコミケが滅ぶ」とか言われても、その恐ろしさが理解できないんだと思う。
エロマンガなんかなくなってもかまわない。
あるいは「悪いマンガを撲滅したらいいマンガが残る」と思ってる。
冗談じゃない。
猥雑なもの、下品なもの、インモラルなものも含めて、日本のマンガ界を支えるパワーになってるんだよ。「清く正しいマンガだけを描きましょう」と言われたら、業界全体が萎縮しちゃうんだよ。
あと、何度も言うけど、児童ポルノ法の目的は実在の児童を保護すること! なんか「淫らなものだから規制するんだ」みたいに誤解してる人が多すぎる。
スウェーデン国家刑事警察児童ポルノ犯罪対策班のビョーン・セルストローム班長はこう言っている。
「架空のキャラクターが児童ポルノかどうか判断する仕事で警察を手間取らせるのではなく、実際の児童虐待を取り締まる仕事に専念させて欲しい」