『僕の光輝く世界』

『僕の光輝く世界』

講談社 1500円+税 4月8日発売

 高校一年の僕は、ある日、何者かに橋から落とされ、後頭部に傷を負った。その日から奇妙なものが見えるようになる。それは僕にしか見えない、僕だけの世界……。

 今度の本はミステリです。

 前にやはり講談社から出した『名被害者・一条(仮名)の事件簿』は、タイトルだけはミステリっぽかったけどぜんぜんミステリじゃなかったのですが、今度は正真正銘のミステリです。

 しかし、もちろん僕が書くのですから、まともなミステリであるはずがありません(笑)。

 この話を思いついたきっかけは、書店で立ち読みしていた脳科学の本で、アントン症候群という特殊な障害の存在を知ったことです。

 そんな不思議なことが本当にあるとは!

  家に帰ってすぐに「アントン症候群+ミステリ」で検索をかけまくりました。すでに誰かがミステリのネタにしているのではないかと考えたのです。ヒットはありませんでした。しかしミステリの場合、トリックを明かしてはいけないという不文律があるので、アントン症候群をトリックに使っていてもネット上でヒットしない可能性があります。

 そこで考えました。

「アントン症候群をオチにしてはいけない」

 主人公がアントン症候群であることを早い時点で明かしてしまって、そこから様々な物語を展開させる。主人公が「見た」現象は事実ではないことは分かっているけど、じゃあ実際はどうなっていたのかを推理する話にしようと。これなら、たとえ先行作品が存在しても、かぶることはないはずです。

 この障害については、相反する二つの仮説が存在します。ひとつは患者が見えていないのに「見えている」と作話をしているというもの。もうひとつは患者が「見えている」と言っている映像が、本当に患者自身には見えているのだというものです。

 頭の中にある映像を見ることができない以上、どちらが正しいかは分かりません。この小説では後者の説を採用しています。

 あくまでフィクションですので、現実にこの通りなのかどうかは分かりません。その点はくれぐれもご注意願います。

  あと、主人公の住んでいる街の名前や、登場する架空のマンガやアニメのタイトルで、ぴんと来る方も多いはず。そう、僕の別の作品とクロスオーバーしてます。

「彼女」が出てくるシーンをまた書けたのが、個人的にはすごく楽しかったですね。