新オカルト雑誌『U SPIRITS』

 あー、またこんなんが出ちゃった……と思って書店で手に取ったんだけど、いや、これなかなか面白いぞ。少なくとも『ムー』の数倍は面白い。 『ムー』みたいに何も知らない素人を騙そうとはしていない。ザ・グレート・サスケ×飛鳥昭雄(この人も911陰謀論者だったのか)の対談とか、お決まりの恐怖体験談とか、怪しげなものも載っている一方で、2012年世界崩壊説の検証とか、インチキ超能力の歴史とか、「『疑似科学』の嘘全部教えます!」とか、原田実さんの「幕末トンデモミステリー」とか、きっちり懐疑的な情報も載せていて、バランスが取れている。 『TVタックル』の裏話とか、オカルト有名人の晩年とか、鳩山幸の過去言動徹底検証といった記事も、『ムー』じゃまず載せないのではないかな。  他にも、大槻ケンジ、エハン・デラヴィ、韮澤潤一郎といった顔ぶれ。  いちばん楽しかったのはUMA特集。特に山口敏太郎氏監修の「日本のUMA250種全解説!」という記事は圧巻。本当にすごい数の日本のUMAが紹介されていて、めくってもめくってもめくっても終わらない! 僕の知らなかったものも多くて、参考になった。他にも山口敏太郎氏と天野ミチヒロ氏の対談とか、昭和のオカルト本に登場するUMAとか、「南極ゴジラ」についての記事なんかも。なんかこの特集だけで790円の元は取ったという感じ。  しかし、山口敏太郎さん、たくさん書いてるなあ。この雑誌の記事の1/3ぐらい、この人の文章じゃないか?  まあ、ここでも例によって飛鳥昭雄が、ツチノコの写真とか河童の写真とかニンゲンの写真とかモケーレ・ムベムベの写真とか、怪しげなものを載せてたりするんだが。(誰が撮ったんだよ、誰が!?)  他にも、トンデモさんたちの笑える発言を探す楽しみもある。  たとえば、「アカシックリーダー」の中津川昴さんという人の発言。 >中津川 (前略)もし大量のニュートリノが地球を通過したときにはどうなるか、ということですね。(中略)だから「年に数百個レベル」のニュートリノっていうのが、数万個とか数億個とかもっと高いレベルで落ちてきたら、通常起きないことが起きるんですよ。  いや中津川さん、太陽からのニュートリノって、1平方mあたり毎秒6000兆個も地上に降り注いでるんですが(笑)。  中津川氏の説によれば、地中にあるウランとかプルトニウムとかにニュートリノ中性子が一個でもぶつかると、核分裂が連鎖的に起こり、地震の原因になるのだそうだ。連鎖反応に必要な「臨界量」という概念を、根本的にご存じないらしい。だいたいプルトニウムは自然界には極微量しか存在しないのだが。  科学にうとい人が科学について何か説明しようとすると、とたんにトンデモになっちゃうもんだなあ。  いちばん笑えたのは、UFO研究家・竹本良氏の「アメリカ軍が回収した57種の宇宙人!」と題するインタビュー記事。  竹本氏といえば、TVドラマ『インベーダー』の一場面を本物のUFO写真と思って本に載せちゃったとか、9.11テロの直後に「映像にUFOが映ってる」と言い出したとか、かなりそそっかしい人なのだが、このインタビューでもトンデモないことを言っている。  1945年8月6日、原爆を落とすために広島に向かっていた爆撃機エノラ・ゲイが、四国上空で超巨大UFOと遭遇していた、というのである。  はて、そんな事件のソースはどこにあんの?……と思って検索してみたら、竹本氏のサイトがヒットした。竹本氏の主張の根拠は、Wikipedia「広島市への原子爆弾投下」に載っていた、こんなくだりだという。 > この直後、エノラ・ゲイのレーダー迎撃士官ジェイコブ・ビーザー陸軍中尉がレーダースコープに正体不明の輝点を発見した。通信士リチャード・ネルソン陸軍上等兵はこのブリップが敵味方識別装置に応答しないと報告した。エノラ・ゲイは回避行動をとり、高度2,000m前後の低空飛行から急上昇し、7時30分に8,700mまで高度を上げた。  つまり、レーダーが前方に未確認機(たぶん日本軍機)を捕らえたもんで、迎撃されるのを警戒して高度を上げたというのを、竹本氏は「超巨大なUFOが通せんぼしてた」と解釈しているのだ! 『U SPILITS』のインタビューで竹本氏はこう言っている。 >――映画やテレビで言うと『インデペンデンス・デイ』とか『V(ヴィー)』(原文ママ)などで出たような、街ぐらいの大きさのものですか。 >竹本 そのぐらいかもしれません。エノラゲイの話に戻りますが、二千メートルの高さを飛んでいて、そこにたかだか五メートルくらいのUFOが飛んでいても、百メートルぐらい上昇すれば、問題ないじゃないですか。ところが二千から八千七百メートルに上昇するからには、よほど大きなものだったということになりますね。  敵機らしき飛行機が前方にいるのを発見しても、ほんの100m上昇すれば避けられるらしいですよ、この人の頭の中では(笑)。だいたい、そんなでかいUFOが空に浮かんでたら、地上の日本人が何千人も目撃してるだろうに。  しかもこの超巨大UFO、原爆を落としに行くエノラ・ゲイが通り過ぎるのを、何もせずに見送ったってことになる。阻止しろよ! 何のために来たんだよ!?  さらに笑えたのは、インタビューの最後に載っていたこの図。「竹本良が分類したウチュウジンの形態26種!」。  ちなみに、Hは「タコタイプ」、Iは「多毛型」、Jは「犬人型」、Kは「四足型」、Nは「爬虫類人型」、Oは「半魚人型」、Pは「カマキリ型」、Qは「アリ型」、Rは「クマムシ型」、Sは「植物型」、Tは「草花型」、Wは「非人間タイプロボット」、Xは「非物質タイプ」、Y(点だけのやつ)は「極小ナノタイプ」、Zは「記号タイプ」なんだそうである。  …………  タコにも犬にも爬虫類にもカマキリにも樹木にも見えんわーっ!!  人面魚に足が生えてるのを「半魚人」とは言わんわー!! 「記号タイプ」というのは「情報型」に分類されている。おそらくオーバーマインドや情報統合思念体みたいな、物理的実体を有さない知性体を想定しているのだろうが、それをこんな風に絵にしちゃうセンスを疑う。  あと、こんな古臭いデザインのロボットの胸に「V」って書いてあるのもなあ。思わず「テッコンVか!?」と言いたくなった。  竹本さんによれば、「決してでっちあげている作っているわけじゃなくてちゃんとしたコンタクト例を元にして作った世界ですので、ほとんど、間違いないものだと思います」とのこと。間違いないのか!?  Lはたぶんモスマンだろうけど、なぜか腕がある。Uは1973年のパスカグーラ事件のエイリアンだろうけど、目撃者の証言を元に描かれた絵(下)とぜんぜん違う。  どうも資料を見ずにうろ覚えで描いたんじゃないかと思われる。せめて模写しろよ。  竹本さんのそそっかしさは、いっこうに治っていないようである。