ライトノベルについていろいろと(後)

 次は「ライトノベルの源流を探る」。  先に挙げたラノベの表面的なフォーマット──「表紙が女の子でカラー口絵があって本文イラストがある文庫本」の元祖が、創元推理文庫の『火星シリーズ』だというのは、みんな笑うけど、でもそうでしょ?  創元がこうしたスタイルで当てたもんで、対抗して早川が創刊したのがハヤカワSF文庫。今は違うけど、昔のハヤカワSF文庫はみんなカラー口絵があって本文イラストがあった。表紙も女性キャラが描かれていることが多かった。ジェイムズ・H・シュミッツの『悪鬼の種族』なんて表紙買いしちゃったし。  ムーアの『大宇宙の魔女』も、あの表紙じゃなかったら手に取らなかっただろう。  他にも『砂の惑星』の石森章太郎、『ジェイムスン教授』シリーズの藤子不二雄、『テクニカラー・タイムマシン』のモンキー・パンチなど、当時の人気マンガ家を起用していた。  だから高千穂遙氏がソノラマ文庫の『クラッシャー・ジョウ』のイラストレーターとして安彦良和氏を指名したのも、そうしたことがヒントになってたんじゃないかと思うんである。  イラストじゃなくて内容に目を向けるなら、大森望氏の主張する「ライトノベルの源流は平井和正『超革命的中学生集団』」という説には賛成。確かにあれより過去には遡れない。『超革中』は従来の児童小説とは完全に一線を画した画期的な作品だったと思う。  ちなみに、これも知らない人が多いようだけど、『超革中』は2003年に『超人騎士団リーパーズ』とタイトルを変えて、青い鳥文庫fシリーズから新版が出ている。  他にも、辻真先『キリコ&薩次』のシリーズはいかに先進的だったかとか、新井素子いつか猫になる日まで』(壮大な宇宙戦争とヒロインの恋が同時進行で描かれる)は今でいうセカイ系のはしりなのかとか、笹本祐一妖精作戦』がのちのSF作家たちにどれほど大きな影響を与えたか……といった話も熱く語った。  これらの作品も今、復刊されてるんで読めます。久しぶりに読んだ『仮題・中学殺人事件』は、トリックが分かっててもやっぱり面白かった。  ちなみに有川浩レインツリーの国』は『妖精作戦』へのオマージュ。だから創元SF文庫版『妖精作戦』の1巻は有川さんが解説を書いている  その後は、90年代から現代までのいろんなライトノベルを紹介。有名な作品を今さら取り上げるのも芸がないので、知名度じゃなく、あくまで僕の思い入れを基準にセレクトした。  90年代の作品では、『バーンストーマー』『星虫』『宇宙豪快ダイザッパー』『風の白猿神』『電脳天使』『タイム・リープ』『ロケットガール』『ブラックロッド』など……『風の白猿神』は今でもちょくちょく語り草になってますな。  21世紀に入ってからでは、『紫色のクオリア』『ヴィークルエンド』『パララバ』『アンチマジカル』『邪神大沼』『“菜々子さん”の戯曲』『超妹大戦シスマゲドン』『千の剣の舞う空に』『消閑の挑戦者』『声で魅せてよベイビー』などなど。  中でもどうしても取り上げたかったのは、桜庭一樹さんの『竹田くんの恋人』。純粋に作品として見ると、明らかに失敗作なんだけど、クライマックス、ゲームの世界からやってきた女の子が、ついに探し当てた自分のプレイヤーに告白するくだりが、もうボロボロ泣けちゃって……個人的に忘れがたい作品である。  あと三雲岳斗氏による『絶対可憐チルドレン』のノヴェライズは、原作ファンには絶対おすすめ。スケールが大きいうえに、原作の設定を緻密に織りこんでいて、ファン・サービスもたっぷり。『チルドレン』の劇場版作るんだったらこういう話にすべき!  他にも、タイトルを見ただけで笑っちゃう作品とか、設定がトンデモない作品もいろいろ紹介。『名門校の女子生徒会長がアブドゥル=アルハザードネクロノミコンを読んだら』『魔王が家賃を払ってくれない』『ウルトラマン妹』『うちのメイドは不定形』『パンツブレイカー』『奥の細道オブ・ザ・デッド』『寄生彼女サナ』『五年二組の吸血鬼』などなど……トンデモない設定でもつまらないかというと、決してそんなことはない。問題はその設定をうまく使いこなしているかどうか。特に『うちのメイドは不定形』はおすすめ。  あっ、もちろん『ココロコネクト』『這いよれ!ニャル子さん』『ベン・トー』『文学少女』『俺の妹がこんなに可愛い』などのメジャーな作品もいろいろ取り上げましたよ。 『俺の妹』は次が最終巻だけど、どう決着つけるのかなあ。さすがに桐乃エンドだけはないだろうと思ってたんだけど、最新刊の最後のページの桐乃の宣言で分からなくなった。ありうるのか、桐乃エンド!? もうドキドキですよ。  結論としては、  ライトノベルには「遠慮」がない。  普通、「半径2メートル以内のパンツを消す能力」なんて、思いついても小説に書こうとは思わない(笑)。それを書いちゃうのがライトノベルだ。アイデアだけじゃない。「こんな変なキャラクターを出したらバカにされるんじゃないか」とか「こんな荒唐無稽な設定を受け入れてもらうには、日常に密着したリアルな部分をみっちり書かないといけないんじゃないか」とか「こんなに会話ばっかりでストーリーが進まない小説なんて許されるのか」といった遠慮をしないのである。  そうした自由奔放さこそ、ライトノベルの魅力だし、一方で、ライトノベルを生理的に受け付けない人がいる原因でもあるのではないかと思う。  ライトノベルは長所と欠点が表裏一体なのだ。