まだある、嫌韓デマ

市民社会フォーラム第123回学習会

ヘイトスピーチレイシズム問題を考える ―ネットからリアルへ―』

http://www.theater-seven.com/2013/b1_131215.html

 行ってきました。

 こんな堅い企画、お客さんが来るのかな……と思ってたら、100人ぐらい入れる会場がほぼ満席だった。やはりヘイトスピーチに関心を持っている人が多いらしい。

 おかげで僕が会場に持ちこんだ本もけっこう売れた。『タブーすぎるトンデモ本の世界』が10冊完売。『詩羽のいる街』文庫版と新刊の『夏葉と宇宙へ三週間』が各4冊ずつ。

 こういういつもと場所で、少しでも違う客層にアピールしとかないとね。

 同じ日には、大阪でヘイトデモが3つも行なわれていたそうだ。あらためて、嫌な時代になったな、と痛感する。

 もっとも、見てきた人の話によると、いつものような「殺せ」「死ね」「鶴橋大虐殺」みたいな言動は少なく、明らかに自粛していたようだ。先日、警察庁が平成25年度版「治安の回顧と展望」の中で、在特会などの右派系市民グループについて、「反対勢力とのトラブル事案等、違法行為の発生が懸念される」などと、警戒を示したことが報道されたせいかもしれない。

 ちなみに、この報道を読んだ連中の反応はこんなの。

『「右派系市民団体」の違法行為懸念 警察庁、初めて言及』に対する「右派系(?)市民」の反応集

http://togetter.com/li/601894

また朝日か」とか言ってる奴が多くて笑った。朝日新聞の記事だけ読んで、朝日が偏向報道をしてると思ってるのだ。産経も毎日も報道してますけど?

在特会などの過激化に懸念 25年版「治安の回顧と展望」(産経新聞

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131211/crm13121122310018-n1.htm

警察庁:2013年版「治安の回顧と展望」公表(毎日新聞

http://mainichi.jp/select/news/20131212k0000m040026000c.html

 かと思えば、「左派系は取り上げられてないの?/ソースを読む機内けど(原文ママ)」などと、とぼけたことを言っている連中も多数。左派系の活動が取り上げられていないと思っているのだ。ソース読めよ。北朝鮮や中国や核マルや共産党についてもちゃんと触れられてるから。つーか、そっちの方が多いから。

「治安の回顧と展望」(平成25年版)

http://www.npa.go.jp/keibi/biki/kaiko_to_tenbou/H25/honbun.pdf

 そうした、これまで警察が危険視していた勢力に、「右派系市民団体」もようやく加わったってことなんである(遅すぎたぐらいだけど)。

 それにしても、あいかわらずメディア・リテラシーのとことん低い連中だなあ。ググッてみるということをしないのか。

 安田浩一さん、初めてお会いしたけど、すごく話し上手な人だ。話の内容も面白くて、まったく退屈しなかった。

 当初の予定では2時間で、前半が安田さんの話、後半が僕と安田さんの対談だったんだけど、安田さんが1時間40分喋ったもんで(笑)、急遽、30分延長することに。いや、面白かったからいいんだけどね。

 ちなみに僕は主に、ネットに氾濫する嫌韓デマについて語った。

 この日、楽屋で安田さんに見せていただいたビラ。在特会とは別の団体がばらまいているものだそうだ。後でネットで検索してみたら、本気にして拡散している奴が何人もいて唖然となった。

>日本人差別をなくそう

>人口比わずか0.5%

>64万人の在日朝鮮人の内、46万人が無職で

>年計2兆3千億円が

>在日朝鮮人生活保護

>として使われているのをご存知ですか?

 ぜんぜんご存知じゃありませーん(笑)。

「2兆3千億円」という突拍子もない数字がどこから出てきたのかと、ビラを見つめて首をひねっていたら、46万×500万=2兆3000億だと気がついた。

 つまりこのビラを書いた奴は、生活保護を受けている者が在日コリアンが46万人いて、1年に1人あたり500万円を受け取っている」と主張しているわけである。月41万7000円? 3人家族なら月125万円? それはまた豪勢だな(笑)。生活保護費って、月額最大で30万円ぐらいのはずだが。

 しかもその左下には「働かず年600万円貰って」と書いてある。計算合わねえ!

 まあ、こういうビラを真に受けるのは、いい年して掛け算割り算もできないバカだけだろう。

 まともに反論するのも空しいけど、とりあえず事実を書いておこう。

「46万人」というのは無職の人数である。無職=生活保護ではない。日本人だって半数以上が「無職」である。高齢者や子供や主婦がいるからだ。

 実際はどうなのか、政府の2011年の統計を見てみる。

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001107137&requestSender=search

 この年の被保護人員は147万2230世帯、202万4089人。

 このうち韓国朝鮮籍の者は、2万8796世帯。支給世帯全体の1.9%にすぎない。

 つまり、仮に韓国朝鮮籍の人への生活保護を停止しても、生活保護費は2%ぐらいしか減らないということだ。嫌韓レイシストがよく言う「在日の生活保護費が日本人の生活保護費を圧迫している!」などという主張は事実無根である。

 世帯数ではなく人数も計算してみよう。

 単身世帯が2万2241世帯、2人世帯が4764世帯、3人世帯が1165世帯、4人世帯が415世帯、5人世帯が144世帯、6人以上が67世帯。 「6人以上」というのを仮に7人として計算してみると、

22241+4764×2+1165×3+415×4+144×5+67×7=

=22241+9528+3495+1660+720+469

=38113

 約3万8000人。「46万人」という数字の12分の1だ。

 ただ、在日コリアン生活保護受給率が平均的日本人より高いのは事実である。これは平均的日本人より貧しい家が多いのと、(会場でも安田浩一さんが言っていたけど)高齢の受給者が多いためである。

 この統計を見ると、在日コリアン受給者の中で最も多いのは単身世帯で、2万2241世帯。うち1万3301人が高齢者である。2人世帯では1612世帯、3人世帯では26世帯。高齢者世帯は需給世帯全体の52%を占める。

 それに対し、日本全体で見ると、147万2230世帯中、高齢者世帯は63万9760世帯、つまり43%。在日コリアンは高齢受給者の比率が高いことが分かる。

 在日外国人は1986年まで、国民年金に加入できなかった。そのため、高齢になっても年金を受け取れず、生活保護に頼るしかない者が多いのだ。

 これが嫌韓レイシストに言わせると「在日特権」なんだそうである。

 もっとも、今では在日外国人も年金に加入できるので、この先、高齢受給者は減ってゆくと予想される。

 と言うか、そもそも在日コリアン自体が急速に減っている。統計を見ると、1992年からの20年間で15万8000人、23%も減った。現在は年間1万人ぐらいのペースで急速に減少している。それだけ帰化する人がいるということだ。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1180.html

 上の差別ビラには「64万人の在日朝鮮人と書いてあるけど、それは2000年頃の数字。2012年の時点で特別永住者は53万人にまで減っている。在日コリアンを蔑視する連中は、彼らが今何人いるかすら知らないのだ。

 在日四世とか五世とかになると、もう民族のアイデンティティにこだわる人が少なくなってきているかもしれない。このままだと、あと半世紀もすれば、日本から在日コリアンはいなくなる。

 上の差別ビラには「こんなに特権階級だから帰化出来るけどしません」と書いてある。これを論破するのは簡単だ。「どんどん帰化してますけど、何か?」と言えばいい。