盗作されました〔2〕

 もっとひどいくだりもあります。  えーと、映画版の『宇宙戦争』について語るなら、一九五三年版についても触れないといけないのでは? あと、『タイム・マシン』や『透明人間』も映画になってますよ。 ──『翼を持つ少女』7章  ここはヒロインの空のモノローグです。彼女はSFマニアなので、相手の発表を聞いて、心の中でそうツッコんだんです。しかし、口には出していません。それどころか、「発表者の揚げ足を取るような質問は禁止」というルールを、ちゃんと守っています。  ツッコみたくてたまらないんですが、今はまだ質疑応答の時間ではありません。蟹江の発表を黙って聞くしかないんです。それに質疑応答でも、発表者の揚げ足を取るような質問は禁止です。間違いをストレートに指摘することはできません。 ──『翼を持つ少女』7章  しかし@ichinoseyayoiはそれをこう改変します。 「映画版の『宇宙戦争』を語るなら1953年版についても触れないといけないのでは?あと『タイム・マシン』や『透明人間』も映画になっています」 「触れないといけない?そんなルールありませんよ。これは好きな本を紹介するビブリオバトルであり、著者の経歴を暗記した人間がケチをつける類の発表会ではありません。この本を紹介するならあれについて触れなきゃいけない、この作者について紹介するならあれについて触れなきゃいけない、そういう思想が読書感想文嫌いを生み、読書嫌いを生んできた歴史をご存知ではないのですか。ビブリオバトルでSFについて語るならSF1000冊は読んでからでないとといって読書人口を減らすおつもりですか?」 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881698267/episodes/1177354054881698298  はい、ひどいですね。@ichinoseyayoiは、小説の中で空が実際には言わなかった台詞を自分のキャラクターに言わせ、それに対して批判してるんです。  僕はもう何十回もビブリオバトルを観戦してきましたが、著者の代表作について発表者に「触れないといけないのでは?」と指摘する人も、ビブリオバトルでSFについて語るならSF1000冊は読んでから」なんてバカにする人も、「著者の経歴を暗記した人間がケチをつける」なんて場面も、見たことがありません。繰り返しますが、それはルール違反ですから。  つまり@ichinoseyayoiは、現実のビブリオバトルでも僕の小説の中でも発せられたことのない言葉を、自分の小説の中ででっち上げ、それを攻撃しているのです。 そんな行為が「創作論・評論」なのでしょうか? 「『世界史概観』が最初に出たのは一九二二年。その二年前にウェルズは『世界文化史大系』という大部の本を書いていたんだが、それを短くしたのが『世界史概観』だ」  朝日奈先生は授業のような口調で語る。 「その後、一九四六年、つまりウェルズが死んだ年に、それ以降の歴史を加筆した第二版が出た。ただし、ウェルズがそれを執筆したのは一九四四年だ。執筆から本になるまで二年かかったわけだな。だから当然、第二次大戦の結果については書かれていない。  さらに一九六五年、ウェルズの息子のG・P・ウェルズと歴史家のレイモンド・ポストゲートが、第二次大戦と戦後の歴史を書き足した第三版を出した。岩波新書から出ている翻訳――蟹江が持っていたやつは、第二版をベースに、巻末に第三版による加筆箇所を付け加えた形になっている」 ──『翼を持つ少女』7章 「この本には1962年キューバ危機が回避されたことまで書いてあります。この本に米ソの冷戦について書かれているという表現はまったく問題ないと思います。『世界史概観』が最初に出たのは1922年。その2年前に『世界文化史大系』という大部の本を書いていましたが、それを短くしたのが『世界史概観』です。その後、1946年、つまりウェルズが死んだ歳に、それ以降の歴史を加筆した第2版が出ました。ただしそれを執筆したのは1944年です。執筆から本になるまで2年かかったわけです。だから当然、第二次世界大戦の結果については書かれていません。さらに1965年、ウェルズの息子のG・P・ウェルズと歴史家のレイモンド・ポストゲートが、第二次世界大戦と戦後の歴史を書き足した第三版を出しました。岩波新書から出ている翻訳──この本は、第二版をベースに、巻末に第三版による加筆箇所を付け加えた形になっています。  これだけの説明必要ですか?誰かに『この世界史の本ってどの辺までの歴史載ってるの?』と聞かれたら、『世界史概観』が最初に出たのは1922年。その2年前に『世界文化史大系』という大部の本を書いていましたが、それを短くしたのが『世界史概観』です。その後、1946年、つまりウェルズが死んだ歳に、それ以降の歴史を加筆した第2版が出ました。ただしそれを執筆したのは1944年です。執筆から本になるまで2年かかったわけです。だから当然、第二次世界大戦の結果については書かれていません。さらに1965年、ウェルズの息子のG・P・ウェルズと歴史家のレイモンド・ポストゲートが、第二次世界大戦と戦後の歴史を書き足した第三版を出しました。岩波新書から出ている翻訳──この本は、第二版をベースに、巻末に第三版による加筆箇所を付け加えた形になっています。こう答えるんですか?『この本には米ソの冷戦ぐらいまでの事が書いてあるよ』という答えのどこがいけないんですか。無理やり相手を悪役に仕立て上げる為に難癖つけてるだけじゃないですか?」 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881698267/episodes/1177354054881698298  僕の文章を書き写しただけでなく、あきれたことに、同じ文章を繰り返して、2倍の分量に水増ししています。そんなことをする意味がまったく不明です。 『翼を持つ少女』では、ヒロインの空が、対戦相手の蟹江が実はウェルズの『世界史概観』を読んでいないことに気づき、遠回しにそれを指摘しようとします。しかし、彼女が作中、蟹江に向かって口にしたのは、H・G・ウェルズっていつ頃の人なんでしょう? 生年と没年を教えていただけますか?」という質問だけです。なぜなら、それ以上はっきりと相手の間違いを指摘したら、「発表者の揚げ足を取るような質問は禁止」という公式ルールに抵触することになるからです。  僕は作中で、登場人物に可能な限りビブリオバトルの公式ルールを守らせようと注意しています。しかし@ichinoseyayoiはそんなことを気にも留めません。キャラクターに平然とルールを無視させ、現実のビブリオバトルで起こり得ないことばかりを書きます。そのうえで、こんなのは間違っていると文句をつけるのです。そりゃあ、間違ってるに決まってますよ!  僕が小説の中で書いていないことをでっち上げて批判する。それはまさに「無理やり相手を悪役に仕立て上げる為に難癖つけてるだけ」に他ならないのですが、彼は自らの矛盾にまったく気がついていないようです。  もしかしたら@ichinoseyayoiは「これは盗用ではなく評論だ」と主張するかもしれません。しかし、引用元が明示されていないので引用の要件を満たしていませんし、作者自身がつけた種類が「オリジナル小説」なのですから、そんな言い訳は通用しません。  そもそもカクヨム利用規約の第13条の「禁止事項等」には、「当社が指定した作品と異なる作品の二次創作作品を当サービスに投稿する行為」「当社または第三者知的財産権、肖像権、パブリシティ権、名誉権、所有権その他一切の権利を侵害する行為」と規定されています。つまり他社作品の二次創作や改変は明白な規約違反です。  この小説を通して、@ichinoseyayoiは僕の小説を攻撃することに全力を燃やしているようです。もちろん、その指摘が冷静で正しいものであればかまわないのですが、実際にはきわめて偏見に満ち、嘘だらけです。  後半では、フィクションであることを逸脱して、本物の『翼を持つ少女』の内容について論じはじめます。ここは確かに「評論」ぽいです。しかし、こんな記述はどうでしょうか? https://kakuyomu.jp/works/1177354054881698267/episodes/1177354054881698298  しばき隊による下品な行動に理解をしめすジャーナリストを好意的に紹介している事も明らかに釣りだと思います。H・G・ウェルズが世界平和のために『軍備そのものが戦争を生むのだからドイツに対して全ての武力を放棄させる、その後それはドイツだけではなく全ての国に対しても行われなければならない』『ドイツ軍国主義を粉砕し、しかる後に新世界秩序の必要を痛感してその確立のために働こうとしている人々を妨害する、イギリス、アメリカ、フランスなどのあらゆる国家主義を打倒しようとした』と考えて、全ての国が軍事力を放棄しなければ平和が訪れない事を訴えていた事を作者がこれだけ小説の中で言っているのに、同じ発言でもこっちの団体はヘイトスピーチで、こっちの団体はヘイトスピーチじゃありません、むしろそっちの団体はヘイトスピーチするかもしれないから発言自体出来ません、なんていう事を肯定しているようなジャーナリストを肯定的に小説の中に入れるはずがないんです。ウェルズの言葉の意味を理解していれば、誰であろうと人を傷つける武器は持っちゃいけないんですから。読者に、それは明らかにおかしいよね、と言ってほしいはずです。 「しばき隊による下品な行動に理解をしめすジャーナリスト」って誰のことなんでしょう? 小説の中に出てくるジャーナリストの名を検索してみましたが、よく分かりませんでした。最初は『九月、東京の路上で』の著者の加藤直樹氏のことかと思ったのですが、Wikipediaによれば「一度だけしばき隊に参加したが、考えが合わないということで除名となった」そうですので、明らかに違います。  何にしても、僕はそのジャーナリストが「しばき隊による下品な行動に理解をしめ」していたなどという話は聞いたこともありませんので、その点を矛盾であるかのように言われても、「はあ、そうですか?」としか答えようがありません。  だいたい、ビブリオバトルの参加者が質疑応答の時間に長広舌を──しかも自分の紹介した本以外に関する長広舌をえんえんとぶつのは、明らかに間違っています。主催者はなぜ止めようとしないしないのでしょうか? それとも@ichinoseyayoiはビブリオバトルの基本的なルールすら知らないのでしょうか?