インディペンデンス問題と早川書房

 僕の身にインディペンデンス問題が降りかかってきたのは、僕がSF小説『輝きの七日間』を早川書房の雑誌「SFマガジン」に連載していた時のことだった。

 オリオン座のアルデバラン超新星爆発を起こす。人体には害はないものと思われていたが、未知の素粒子オリオノンが降りそそぐ。その素粒子には人間の知能を一時的に向上させる効果があった。すべての人間は一時的に大天才になる。一夜にして全世界から争いが消滅する。

 しかしオリオノンの効果が続くのは一週間の間だけ。すべての人はこの七日間に得た超越的な変貌を記憶しておこうと努力するのだった……。

 早い話が全世界版の『アルジャーノンに花束を』である。僕は「いい小説だ」と思っていたし、連載中の読者の反応も悪くはなかった。

 しかし早川書房はこの『輝きの七日間』の原稿を本にすることを拒否した。

 インディペンデンス問題にひっかかったのだ。

 

 最初のうちはごく当たり前の問題のように思えた。その連載の中にオーストラリアの屠畜業者が出てくるのだ。オリオノンの作用によって、人間同士で殺し合うのに嫌悪感を抱くようになる。そればかりか人は家畜を殺すも耐えられなくなるのだ。

 編集部の要請ではこういうものだった。「連載中にこのシーンだけを読んだ読者が差別的な描写だと誤解するかもしれない」

 僕はそれはもっともだと思ったので、連載箇所の削除に同意した。「そのかわり、連載が終了したら、削除箇所は戻してもらいます」と。

 ところが早川書房はこの要求を拒否した。連載が終わったあとも、屠畜業者が出てくるシーンは元に戻さない、というのだ。

(つづく)