「山本さん、何か知りませんか?」

 だいぶ前にこのブログで書いたことがあるけど、僕は週一のペースで、家の近所にある療養所に通っている。本の話がしたいけど、どうも読書が趣味の人が少ないらしいのが悩みの種だ。しかし、ちょっとでもいいから同好の士を広げたいので、地道に僕の本を何冊かずつ療養所の診察室に運んで、せめて一冊でも読んで欲しいと願っていた。だれか読んでくれる人が現われたらいいと願っていた。

 ところがなんと現われたのである。○○さんという名の療養所で働いている女の人だ。

 僕は自分の本だけじゃなく他の人の本もちょくちょく紹介していた。特にお気に入りの作家の一人は有川浩さん(最近、『有川ひろ』と改名したのだそうだが)。僕は『図書館戦争』はもちろん、『海の底』『空の中』や一連の自衛隊ものもしっかり読んでいる。

 その有川さんの著書の中で、僕のお気に入りの一冊は『レインツリーの国』だ。これは本来は『図書館戦争』の中の架空の作品なのだ。ところが『図書館戦争』がアニメ化されるとき、『レインツリーの国』がなかったことにされた。聴覚障害者が出てくるのが差別的だとというアホな理由で(『図書館戦争』のアニメソフトには収録されたが、テレビ版の放映では未放映なのだ)。

 僕はそれを知って怒りに震えた。まさか「インディペンデンス問題」がこんなにも間近に迫っていたなんて! 

 その後、有川さんは本に『レインツリーの国』という小説を書いてしまった。まったく差別的なところなどない、素晴らしい内容だ。それは現実に存在する「メディア良化委員会」に対する有川さんの抗議だったのだろう。僕もそれに同調し、文庫版の『レインツリーの国』に有川さんへの賛辞と、現実に存在する「メディア良化委員会」のような組織に対する怒りを表明した。

 それを知っていた○○さんはこう言った。

「前にある日本人の作家の小説を読んだことがあるんですけと、その小説の中にドイツ人の作家の小説の抜粋があって、それを読んでみたいと思ったんですげど、調べてみても最近、その作家の日本語の本って出てないんですよね。出てないはずがないと思うんですけど……山本さん、何か知りませんか?」

 すみません、知りません(笑)。僕にすべてを求められても困る。