インディアナポリス問題・こんなに恐ろしい問題

  僕と早川書房の話し合いは長く続いた。とにかく早川書房の頑固さには骨が折れた。こっちは何回も何回もおなじ主張を繰り返さなくてはならない。

 彼らの主張も同じだ。「これは差別で言っているのではないのです」……何回リピートされたかなこの説明。耳に胼胝ができるよ。

 議論の最後に僕はこう言った。

「こんな話を続けても決着がつきません。それなら本当に屠畜業者の人を呼んできて原稿を読んで、決着をつけてもらいましょう。彼らが『これは差別表現です』と言ってくれたなら、僕もあきらめます」

 僕はこれは筋の通った解釈だと思っていた。議論の決着を屠畜業の人自身に判定してもらうのなら、文句が出るはずがないと。

 数時間後、早川書房から驚くべき返事が戻ってきた。

 

「彼らは原稿を読んだだけでも、頭に血が上って、早川書房の編集部に怒鳴り込んでくるかもしれない」

 

 本当に言ったんだよ、早川書房の編集者が!!!

 さらに編集者はこんなことも言った。

 

「あなたが自分で屠畜業者に連絡を取り、個人的に彼らにアドバイスを求めることも禁止します。もしそんなことがあったなら、重大な契約違反ということになり、『輝きの七日間』は早川書房からは本は出ないものと覚悟してください」

 

 これは事実上の「『輝きの七日間』は出させない」という宣言である。

 僕はすぐに早川書房以外の出版社と連絡を取り合い、出版できないものかと相談した。どこでも『インディアナポリス問題』では難しい顔をする。みんなそういう問題には首をつっこみたくないらしい。

 みんなおかしくないか?

 みんな焼き豚やハンバーグを食べないの? 豚肉や牛肉をさばいてくれる人がいなかったら、みんな飢えて死んじゃうんだよ?