8月19日(火)フェブラリーのアレに触れる

 翌日はつくばのKEK(高エネルギー加速器研究機構)の見学。

 最初に訪れた見学者用の展示室で、いきなり興奮した。

「エアロゲルだーっ!」

 解説しよう。これはシリカを原料にした乾燥ゲルで、体積の90%以上が空気という代物。だから異常に軽い。ほぼ無色なうえに、屈折率が空気に近いので、そこにあるにもかかわらずうっかりすると見過ごしてしまうという、何とも奇妙な物質だ。

 これはチェレンコフ放射を利用して、放射線の検知素子として使われている。

 僕がこの物質の存在を知ったのは、20年ぐらい前の『サイエンス』の記事。さっそく『時の果てのフェブラリー』に登場させた。超知性体の操る多面体UFOが、エアロゲルで構成され、内部のモノポールによって磁場を操り、低重力の中で浮かんでいるという設定である。

 でも、現物を見たのはこれが初めて。しかも手で触れる。

 軽い! 軽いよ!

 実際の密度は分からないけど、感覚的には発泡スチロールより軽く感じた。

 展示してあったのは破砕したかけらみたいだったので、「すみません、これ、おみやげにもらっていいですか?」と思いきって申し出たら、OKしてもらえた。何で僕がこんなにエアロゲルにエキサイトしてるのか分からなかったみたいだけど。

 でも、もろいのが欠点なんだよね。カメラのバッグに入れて持ち帰ったんだけど、大阪に帰るまでにかなり粉々になってて、小さなかけらしか残ってませんでした。残念。

 これ、透明なケースにでも入れて、おみやげとして売ってくれないかな。さすがに使用済みの放射化したやつはまずいだろうけど。壊れたやつとか捨てちゃうのもったいないよ。

 他にも印象的だったのは、電子と陽電子をぶつけて素粒子の対称性の破れを探るBelle実験施設――と言うより、厳密にはその裏側のコンピュータ・ルームに感動しました。

 ケーブルがまるでジャングル!

 これはツタだよツタ!

 部屋中、びっしりとケーブルがはびこっていて、間違って抜いちゃったら元通りにちゃんと接続し直せるんだろうかと不安になる。

 もちろん加速器などの施設も見学。

 旧式のコッククロフト・ウォルトン型高電圧発生装置が、評判通り、『鉄腕アトム』に出てきそうな美しさ。周囲の壁がすべて金属で覆われているのもかっちょいい。

 最後に解説と質疑応答のコーナーがあった。

 現在、計画が検討中なのが、ILC(International Linear Collider)。各国共同のプロジェクトで、全長30kmのトンネルを掘って、その中に500GeVのでかい直線加速器を建設しようというもの。まだ日本に建設するかどうかは決まっていないが、建設されるとしたら、これまたネタに使えそう。

 ツアー参加者の一人が、「昔、『銀河英雄伝説』でX線レーザーというものが出てきたのですが、それがどんなものかようやく分かりました」と言っていたのが印象的。

 KEKの人たちにしてみれば、自分たちのやっていることをもっと世間に知ってもらいたいのだろうけど、SF作家としてはやっぱり、「小説の中に使えるか」を優先して考えちゃうんだよね。

 ところで、なにせ広い施設だから、中には食堂もあればコンビニもあれば書店もある。

 見学の合間の休みに時間に、ふらりと書店に入ってみた。やっぱり物理学関係の本が多いなあ……と思ってたら、トンデモ本を発見!

http://www.amazon.co.jp/dp/4434120182/

 内容的にはよくある、素人が「相対性理論に間違いを発見した!」と主張する本。前に別の書店で見かけていたのだが、「この本はKEKでゲットすることに意義がある!」と思って、話のタネに買ってきた。

 しかし、現代物理学の最先端の場所でこんなの売ってたって、買う人間いるのかね?

 ちなみに、やはりKEK内のコンビニに入った人の話によると、江本勝の『水は音楽を聴いている』も売っていたそうである。 うわあ。