「精神障害者は犯罪者予備軍」のウソ

 今回はひどく不快な話題を書かせていただく。

 10月中旬のこと、mixiの「統合失調症」コミュが猛烈な荒らしに遭った。精神障害者を罵倒する差別主義者たちが乗りこんできたのだ。

 最初に現われたのは「チョン」というハンドルネームの人物で、統合失調症患者は人を殺すからみんなどこかの島にでも閉じこめておけ、などという暴言を吐いた。それに同調し、彼の同類(複アカではなく、実際に何人もいるようだ)の「流産婦人科かりあげ」「暗黒猫」「ダルマZ武号」といった連中が次々に現われた。

 このコミュに差別主義者が乗りこんでくることは、前からたびたびあった。今回もすぐに退散するかと思って傍観していたのだが、どんどんひどくなる一方だった。このコミュは管理人が長期間不在で、彼らの発言を削除することもアクセスブロックすることもできない状態が続いていた。それをいいことに、彼らはコミュに所属する統合失調症の人たちを罵倒し、からかいまくった。

「チョン」は調子に乗って「精神障害者は犯罪者予備軍」などというコミュを作った。そのトップ文にはこんなことが書かれている。

> 精神障害者は人権の名の下に国から保護を受けた上、殺しのライセンスを与えられたバーサーカーです。

>このようなキチガイが首輪も付けずに街中を歩いているのは異常なのです。

>偽りの善にだまされず、ダメなものはダメ、危険なものは危険と声を大にして言える世の中にしましょう。

 この連中の日記も読んでみたが、どれもこれもひどい代物だった。反社会的なことやおぞましいことが毎日のように書かれているのだ。障害者差別だけでなく、事故や犯罪の被害者を嘲笑したり、児童虐待事件をジョークのネタにしたり……飼っている猫を虐待していることを楽しそうに日記に書いている者もいた。

 いったいどっちが「異常」なのやら。

 さすがに堪忍袋の緒が切れて、僕は「チョン」「流産婦人科かりあげ」「暗黒猫」「ダルマZ武号」の4人を利用規約違反でmixi運営事務局に通報した。(差別発言はmixi利用規約第14条3項で禁じられている)

 僕は言論の自由を最大限に擁護する者だが、それにも限度というものがある。「他人を中傷する自由」「差別を助長する自由」まで認めてはいけない。

 よく「荒らしはスルー」と言われるが、その方針が常に正しいわけではないということは、今回の件であらためて実感した。こういう連中は何もしなければどんどん増長する。積極的に通報しなくてはだめなのだ。

 現在、「統合失調症」コミュは新管理人が就任し、差別発言が消され、ほぼ常態に復帰している。しかし、「精神障害者は犯罪者予備軍」コミュはまだ削除されていない。彼らは依然としてコミュや日記で危険な発言を続けている。

 mixiの運営は腰が重いのだが、それでも差別や中傷が明白であり、多くの人から通報を受けたら、断固たる処置を取る。実際、ひどい内容のコミュが強制削除を食らった例が何度もあるのを、僕は見ている。これをお読みの方の中で賛同される方がおられるなら、ぜひ通報にご協力いただきたい。

 いい機会なので、「精神障害者は犯罪者予備軍」というのがどれほど事実に反しているかを説明しておこう。

 平成17年のデータによれば、日本の在宅精神障害者の数は、267万5000人。その内訳は、「統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害」が55万8100人(20.7%)、「気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む)」が89万6200人(33.3%)、「神経症性障害、ストレス関連性障害及び身体関連性障害」が57万9600人(21.5%)……という比率である。

障害者白書 平成21年版

http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h21hakusho/zenbun/zuhyo/zuhyo2_07.html

 同じ年の日本の人口は1億2776万人なので、在宅精神障害者は日本の人口の約2%を占めていることになる。(入院している患者については、犯罪にはまず関われないだろうから無視してよかろう)

 ただし、この数字はあくまで認知数であり、実数ではない。

 たとえば成人の統合失調症の発症率は0.8〜1%とされており、日本には80〜100万人の統合失調症の人がいると推測されている。発症しているにもかかわらず、まだ病院に行っていないので、統計に現われていない人数が多いのだ。実際、上のグラフで、統合失調症の人の数がたった6年で10万人も増えているのは、実数ではなく認知数が急増していることを意味している。

 これだけ見ても「統合失調症患者はどこかの島に閉じこめておけ」というのが、いかに愚かな発言であるかが分かるだろう。こんなに大勢を閉じこめられる島がどこにある? 予算が年間何兆円必要だ?

 犯罪白書によれば、同じ年、一般刑法犯検挙人員ののうち「精神障害者」または「精神障害の疑いのある者」の数は2411人。うち殺人罪は121人(未遂も含む)。

犯罪白書 平成18年版

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/52/nfm/n_52_2_3_4_1_0.html

 つまり、平成17年に刑法犯で検挙された精神障害者は、単純計算で1100人に1人(0.09%)。殺人を犯した精神障害者は2万2000人に1人(0.0045%)。

 一方、一般刑法犯検挙人員は全体で38万6955人。うち殺人は1338人。すなわち、平成17年に刑法犯で検挙された日本人は約330人に1人(0.3%)。うち殺人犯は9万5000人に1人(0.001%)。

 つまり刑法犯全体で見ると、精神障害者の犯罪率は日本人の平均の1/3以下なのだ。特に刑法犯の大半を占める「窃盗・横領・詐欺」の比率が極端に低い。「精神障害者はめったに人からものを盗まない」と言えそうだ。「傷害・暴行」「強姦・強制わいせつ」も平均より低い。

 ただし殺人と放火だけは比率が高い。殺人に関しては、精神障害者の犯罪率は日本人の平均の4.5倍多い。

 しかし、日本人の平均が0.001%であるのに対し、0.0045%という殺人者の比率からは、「精神障害者は犯罪者予備軍」とはとても呼べないだろう。精神障害者の圧倒的多数は、人を殺したりはしないのだから。

 それでもなお、「日本人の平均より4.5倍も殺人率が高いというのは不安だ」という人のために、こういうデータはいかがだろうか。世界各国の人口あたりの殺人率である。

http://www.nationmaster.com/graph/cri_mur_percap-crime-murders-per-capita

「日本人の平均の4.5倍」という数字は、ポルトガルルーマニアに近く、アメリカやインドより低い。日本の精神障害者が人を殺す率より、平均的アメリカ人が人を殺す率の方が高いのだ。だからと言って「アメリカ人は犯罪者予備軍」などと言う者はいまい。

 さらに、この0.0045%というのは、多く見積もった数字である。

 第一に、先にも述べたように、統計で把握されていない精神障害者がかなりいるから、母数は267万人より多い。

 また「精神障害の疑いのある者」というのが問題である。これは「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」第24条(「警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない」)に基づき、警察官が「精神障害者かも」と思って通報したものであり、本物の精神障害かどうかは不明なのだ。

 実際、同じ年のデータを見ると、心神喪失者または心神耗弱者と認められたのは、殺人犯121人のうちの103人である。

犯罪白書 平成18年版

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/52/nfm/n_52_2_3_4_2_1.html

 また、精神障害者の犯罪でも「通行人を無差別に殺傷」というものは全体の一部であり、多くは健常者の犯罪と同じく、顔見知りの人物が被害者だという。

 ただ、実際に危険な精神障害者がおり、悲惨な事件が年に何件も起きているのは確かである。マスコミはそれをセンセーショナルに報じる。それで「精神障害者は危険」というイメージが作られてゆく。

 そうした一部の危険な患者は隔離しなければならないのは当然である。しかし、精神障害者全体を危険視するのは間違いなのだ。繰り返すが、精神障害者のほとんどは人を殺したりなどしないのである。

 統合失調症に関して言うなら、「統合失調症」コミュを見れば分かるが、病気に苦しみながらも健常者と同じように働いている人がかなりいる。ただ、世間の偏見の目があるため、自分が統合失調症であることをカムアウトできない人も多い。調子が悪くて働けない時には「怠けている」と誤解を受けることもよくあるようだ。

 確かに言えるのは、彼らのほとんどは、彼らを罵倒し嘲笑する差別主義者たちより、はるかに善良であり理性的だということだ。

 ちなみに精神障害者の健常者に対する暴力よりも、健常者の精神障害者に対する暴力の方が多いと言われている。

精神障害者より恐ろしいのは、普通の人々と麻薬

http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-1499.html

 当然だろう。絶対数で言えば、凶暴な精神障害者より凶暴な健常者の方がずっと多いだろうから。