NHKバリバラ ドラマ「悪夢」

 先日、再放送で視聴した。

「悪夢」

http://www.nhk.or.jp/baribara/special/akumu.html

 

 いやー、すごいドラマだった。

 素晴らしかった。 絶賛しておく。

 ストーリーは、こちらのレビューを参考にしていただきたい。

バリバラ「悪夢」レビュー 〜障害者ドラマを超えた何か〜

http://togetter.com/li/754668#c1700249

 実は僕はこのレビューを読んで、再放送を観てみようという気になったのである。うまく後半のネタバレを伏せてくれているのもありがたかった。

 公式サイトでも触れられていないし、この人も触れていないけど、主人公をはげますマキちゃんという明るい少女(少年? どっちだかよく分からない)の存在が大きい。劇中でどんな役割を果たすのかは、それこそネタバレになるから書けないけど。

 さて、公式サイトでは「ハートフルコメディー」ということになってるけど、正直言ってあまり笑えない。扱っているテーマがシリアスで重いということもあるけど、こわいシーンがいくつもあるからだ。

 特にこわいのは、統合失調症の主人公(ハウス加賀谷)がいつも苦しめられている幻覚「シロイヒト」。

 特撮も何も使わず、昼間の普通の商店街を、裸で白塗りの男たちがのたのたと歩いてくるというシュールな映像。通行人は誰もそれに気がつかない。

 手抜きのように思えるかもしれないけど、これはリアルな表現なんである。幻覚というのは(まだ見たことはないけど)、多くの場合、現実と同じぐらい存在感があるのだそうだ。実際にそこにいるかのように思える。だから特撮なんか使うとかえってぶち壊しなんである。

 幻覚のために奇行に走る主人公。しかし、周囲の健常者にはそれが見えないから、何をやってるか分からない。そのギャップがうまく表現されている。

 しかも幻覚と現実の区別がつかないというのが、ちゃんとクライマックスの伏線になっている。

 ちなみに主演のハウス加賀谷自身、12歳の時から統合失調症を発症しており、彼の実体験も作中に反映されているのだそうだ。

 で、やっぱり素晴らしいと思えたのは、「健常者お断り」と書かれた障害者だけが集まる店の描写。

 本物の障害者(脚がない人、顔が変形している人、脳性まひの人、などなど)が大勢出演してるんだけど、最初こそ緊張するが、だんだん普通に見えてくるのだ。

 そうか、こんな風に普通に障害者を描いても良かったんだな。

 このへんはほんと、テレビのタブーを大胆に破ってくれて快感である。

 さらに秀逸なのは、この店に迷いこんだ主人公が、障害者たちにおびえ、「ここに普通の人はいないのか!?」と叫ぶところ。彼は明らかに障害者に対する差別意識を持っている。

 同じ台詞を健常者に言わせたら単に不快になるだけだけど、精神障害者である主人公に言わせるのだ。

 障害者を扱ったドラマというと、差別表現回避に過敏になるあまり、障害者を無垢な存在として描きがちなんだけど、ここでは障害者でさえ差別意識を持っていることを示すことで、逆に障害者も普通の人間であることを表現している。

 この脚本書いた人、ただ者じゃない!

 少なくとも、この表現方法は僕には思いつかなかった。いや、思いついても「これ、やっていいの?」と悩んだと思う。

 そこに現われた謎の男が、主人公に「食べれば障害が治る」という不思議な果実を渡す。ただし、副作用として、過去の記憶を失う。

 障害に苦しみながら生きるか、それとも記憶を失うか。

 この二者択一が秀逸で、特にクライマックスで大きな意味を持ってくる。

 で、ラスト。

 一見するとハッピーエンドのように見えるけど、「ほんとにそれでいいの?」と視聴者に考えさせる、そんなもやもやした結末になっている。

 安易な結論は出ないし、出しちゃいけない──そこまで考えて作っている。

 ぜひ多くの人に観てほしい。再々放送、もしくはソフト化を熱望する。