石原さん、『親は知らない』にはそんなこと書いてありません!

 今、一部で大反響を呼んでいるこの記事なのだが、

石原都知事 小学生が売春で1000万円稼ぐ日本人を嘆く

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110216-00000006-pseven-pol

> 読売新聞が出した『親は知らない』という本によれば、携帯を使って売春する子供が、小学生でもざらにいるという。300万円、1000万円も貯めて、それを駅のコインロッカーに隠している。こんな風俗は他の国にはまずない。

 小学生が売春で1000万! 成人の売春婦だって、そんな額はなかなか稼げまい。1回5万でも200回だ。小学生が親の目を盗んでそんなにやりまくれるわけがない。

「こんな風俗は他の国にはまずない」と言っているが、日本にだってないだろう。

 ネットでは「本読んでそのままそれを信じるとかメディアリテラシーなさすぎだろ」とか「石原さん、こんな荒唐無稽な話を読んだだけで信じるんですかねぇ?」と叩かれている。だが、本当に『親は知らない』という本にはそんなトンデモないことが書いてあるのだろうか? 検索してみたが、実際にその本を読んでみて検証した人が見つからない。

 ならば自分で検証するしかない。そこで昨日、書店に行き、買ってきて読んでみた。

 隅から隅まで読んでみたが、結論から言うと、石原氏が言っている、ケータイを使って売春して1000万円もコインロッカーに隠している子供なんて、どこにも出てこない。

 この本に載っているのは、出会い系サイトやプロフで知り合った男から性的被害を受けたとか、学校裏サイトにひどいカキコされたとか、高校生がゲーム会社のシステムをハッキングしたとか、ネトゲにハマってひきこもりになったとか、ネットを通じてドラッグが売買されているとか、宗教勧誘メールが来るとか、P2Pで児童ポルノ画像が流通してるとか、母親が娘の裸の写真を売って儲けてるといった話ばかりで、売春に関してはほとんど触れられていないのだ。ましてや小学生の売春なんて取り上げられていない。

 それに近いのは、22〜24ページに出てくる中学3年の女の子の話ぐらいだ。ケータイを通じて知り合った相手に下着を売ったり、下半身を触らせたりしているそうだが、「これまで稼いだのは約一〇万円」だという。確かにけしからん話ではあるが、「1000万円」とは2ケタ違う。

「コインロッカー」に至っては、そんな単語すら出てこない。

 すなわち、『親は知らない』という本について石原都知事の言っていることは、100%間違いなのである。

 どこか別の本に書いてあったこととごっちゃにしているのか、それとも頭の中で創作したエピソードなのだろうか。

 念のためにコンビニに行って、石原発言の載っている今週号の『週刊ポスト』も買ってきた。

 シリーズ〈天下の極論「日本リセット計画」第4弾〉で「徴兵制もしくは奉仕労働で若者を叩き直せ」というタイトル。石原氏は「高校を卒業した年齢の子供は、1年間か2年間、軍隊か警察か消防に入る義務を課すべきだ」と主張する。

> 韓国には今も徴兵制があるが、その韓国の若者と日本の若者を比べてみればいい。人生に対する積極性がまるで違う。(後略)

 あのー、石原さん、韓国の犯罪率が日本よりはるかに高いことをご存知なのですか?(笑)日本と韓国を比べたら、明らかに日本の若者の方が健全なんだけど。

http://www.nationmaster.com/graph/cri_mur_percap-crime-murders-per-capita

 そもそも軍隊というものを健全な若者を育成する機関と勘違いしているふしがある。冗談じゃない。徴兵制のある国の若者の方が健全だという証拠はどこにあるのか。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1311158833

「我欲の時代だからこそ軍隊経験で修練を」と言ってるけど、石原氏自身、終戦の年には13歳で、軍隊で鍛えられた経験なんかない。自分が理想とする「非実在軍隊」を信じちゃってるんじゃないかという気がする。

 他にも、日本の財政問題について述べた後で、こんなことも書いている。

> これは平和の毒です。あまりにも長く緊張のない時代が続いたために、国家としての我欲が張り、社会が堕落してしまったのである。戦後65年も安穏と過ごせた国など他にない。(後略)

 なんかもう、露骨に平和を害悪とみなしてるんだよね、この人。

> この頃、古い話をよく思い出すが、親しく付き合っていた実存主義の哲学者、レイモン・アロンと日本の学園紛争について話したことがある。あれは若者たちのエネルギーが爆発したものだが、結局は何も解放されず、何も生まずに終わった。そういう話をしたら、アロンは「フランスも同じです。しかし、私は彼らに同情するね」という。

> なぜかというと、彼らが青春を青春と自ら捉えて自覚するための条件を、みんな我々が奪ってしまったからだという。それはすなわち戦争であり、戦争によってもたらされる貧困です、とアロンはいっていた。

> 自分の生命、存在が脅かされる経験もせず、物が氾濫して貧困もない。アロンは「思想も神も死んだが、彼らはただ精神生理現象で騒ぐしかない」とシニックに笑ったが、今の若者を見ていると、その無駄に爆発するエネルギーさえ失ってしまったとしか思えない。

 何とまあ、戦争と貧困がないと、青春を青春として捉えられないというのだ! なんちゅー暴論ですか。ここまで平和と安全を築き上げてきた日本で、戦争と貧困を待望しますか。

 当たり前だけど、戦争も貧困も無い方がいいに決まってるのだ。今でも世界には戦争や貧困に苦しんでいる国があるが、そこに言って「こういう国では若者が青春を謳歌してるんだろうね」とか言ったらどう思われるだろうか。

> 逆に、我欲を満たすための野放図な害毒は日本を駄目にする。必ずしも取り締まればいいわけではないが、諸外国では目にしないようなものが、メディアにもインターネットにも横行しているようでは、やはりおかしいといわざるを得ない。差別で言うわけではないが、同性愛の男性が女装して、婦人用化粧品のコマーシャルに出てくるような社会は、キリスト教社会でもイスラム教社会でもあり得ない。日本だけがあってもいいという考え方はできない。

 CMはどうだか知らないけど、アメリカやイギリスのテレビ番組には、ゲイの男性なんていくらでも出てきますけど。

「差別で言うわけではないが」と言ってるけど、同性愛や性同一性障害を「我欲を満たすための野放図な害毒」なんて言うのは、どう見たって差別だろう。

 当然、マンガ規制についての話も出てくる。

> 大手出版社は東京都の新しい青少年健全育成条例(通称・マンガ規制条例)に反対しているが、私はここで規制される近親相姦や変態的なものであっても、描くなとはいっていない。ただ、子供の目に触れないところに置けといっているだけだ。中学生の姉と小学生の弟がセックスするとか、父親と小学生の娘が関係するなんてマンガが、刺激的な絵や擬音で子供たちのイメージを増幅しているのは問題だ。活字ではなく視覚的にわかりやすい形で子供たちの目に触れるのはよくないし、だいたいそういうものが一般に手に入る場所で売られているのは日本くらいです。(後略)

 活字ならば近親相姦や変態的なものを描いてもOKらしい。どういう理屈ですか。小説家のくせに、活字の影響力を信じてないんですか。 つーか、かつてあなたの小説に若者が影響を受けて「太陽族」が大量出現した歴史を忘れたんですか。

 ちなみにこの号の『週刊ポスト』、カラーページに「ドクターK『幻の女性外性器研究』前戯編」という記事が載っていて、計16ページにわたって、前戯のテクニックが解説されている(笑)。全裸の男女が抱き合ってる写真(男の方はシルエットになっているが)とか、女性のおっぱいを揉んでる写真とか、尻の割れ目を指で愛撫してる写真とかも、堂々と掲載されている。袋とじにすらなっていない。

 僕の買った『週刊ポスト』は、コンビニの成人用の棚には置かれていなかった。当然、SEXのテクニックを写真入りで詳細に解説したこの雑誌が、未成年でも自由に買えるわけである。これは石原都知事的には規制対象にはならないのだろうか。「マンガじゃないからOK」とか「ゲイや近親相姦やロリコンじゃなければOK」という基準なんだろうか。

 他にも、この人のメディアリテラシーに疑問を抱いてしまう箇所が。

>(前略)尖閣列島の問題が起きて集団的自衛権が論じられるべきだが、それを認めて腰をあげないとアメリカはもう日本を守りませんよ。中国と合意して朝鮮半島も捨てるのではないか。その証拠に、最近アメリカは東シナ海に遊弋している原潜に搭載している長距離弾道ミサイルの配備をやめた。

「その証拠に」と言ってるけど、SLBMを積んだアメリカの戦略原潜は、最初から東シナ海にはいないはずである。だってトライデント?の射程は1万1000kmあるのだ。わざわざ中国や朝鮮半島の近くに配備する意味なんかない。

 よくある話だけど、攻撃型原潜と戦略原潜を混同してたり、巡航ミサイルと長距離弾道ミサイルを混同してるのかもしれない。

http://obiekt.seesaa.net/article/121966485.html

 石原氏の文章の最後はこう結ばれている。

> 若者は情報の整理ばかりに長けて、思い違い、勘違いもしなくなった。だから失恋さえしないというんだ。「あの女は自分よりランクが高いから」と思えばアプローチもしないから。

> しかし、勘違いこそ人間向上の必要条件です。それがない人間はうらやましくないし、怖くない。今こそ国を挙げ、恥をかいても他者との相剋に挑み、無気力を克服する若者を育てなくてはならないと思う。

 うわあ……(唖然)。

 石原氏がなぜあれほどメチャクチャなことを言いまくってるのか、原因が分かったような気がする。この人、自分が間違いや勘違いをすることをぜんぜん恥だと思っていないのだ。むしろ「情報の整理」を否定し、「勘違いこそ人間向上の必要条件」だと信じてる。

 それこそ勘違いだろ。