『シベールの日曜日』

 

 最近、自分の書いた作品を読み直すことが多い。今、読み返しているのは、『トワイライト・テールズ』に収録した『怪獣神様』である。僕はこの作品を書く前に、「平成版の『怪獣使いと少年』」または「怪獣版の『シベールの日曜日』」にしようと目論んだ。まあ『怪獣使いと少年』については今や説明不要だろうけど、『シベールの日曜日』については、知らない人が多いだろうから、ちょっとだけ解説が必要だろう。

 

 フランス映画である。主人公の男はベトナム戦争で負傷したのがきっかけで、心に重い傷を負っている。

 ある時、彼は一人の少女に出会う。しかし、彼女の名前も知らない。彼女は両親に死に別れ、何かの事情で別の名前を与えられているのだ。だから彼女は名前を名乗らない。しかし、知り合った男はしだいに心を開いてゆく。

 ある日、ついに彼女は真の名前を告げる。『シベール』と。

 その直後に映画は悲しい結末を迎える。男は少女にみだらなことをしようとした変質者と間違われて、警官隊に撃たれて死んでしまうのだ。

 一人になった少女は、警官に向かって泣きながら口走る。

「私にはもう名前はないわ!」

 

 そう、僕はこの映画に感銘を受けて、『怪獣神様』を書いたのである。

 ちなみに『シベールの日曜日』に感銘を受けた人は僕以外にも大勢いるらしい。たとえば吾妻ひでおさんは『シベール』という題名のロリコン漫画同人誌を出した。これは今でもプレミアがつくほどの名作である。(僕も手に入れてはいない)