8日(金)それは抗議されるのは当たり前

 この日は2時より、東京駅の近くの店で、『コミックバンチ』の編集さんとマンガ家の玉越博幸氏の3人で、『魔境のシャナナ』の今後の展開を話し合う。

「大バカなことを全力でやる」というのがこのマンガのコンセプトなのだが、打ち合わせも真剣である。アンケートの結果は、第1回ではけっこう良かったのだが、その後はちょっと苦戦気味。何しろ毎週新連載がはじまっている入れ替わりの激しい雑誌だけに、さらに順位が下がると打ち切られかねないのだ。

 どうすれば読者の興味を惹くことができるか、どうすればもっと面白くなるか、3人の男が頭を寄せ合って大真面目に論議する。

 その後、4時半からは文藝春秋の女性編集者と会う。エッセイを渡したついでに、原稿を頼まれる。作品の発表の場が増えるのは嬉しい。

 6時半からは八重洲ブックセンターで、東京創元社トークイベント。大森望氏との対談で、創元SF文庫のベスト10作品について語るというもの。

 事前に二人で別々にベスト10を選んだのだが、10位までの中で二人とも入れているのが、フレドリック・ブラウンの『天使と宇宙船』1冊だけというのが面白い。

 いやー、いいんだよね『天使と宇宙船』。特に「ミミズ天使」! 高校の頃に読んで、あのものすごいオチに、「こんな話、書いていいんだ!?」とひっくり返ったもんである。

 大森氏の話によれば、「ミミズ天使」のオチについて、「SFじゃなくファンタジーじゃないのか」という意見もSF界にはあるらしい。そりゃメインのアイデアを成立させている設定はファンタジーだけど、わけの分からない超常現象を理詰めで解き明かしてみせる手法は、まさにSFのそれだと思うのだが。

 前の席で「オチを教えて」と言っている女の人がいたけど、「だめ! あれは自分で読まないと面白くない!」と力説した。

 他にも、ハミルトンの「プロ」について熱く語ったり、ベスト10には入ってないけどハーバートの『鞭打たれる星』が大好きだ、てな話を。

 思ったんだけど、『鞭打たれる星』って、今流行の「萌え改変」ができるよね?

 イベント終了後、二次会へ。創元だけじゃなく、僕や大森氏とつき合いのある他の出版社の関係者もいっぱいで、総勢20人以上に。

 飲み食いしながらいろいろ話しているうちに、出版界における表現規制の話になった。やっぱりどこの出版社も、差別表現に過敏になっているらしい。

 ただ、僕の印象だとどうも、編集者の中には、この問題に不勉強だったり、問題の本質を理解していない印象のある人がいるんだよね。

 たとえば早川の編集さんは「最近は『屠殺』という言葉が使えなくて」とぼやく。はて? カート・ヴォネガット・ジュニアの『屠殺場5号』が『スローターハウス5』と改題されたのは、「最近」じゃなく、30年も前の話だったはずだが。

 僕の前に座った別の編集者はこう言った。

「うちもよく抗議が来ますよ。特にユダヤ人団体から」

「へえ、ユダヤ人団体ってそんなにうるさいですか?」

「ええ。ユダヤ関係の本を出すたびに抗議してくるんですよね」

「へーえ、大変ですねえ」

 ……と、同情しかけて気がついた。

「ちょっと待て! あんたのとこ、徳間じゃん!!」

 そう、その人は徳間デュアル文庫で新しくスタートするシリーズ『ダイノコンチネント』の担当さんだったのだ。

 いやー、それは抗議来るわー。徳間は宇野正美の『ユダヤが解ると世界が見えてくる』とか、ヘンリー・フォードの『国際ユダヤ人』とか、インチキなユダヤ陰謀本をさんざん出してきたんだもん。今でも三百人委員会がどうのイルミナティがどうのって本、出しまくってんだもん。ユダヤ人団体にマークされて当たり前だわ。

 たぶん、徳間から陰謀本の新刊が出るたびに、ユダヤ人団体が内容をチェックしてるんだろう。過去の経緯を考えたら、さすがに同情できないね。