野尻抱介『南極点のピアピア動画』(ハヤカワ文庫)

 ボーカロイド「小隅レイ」と動画投稿サイト「ピアピア動画」の登場するSF連作集。『SFマガジン』に発表された3編に、書き下ろしの「星間文明とピアピア動画」を加えた4編。ちなみに表紙イラストはKEI氏。

 株式会社ドワンゴ代表取締役川上量生氏があとがきを書いてるんだけど、オビにも引用されている

>そもそも野尻さんがちゃんとしたSF作家だったというのは驚きだった。

 というくだりに笑った。まあ、ニコ動の「先生何やってんすかシリーズ」の尻Pしか知らない人は、そういう印象持つんだろうなあ。

 野尻さんのSFの魅力は、ひとつの発明・発見から、大風呂敷がどんどん広がってゆくところ。いまどき珍しい、すごくピュアなサイエンス・フィクションなんである。

 最初の3作のうちで僕が好きなのは、「コンビニエンスなピアピア動画」。まさか「ファミマ入店音シリーズ」がハードSFになるなんて思いもよりませんでしたわ。

 書き下ろしの「星間文明とピアピア動画」も抱腹絶倒の傑作。喫茶店で読みながら、何回噴き出したことか。7000万年以上前に地球に飛来した星間文明からの使者「あーやきゅあ」が、ボーカロイド「小隅レイ」をモデルにして実体化。彼女をいかに国家や警察の手から守り抜くか……という発端部が、何でこんな話になっちゃうのか(笑)。

 いや、登場人物たちの判断とか、展開する作戦とかは、いちいち理屈には合ってるんですけどね。確かに、予想される妨害を排除して、星間文明とのファーストコンタクトを成功させるには、そうするのが一番だろうと。

 でも、そこから繰り広げられる光景のシュールでバカバカしいことときたら! 宇宙からもたらされたたったひとつのオーバーテクノロジーのせいで、世界がものすごい勢いで変容していく様が、もう楽しくてしょうがない。 「弾幕の中に『お前らの愛で見えねえ』コメントが混じっております」とか、いかにもありそうで笑っちゃう。

 この状況、僕らにとってはユートピアなんだけど、エイリアンに対して疑心暗鬼な側からしたら、恐ろしい侵略だろうなあ。はじまっちゃったら止めようがないもんなあ。

「SFとは筋が通ったバカ話である」というのが持論の僕ににとって、まさにど真ん中ストライクな話でありました。

 

 しかし「ザラブ星から来てみました」っていったいどんな歌なんだ(笑)。