ライトノベルをめぐる仮説いろいろ

 最近、togetterで取り上げられた話題を中心に。

●最近の男性向けラノベに女性主人公が少ない理由

http://togetter.com/li/728375

 コメント欄ではこんな意見がある。

>男性と女性はなんだかんだいって思考回路が大きく異る。ので文章で全部想像しないといけないラノベでは女性心理を完全にシュミレート出来る能力が必要になる

 いや、その仮説だと、過去に『スレイヤーズ!』『ARIEL』『ヤマモト・ヨーコ』などなど、男性作者が書いた女性が主人公の作品がヒットした理由が説明つかないよね?

 あと、女性でないと女性の心理が描けないというのであれば、同じ理屈で、「宇宙飛行した経験がないと宇宙飛行士の心理は描けない」とか「人を殺した経験がないと殺人者の心理は描けない」とか「美少女にモテまくった経験がないとハーレムものの主人公の心理は描けない」ということになってしまうんだけど、誰もそんなことは言わないはずだ。

 無論、ここ数年のライトノベルに限って言えば、「非常識なヒロインに振り回される男性の語り手」というパターンが多いのは確かだ。その理由? 単純だよ。

涼宮ハルヒの憂鬱』が大ヒットしたから。

 あれがスタンダードになって、後続の作家が影響を受け、同じようなパターンの作品を書くことが多くなった。さらにそれがジャンルの中の多くを占めるようになり、「ライトノベルとはこういうもの」という誤った固定観念が一部に生まれてしまった。

 まあ、僕も『プロジェクトぴあの』でやったけど、突拍子もない言動をするヒロインを描くのに、ストレートに描写するより、別に語り手を配置して、その視点からワンクッション置いて語る方が、何かと描きやすいのは確かだ。 ヒロインの内面をあえて描かないことで、「こいつ、何考えてんだ?」という驚きを表現できるのである。

 でも、それはあくまで執筆上の手法のひとつにすぎないんであって、普遍的な法則でも、遵守すべき規則でも、ヒットするための条件でもない。

 僕も『ギャラクシー・トリッパー美葉』とか『神は沈黙せず』とか『アイの物語』に収録された作品群とか、女性主人公の一人称の作品を何本も描いている。それが不自然なことだとは思わない。

 だからライトノベル作家が普通に女の子を主人公にしたり、女の子の視点から物語を語りたければ、そうすればいいだけのことだ。自分の頭の中に勝手に規則を作って縛られる必要なんかない。

●【チート?】俺TUEEEじゃない異世界モノ作品【ラノベ

http://togetter.com/li/727172

>異世界ラノベというと、とかくチート能力とか俺TUEEEとかが目に付きますが、そういう主人公でない作品って無いかな?から始まりました。

>平凡で普通な主人公がちゃんと頑張る話ってないかなあ。

サーラの冒険』は?(笑)

 そもそも僕が何で『サーラ』を書いたかというと、当時の異世界ファンタジーというと、主人公がすごい力を持ってたり、王族の血を引いてたり、世界の命運を背負ってたり、巨大な悪と戦ってたりといった話が多くて、それに反発を覚えたからなんだよね。

 特殊能力を持っていなくても、剣が強くなくても、高貴な血でなくてもいい。悪の大魔王と戦ってなくてもいい。ごく普通の少年が精いっぱいがんばって、ちょっとした冒険をする。そんな話があってもいいんじゃないか……と思ったんである。

 で、当たったよ。つーか、僕の小説で、発行部数で『サーラ』を超えるものが未だにないんだよ(笑)。

 誤解を招かないように言っておくけど、僕は「チート能力とか俺TUEEEとか」系の話を否定しない。作者がそういう話を書きたいなら、いくらでも書けばいい。

 要はそれが面白いか面白くないかだ。

 面白いか面白くないかは、当たるか当たらないかは、ジャンルや話のパターンで決まるわけじゃない。個々の作品の出来不出来による。おそらく「俺TUEEE」系の話でも、つまらない話はいっぱいあると思う。 『サーラ』みたいな話でも、下手な作家が書いたら退屈な作品になっていたはずだ。

ラノベ新人賞で「まるでシリーズ第一巻の様な投稿作品」が過半数を占めているという悩み

http://togetter.com/li/716859

 これも前の話と同じで、既成のライトノベルをいろいろ読んだ結果、「ライトノベルというのはこういうもの」という固定観念にとらわれてるんだろうな。

 シリーズものを書きたいと思う気持ちは分かる。でも、そのためには、まず新人賞を受賞してデビューしなくてはならず、そのためには応募作はきちんと完結していなくてはならない……という基本的なことが理解できてないというのは、やっぱりダメだと思う。

 ダメなのは、「ライトノベルとはこういうものだから、こう書かなくてはいけないんだ」とか「今はこういうパターンの話が受けてるんだから、こういう話を書こう」という考え方だ。

 自分が本気でその話を面白いと思って書くのと、「他の人がこう書いてるから」とか「こう書けば受けるだろう」とかいう考えで書くのは、似てるようでぜんぜん違う。

 分かりやすく言うと、『スター・ウォーズ』が大ヒットしてるからと言って、『惑星大戦争』や『宇宙の七人』や『スタークラッシュ』を作っても当たるとは限らないよ、ということ(笑)。

 いや、個人的には好きなんだけどね、『スタークラッシュ』。あれは映画としてはダメダメだけど、監督が自分の好きなものを自由に作ってるのが分かるから。結果的に当たらなかったけど、好感は持てる。

結論:

 枠にとらわれるな。当たるかどうかなんて気にするな。

 何が当たるかなんて、どうせ誰にも分からない。作家にできるのは、当たる確率を上げるために、少しでもいい作品を書くこと、それしかない。

 どんな作品でもいい。とにかく自分の好きなもの、自分が面白いと思うものを全力で書け。